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【ライブレポート:サヨナラの最終回】オンラインでしか実現できないアイデアで描き出した物語とは…

オンラインという状況をこんなに味方につけたライブ、今まで観たことない。
それが、観終えてまず出てきた感想だった。

「サヨナラの最終回、どうぞ」と紹介されて画面が切り替わるとそこにはメンバーの姿が…なかった。映ったのは、一人の少年が裸足で歩いているアニメーション。彼のスマホに「拝啓、10年前の僕へ」というメッセージが届くと画面がメンバーのいるステージに切り替わる…。

サヨナラの最終回01

イントロからハヤシ“TiG”タイゴ(Gt)が温かみのある音を響かせ、シバタカヲル(Vo/Gt)の丁寧に語り掛けるような歌声が優しい“あなたが読む物語”から演奏が始まった。優しさがありつつも演奏は力強く、特に間奏で一気に駆け上がるように盛り上がり、その直後に音がスッと引いていって歌を目立たせる、という展開に強く引き込まれた。忘れ病のせいで「君」を忘れていってしまう「僕」が主人公の、短編のような曲。曲の温かみが心に沁みると同時に、どこか胸がぎゅっとなるような感覚もあった。
そんな温かい雰囲気から一転、高橋サウザー北斗(Dr)によるダンサブルなドラムとTiGのソリッドなギターが唸るメロディーから“才或る兎は侮らなゐ”へ。こう(Ba)&北斗のリズム隊2人によるスリリングなフレーズがステージの空気をガラッと変える。何の捻りもない感想かもしれないが、とにかくかっこいい…!!と画面に釘付けになった。無観客なのに、熱狂するフロアの様子が脳裏に浮かんだ。ここまでの2曲でサヨサイの楽曲の振り幅の広さを遺憾なく発揮した、緩急のはっきりとした流れが本当に絶妙だった。

サヨナラの最終回04

サヨナラの最終回05

ここで再び映像がアニメーションの少年へ切り替わる。スマホに表示された「あなたの叶えたい夢は何ですか?」というメッセージに「夢なんてない」と返す彼。その直後に流れる、彼がいじめられている様子。「この世界は僕にとって地獄だ」という彼に「そうだよ」と言葉をかける、謎の人影…。
映像がステージに戻り、演奏されたのは“I‘m i”、《いつから自分を愛せなくなった?》という一節に先ほどの少年の姿が重なり、その言葉が痛いほど切実に感じられた。眩いギターのフレーズが広がる中、繰り返される《僕が僕の生きる“意味”になれるように》という言葉が、あの少年を暗闇の中からありったけの力で引っ張り上げようとしているかのようにも聴こえた。

サヨナラの最終回03

「拝啓、10年前の、一番最悪だった時の、シバタカヲルへ」と話し始めるシバタ。あのアニメーションの少年は、10年前のシバタ自身だった。
「君が思ってる通りこの世界は君に優しくないし、君が思っている通り誰も君のことを理解してくれないし、君が思っている通り確かにこの世界は、地獄なんだよ。」
「だけどその、地獄を歩いていくんだよ。地獄を歩いて、地獄の先に行くんだよ。もし君がまだ地獄の先に行きたいなら、もし君が立ちふさがる何かを蹴っ飛ばしてやりたいと思うんだったら、俺が裸足で傷だらけの君に、靴を貸してあげようと思う。それを履いて一歩ずつ10年後の今日の僕まで返しに来てください。」

《きっともっと綺麗な青が描ける だから超えてけRECORD》 “RECORD”の出だしの一節が、先程のシバタの言葉と、綺麗に繋がった。10年前の自分へ届けるかのように、溌溂と歌い上げるシバタの歌声を聴いて心が晴れやかになった。生き生きと演奏する4人の姿を観て自然と笑顔になると同時に、ちょっと泣きそうにもなった。
曲が終わりまだ音が鳴り止まぬ中、ギターを置いてステージを降りたシバタの前に、何とアニメーションの少年=10年前のシバタカヲルが現れた!先程の言葉通り、10年前の自分に靴を貸すシバタ、靴を受け取るシバタ少年。差し出された靴を履いて、シバタ少年は再び歩き始めた…。

サヨナラの最終回06


アニメーションとリアルタイムの共演という、予想外過ぎる演出を用いたサヨサイ。あのアニメーションも実はシバタ自身が制作したものである。ライブ後、サヨサイの公式Twitterにて「“ワールドエンドで待ち合わせ” これにて閉幕!」という一言がツイートされていた。『ワールドエンドで待ち合わせ』とは彼らが2019年にリリースしたアルバムである。彼らはオンラインでしか実現できないであろうアイデアでアルバムの世界を、自分たちの個性を見事に描き出してみせた。
虚無感を抱えたシバタ少年が10年後に辿り着いたのが、ステージ上で生き生きと歌うあのシバタカヲルであり、生命力溢れる演奏を繰り広げていた、サヨナラの最終回だった。シバタの物語と共に聴くことで、サヨサイの曲たちがもっと愛おしくなった。たった30分の中に、これほどのものを作り上げた…驚嘆の一言に尽きるライブだった。

(鈴木美穂)

セットリスト
1.あなたが読む物語
2.才或る兎は侮らなゐ
3.I'm i
4.RECORD

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