野洲たか

東京在住。 実現のあてもなく、いつか映像化したい映画原作を投稿します。いつの日か、その…

野洲たか

東京在住。 実現のあてもなく、いつか映像化したい映画原作を投稿します。いつの日か、その映画が劇場公開されるまでは、縦横無尽な脳内上映をお楽しみいただけますと幸いです。エブリスタでも活動中。

最近の記事

短編小説『永遠よ、こんにちは。』

* 「お化粧もお洒落もしなくてよくなりました。おかげで、その時間を有効に使えています」 深夜のラジオ番組で、丸の内のОLさんがそんなことを言っていた。コロナ禍で在宅勤務になって、お出かけするのも近所で買い物するくらいだから、そんな必要はなくなったということだ。なんだか、悲しいきもちになった。 わたしにとって、お化粧もお洒落もやらなければならないことではない。やりたくてしている、きもちを上げるためにしている。もちろん、人それぞれだろうけれども。 百二十年間、そうやっ

    • 短編小説『エスパー茉莉の秘密の職業』

      * 「茉莉さん、殺人課より依頼があった。土曜の朝に申し訳ないね」  とレナード・マリエンバート博士から携帯に電話があった。モスクワの学会へ出張中のはずだから、向こうは朝の五時頃だろう。  わたしはがっかりした。駅前に新しくオープンしたケーキ屋の長い行列へ一時間も並んで、ようやく次に呼ばれる順番だったのだ。そこの和栗のモンブランはイートインのみで、お昼には完売してしまう。事前予約もネット販売もやっていない。しかも、十一月だけの限定メニューなのである。 「レナード、ごめんなさ

      • 短編小説『ガラスの航海』

        The Glass Voyage/ A Short Story 1、 その冬、ジェイクは、リトル・イタリーの小さなカフェ・ショップを8万ドルの現金で買い取った。 店の名前は、フラ・アンジェリコ。ルネサンスの画家の名前だった。 地元の若者たちが、エスプレッソやカプチーノ、パニーニ、ジェラートを楽しんでいる。 ある朝、ジェイクは、楽屋にいるあたしに会いにきて、あの仕事から足を洗ったから、俺と結婚してほしいと頼んできた。 これからは、カフェのオーナーとしてま

        • 短編小説『天使の愛人』

          1、宇宙なのか深海なのか判らない 人気俳優の窪田拓斗(30)が自殺した。 クリスマスの夜、ニューヨークのブルックリン橋から飛び降りたのだ。 衝撃的な出来事だったから、二ヶ月くらいはテレビや新聞で騒がれた。海外のニュースでも取り上げられた。 彼の死は、人びとの記憶にしっかりと刻みこまれた。 そういう意味では、予言通り……サンデー湯河の願いは叶ったわけである。 予言通り……? いや、もしかしたら、あれは呪いだったのかも知れない。 事件から一週間後、 「葬式に来てください」

        短編小説『永遠よ、こんにちは。』

          短編小説『変身するカフカくん』

            *  その城塞の形をした職業安定所には、くたびれた灰色の背広の老人がひとりで働いていた。  太陽が傾きかけた頃、背広の老人のいる窓口へ、やけに耳の大きな青年カフカくんが訪ねてきて、 「なにか仕事がしたいのです」  とお願いした。  老人は逆に質問した。 「どんな仕事ができるのかね?」  考えてみたら、カフカくんはなにもできない。  それも仕方のないことだった。  これまでに働いたことがないのだから。 「なにかできるようになったら、またいらっしゃい」

          短編小説『変身するカフカくん』

          短編小説『もう一度、温めればいい』

          *  昼すぎ、ノルマの原稿を書き終え、キッチンでカレーライスを食べていたら、ぼくの携帯が鳴った。知らない番号だったので、セールスかと思ったが、とんでもない用件だった。  結果、その悲劇的ともいえる会話を交わしているあいだ、せっかくのカレーライスはすっかり冷めてしまったけれど、もう一度、温めればいいだけのことだった。  それは、こんなふうに始まった。 「高梨真守さんですか?」  電話の向こうで、女が言った。 「どちらさまですか?」  とぼくは聞いた。 「牧野糸子

          短編小説『もう一度、温めればいい』

          短編小説『彼の宇宙船、彼女の惑星』

          *  田中コボルの本当の名前は、ナヤ・サガラ・ハラヤカタサァハナルという。誰も、そのことを知らない。なぜならば、彼は、ほかの渦巻き銀河からこっそりと訪れた調査員だから。  この惑星に赴任して、はや三年。人類のフリをして、中央区荒獅子町に3LDKの高級マンションを借り、何不自由なく、ひとり気ままに優雅に暮らしている。その生活の様子はすべて、母星に四次元トランスミットされる。それ自体が、重要な任務なのだ。  毎朝、必ず、七時に起きる。目覚ましは必要ない。パジャマのままでキッチ

          短編小説『彼の宇宙船、彼女の惑星』