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多言語の学習

外国語の学習は難しい。一つの外国語だけでも大変である。しかし、世の中には数ヶ国語をぺらぺらしゃべれる人がいる。このような人は先天的に言語の学習能力が高いのだと思う。筆者の言語学習能力は決して高くないと思うが、外国語の学習は好きで外国語学習が趣味と言ってよい。


言語はそれを話す人々が持つ文化の結晶のような側面があると思うので、ある国の言語を学ぶことは、歴史や習俗を学ぶのと同じように、その国の文化を学んでいるとも言えよう。


外国語の持つもう一方の側面は実用的なもので、外国人と話すためである。伝統的には、この側面が圧倒的に重要であったが、最近では事情が大いに異なるようになった。それはひとえに機械翻訳技術の進歩がもたらしたものと言えよう。


ここ10年来の機械翻訳技術の進歩には目を見張るものがあると言って過言でなかろう。これはニューラル・ネットワーク、とりわけディープ・ラーニングという人口知能(AI)の一分野のもたらしたものである。今や便利な小型翻訳機まで開発されていて、1台の翻訳機で百を優に超える言語の翻訳が自在にできるまでになっている。


それも音声で受け取った文章を立ち所に翻訳して音声で返してくれるという、人間の同時通訳まがいのこともやってのける。実に驚くべきことが可能に成ったわけであるが、もちろん問題もある。最大の問題は誤訳が発生してしまうことである。いずれにしても人間の言語能力は極めて高いので、その一部の能力に近づけたに過ぎないわけであるが、そうであったとしても、いろんな場面でいろんな使い方が可能である。


今後、急速に能力が高まって行くであろう。そのような意味で、外国語学習の持つ実用的意味は急速に縮小しつつあると考えられる。


対照的に趣味的な意味合いが増しつつあると考えられよう。これは剣道や柔道などの武術の辿った道である。いかなる武術の達人も一丁の拳銃に勝てない。従って、武術の習得を戦いの直接的な手段を得るためと考える者はないであろう。武術の持つ他の側面、すなわち、身体と精神を鍛えて、戦闘や通常の日常生活に生かすという側面が最も重視されていると思う。武術はスポーツ化されて新しい職業や娯楽を生み出しているが、語学習得にも同じようなことが起こるであろう。


語学学習の非実用的な側面をもう少し考えてみよう。語学学習には人間の知的欲求を満足してくれる所が大いにある。どの国の言語でもそうであるが、言語は膨大な知識体系である。いくら学んでも学び尽くすことはない。しかもその中には微妙な意味のつながりがあって、奥深い世界が内蔵されている。自国語と対比すると、意外な発見が無数にあって、我々の好奇心を満たしてくれる。


一般に趣味は金の掛かるものであるが、語学学習は金を掛けなくても可能である。語学学習のために外国旅行をしたり、語学教室に通ったりしたらかなりのお金が掛かるが、本を読んだり、テレビやラジオの語学講座を受講する分には、お金はほとんど掛からない。


どんな学習でもそうであるが、語学学習の場合には、倦まずたゆまず継続的に努力を続けることが、取り分け重要である。例えば、ヒアリングの能力を身に付けようと思ったら、ともかく聴き続けることである。最初のうちは、チンプンカンプンで何も聞き取れない。それがある日、聞き取れる単語が出て来る。我慢して聴き続けていると、だんだん分かってくる。ただし、その進歩の速度は極めて遅い。先の見えない努力を続けることが我々の精神に深みを与えてくれるものと思う。


語学の学習には思い掛け無いメリットもいくつかあろう。その一つは、頭を柔軟にしてくれることだと思う。例えば、自国語以外に二つの外国語を習得している場合には、一つのものに三つの詞が対応していることとか、一つの意味の表現に三つの方法がある事を知ることを通して、バカの一つ覚え的な思考ではなくて、一つの事を多面的に見る見方ができるようになると思う。


また、複数の同系統の言語を学習すると、例えば、英語のほかに、ドイツ語、フランス語、スペイン語などを比較すると、言語相互の類似性や独自性が見えてきて、汲めども尽きぬ興味を与えてくれる。例えば、「学校」は上に挙げた四つの言語の順序で、”school”、”Schule”、” école”、” colegio”である。「会社」は”company”、”Unternehm”、” entreprise”、” empresa”であり、「テレビジョン」は” television”、” Fernsehen”、” télévision”、” televisión”である。これらを見ているといろいろな繋がりの有無が見えてきて大変面白い。


機械翻訳がここまで進歩すると、語学の学習法そのものにも変化が出て来る。既に英語の知識があるならば、英語を学習しながら同時にドイツ語やフランス語やスペイン語のような近い系統の言語を学習することができるであろう。筆者の場合は既に中国語と韓国語の知識があるので、これを利用して同系統のアジア語の学習をしたいと思っているが、ヨーロッパ系の言語と違ってアジア系の言語は個別性が強いので、思うようにいかない。


一方、単語の意味を調べたり、発音の学習は機械翻訳や音声認識、音声合成のお陰で、格段に学習しやすい。自分の発音を音声認識が正確に認識してくれれば、かなり正確に発音できていると考えて良いであろう。


現在、英語が世界共通語的な役割を担っている。英語を介して、いろんな文化の人々と交流ができる。しかし、この形では表面的な浅い交流しかできない。それなりの情報交流は可能であるが、相手の心の深いところを理解し合うことはできない。これができるためには、英語のレベルがネイティブ並に高く無ければならないであろう。これはほぼ不可能である。


しかし、相手の言語を相互に学習すると、相手の文化の本質的な所が分かってくるので、思いがけなく深いレベルの交流が可能になるであろう。マイナーな言語に関心を持って学習するということ自体が、相手との目に見えない壁を一挙に下げてくれる可能性がある。筆者はそのような事を何度か経験したことがある。


機械翻訳技術のお陰で、10年もすれば、言葉の壁をほとんど意識せずに外国人と付き合えるようになるであろう。それに伴って世界は大きく変わると思うが、悪い方に変わらないで、世界の平和に貢献するとか、学術の発展が促進されるなど良い方向に変わって欲しいものである。


最後に一言。外国語の学習に限らず、長期間を要する学習につきものであるが、遅々として成果が出ないため、再三にわたりギブアップしたくなる。このような時にどうするかであるが、筆者の場合は「今ここでギブアップしたら、これまでの努力も時間も無駄になってしまう。それでもよいか?」と考えることにしている。お役に立てば幸いである。

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