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渡独77日目 ドイツの煙草は

 写真のように物々しい。「喫煙は肺を悪くします」という文句と、喫煙に由来する疾患をイメージさせる何種類かの写真はほぼすべてのたばこ製品にプリントされている。私の吸っているゴロワーズは22本8ユーロ(今は円安で1ユーロ145円ほどなので、ひと箱の煙草が1000円を超えるわけだ。)というのも殆どが税金だろう。購入へのハードルが高めに設定されている。

 その割に喫煙者はよく見かける。統計的にも日本よりドイツのほうが喫煙所の割合が高いが、それ以上に分煙がされていないことが見かけの喫煙者が多く感じる原因だと思っている。大学内に灰皿兼ゴミ箱のようなものは多数設置されているし、煙草も購買で買える。歩き煙草は場合によっては咎められると聞いたが、大学内外共に見かける。喫煙者とベビーカーがすれ違う。喫煙の自由という権利がこちらのほうが大きく認められている感じがするし、日本の状況と比べてもより高い税金を払ってより自由が認められているというだけのことなので、あまり直観に反する事態ではなかった。保健教育面がどうなっているのかまでは知らないが、購入時に年齢確認は必要なのと値段が高いという点では青少年が手に取ることもある程度抑止されていそうだ。

 というような背景からか喫煙に対するタブー感が異なるのは当然だが、面白いのは男女差である。日本は男女の喫煙率に大きく開きがある(男性は25%を超えるのに対し女性は10%を割ることもある。)が、ドイツはわずかに数%だ。納得のいく理由は見つかっていない。妊娠に関するリスクが枷になっていると考えるのであれば、合計特殊出生率の高いドイツのほうが煙草を吸う女性が多いのは妙だ。女性向けの煙草のようなものはこちらでまだ見かけたことがなく、女性をターゲットにしようという働きがなくても同程度の男女が買うのだろう。(そもそも個人的には可愛げのあるパッケージの甘めの煙草を女性向け煙草と呼ぶことにも若干の馬鹿馬鹿しさを感じるが、まあここでは置いておいて。)また、日本のほうが男女の経済格差があるにせよ、ここまで顕著な喫煙率差を生む要因とは思えない。文化、慣習、イメージ、そういったものの影響かと思っているが、その背景について読んだわけではない浅学で書けることがない。

 ところで私が吸っているのはgauloisesというフランスの銘柄だ。今まで吸ったことのある中ではジタンが好きだったので、イメージの近いものを選んだ。吸い心地が軽くて、口の中で藁を燃しているような感じが好きだ。ジタンほど特徴的な香りはないので、ベランダに出てコーヒーと一緒に楽しんでいる。冬が訪れ始めているので空はどんよりとしていて、ここは霧がよく出る。やる気が出ない朝に寒さとカフェインで目を覚ましながら、アパートの中庭を眺めながら吸う。隣の棟とは十分に離れているし、その時間に隣人を見ることもない(見られたところで誰も咎めないと思うが)ので、意識が口の中と冬の中庭の空気に集中して心地いい。私の部屋には大きなガラス戸しか換気できる窓がないので、そこからベランダに出て、吸っている間開けっぱなしにしておいて、湿気た新鮮な空気を部屋にも入れる。戻ると気分が多少マシになっている。とはいえ週に3,4本ほどの話である。

 受動喫煙はするのもさせるのも嫌いなのでこんな中年男性のような楽しみ方しかしていない。そのうち低用量ピルを再開するし、値段も安くないので頻度を減らしていこうと思う。私にとってはまだやめようと思えば平気でやめられる程度の娯楽だが、こう思えるうちに、この箱を吸いきったら、やめてしまってもいいかもしれない。税金を払って社会に貢献し、コーヒーがうまくなり、寿命も縮めてくれるという一石三鳥のものだとは思っているが、私が依存を始めたら殴って止めてほしい。

(参考にしたページは以下。)
がん情報サービスのHPより、「がん統計」から「喫煙率」
喫煙率:[国立がん研究センター がん統計] (ganjoho.jp)

Stiftung gesundheits wissen (ドイツの健康促進を目的とした財団らしい)のHPより、"Rauchen in Deutschland - Zahlen und Fakten"  (喫煙に関する数値と事実)
Rauchen in Deutschland - Zahlen und Fakten | Stiftung Gesundheitswissen (stiftung-gesundheitswissen.de)


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