今野書店 「いい日だった、と眠る枕元に置いときたい本」 選書フェアレポート
西荻窪の今野書店さんで4月末から5月31日まで開催された選書フェア、
『毎日のあたらしい料理』『いい日だった、と眠れるように』
刊行記念 選書フェア
「いい日だった、と眠る枕元に置いときたい本」
が無事終了いたしました。
たくさんの方にお越しいただき、心よりお礼申し上げます。
すごくすごく嬉しかったです!
そしてこのフェアを企画してくださったのが、今野書店の花本さんです。
花本さんは色んな方に本を勧めてくださり、お客さんとこんなに距離が近いなんて!と驚きました。そして、本屋さんはやはり出会いの場でもあるんだなあとしみじみ嬉しくなりました。
私自身、今回のフェアでどれだけの奇跡的な出会いがあったか!
感極まってしまうこともありました。
今回選書するにあたってコメントを書き、花本さんがフリーペーパーを作ってくださいました。
選書コメントの転載をご快諾くださったのでこちらに記しておこうと思います。
もう選べない!というのが本音で…すごく楽しい作業時間でした。
『吉祥寺デイズ』 著者:山田詠美
私が人生の中で一番影響を受けたのは、山田詠美さんです。エイミー先生が書かれているものは全て無条件に美しいのですが、吉祥寺デイズを読んで衝撃を受けたのがエイミー先生が最近神戸がお気に入りだということ!中学生の時、塾をサボって三宮のサイン会に行きました。あの時、出待ちしてました。エイミー先生があの街を楽しんでいるところを想像するだけで幸せです。
好きすぎて、息子の名前にも一文字いただいてしまいました。
あと、「彼女の等式」のフライドポテトと豚汁は最高の献立だといまだに思っています。
「八月のひかり」 著者:中島信子
この本を読んでから、ずっと主人公の「美貴」のことを考えています。
母子家庭の貧困の問題を描いたこの作品は、読了後、健気な少女に涙するだけではなく、読み終わった後「怒り」に近い感情に襲われました。
今のこの世界の現実であり、本来子供にはこんな目に合わせてはいけないと思っています。
大人にこそ是非読んでほしい物語です
『わたしの茶の間』 著者:沢村貞子
沢村貞子さんの本で一番読んでいるのが「わたしの茶の間」です。
「新婚世帯のやりくり法」という章で、「人並みの暮らしとは、他人と同じ暮らしをすることではなく、今のあなたにふさわしい、個性のある人間らしい暮らしのこと」とあり、これを読んだ時にははっとしたものです。
今でも自分に喝を入れたい時、肩の力を抜きたい時、この本をさっとバッグに入れて子供の習い事の待ち時間に読んでいます。
『恋は底ぢから』 著者:中島らも
大好きな中島らもさん!
「恋は底ぢから」の「その日の天使」は、人生の中で途方に暮れた時にいつも支えになっているエッセイです。
読んだのは中学生の時。それからずっと悲しい時にはいつもその日の天使を探してしまいます。
見つからなくても、このエッセイを思い出すと笑ってしまうので、きっとらもさんは私にとって「一生の天使」なのだと思います。
『食記帖』 著者:細川亜衣
口にするだけで、声がうわずってしまうほど尊敬してやまない細川亜衣さんの「食記帖」。
細川さんの日常の記録とともにその日食べたものが綴られています。
淡々としているのに悲しくなるほど美しい食べ物の描写。
細川さんの目線を通すと野菜や果物にはみずみずしと光さを感じ、お肉やお魚には通っている血、命を感じます。
官能的なのに清潔なレシピに、畏怖の念しかありません。
食べ物は舌先だけで味わうのではない、ということを細川さんの料理から学んでいます。
『おーい ぽぽんた』 茨木 のり子 編集委員 / 大岡 信 編集委員 / 川崎 洋 編集委員 / 谷川 俊太郎 編集委員 / 岸田 衿子 編集委員 / 柚木 沙弥郎 画
「おーい ぽぽんた」この本を何度読んだかわかりません。
「わからんちん」「きりなしうた」中学生のお姉ちゃんも、小学校1年生の息子もベッドによんであげるとけらけら笑って「もう1回!」と言う。
この詩集を読んでいると、私も日本語のリズムにゆらゆらと委ねているような気持ちになります。
キュートな詩、勇ましい詩、ロマンチックな心が洗われるような詩。
子守唄のように子供ために読んでいたのが、いつの間にか自分のために口ずさんでいます。
『ぐつぐつ、お鍋』 アンソロジー
「鍋」にまつわる著名人のエッセイを収めたアンソロジー。
いかにも胃に響く描写のエッセイもさることながら、お鍋の周りのエピソードも魅力的です。
つくづくお鍋とはコミュニケーションの一つでもあるものだなあとおかしくなってしまいます。
「親しい友人と鍋を囲む楽しみは、まさに人間の官能と精神が結びついた好例に違いない」と記したのは神吉拓郎です。
今のこの世の中、気軽に同じお鍋をつつくということが遠くなってしまいました。この本を読んでいると殊更懐かしくなります。
その代わり、湯気の向こうに上気した頬を見れるということは親密な証拠とも思うのです。
『るるぶ びじゅチューン!の旅 モデルとなった美術作品が見られる全国27カ所をご案内』
私たち家族の生活を変えてしまったのが「井上涼さん」です。
思えばもうかれこれ10年、私たち家族は井上涼さんの展覧会があればかけつけ、グッズや本を常にチェック。
びじゅチューンのモチーフになった作品を見に行くために旅行を組んだり、井上さんのおかげですっかり「美術」と仲良くなりました。
井上さんの著書はすべて「推し」ですが、このるるぶはびじゅチューンをご覧になっていない方にも楽しめる美術館ガイドブックです。
夜寝る前に「次はここに行きたいねえ」と子供達と妄想するのが至福の時間です。
『このあと どうしちゃおう』 著者:ヨシタケシンスケ
大人気のヨシタケシンスケさんのこの絵本。
いつか人の生に終わりがくることを「このあとどうしちゃお!」とポジティブに描かれているのだけども、やはり切なくていつも読み聞かせの途中で声がつまってしまいます。
死んだらどうなるのかな、こうなったらいいなあと考えると、生きているうちにたくさんしたいことが浮かんできた。少年の気負わない自然な感情の変化に心が掴まれます。
生まれ変わったり、別のものに姿を変えたり、どんなふうになったって、いつもあなたを見守っているよと勇気をくれる絵本です。
「プンスカジャム」 著者:くどうれいん
「プンスカジャム」くどうれいんさんの初の児童書作品。ハルくんの怒りがこちらに痛いほど伝わってきて
読んでいると今すぐそばに駆け寄りたくなるほど。
怒っている時って悲しい気持ちも同時にあったりする。
子供の小さな肩をどうしても想像してしまうのです。
ハルくんはジャムを作り、いつの間にか自分の中の気持ちに変化が訪れていることに気づきます。怒る事、友達のこと、料理の効能、美味しいものの魔法。魔法のようにキュートな一冊です。美味しいものをたくさん知っているくどうさんのジャムの描写は大人が読んでいてもうっとりして、ああジャム瓶にスプーンをひとさじ入れてなめちゃいたい。そんな甘い誘惑に駆られます。
『黄色いマンション 黒い猫』 著者:小泉今日子
衝撃的な表題作から始まり、小泉さんの幼少期から現在を綴られた自伝的エッセイ。
優しくユーモアに溢れ、逞しく正しい文章はぎゅうっと切なくなるほど温かい。
読んでいると、いつの間にか涙が出ている自分がいます。
家族、生活、仕事。ふと立ち止まってどこを向いていけばいいのかわからなくなってしまった時に「大丈夫だよ」とそっと背中を撫でてくれる本です。そうだ、私こうやって生きてきたんだ、と思い出させてくれます。
「渋滞〜そして人生考」の最後の一文は、このフェアに一番相応しい文章です。
「明日は必ず来るんだもんね。ただそれを繰り返して生きればいいだけなのだ。」
『BUTTER』 著者:柚木麻子
大好きな柚木麻子さんからはこちらの一冊を。
柚木さんの本はいつものめりこみ一気に読んでしまいます。タイトルでもある「バター」。嫌いな人はいないのでは無いでしょうか。
かちかちに冷えている時の頑なさ。ねっとりとした乳脂肪がとろりとした液体になり滴っていく。その官能的な誘惑には人は勝てません。いつの間にか身も心も囚われていく。摂取しすぎたらいけないとわかっているのに、もう理性が利かないのです。誰かに堕ちていくというものはそういうことかもしれません。
そして大多数の人たちはそのバターのような魅力を持つという術を知らないのです。だから恐ろしく感じ、罵り、排除しようとします。
女性は「ちょうどいい」ということを無意識に強いられています。
そして、自分でもいつの間にかその枠の中にいることを当たり前としてしまうかもしれません。自分だけの味を知ること。自分の舌を基準にして、自分がおいしいと思うものを作ること。
生き方だって同じです。自分の一番心地いい生活を選ぶこと。誰の目も気にしない。しなやかに、強く自分を信じる。
そんなふうに思いながら、品揃えのいいスーパーマーケットにバターを買いに行きたくなります。
さしすせその女たち (角川文庫) 著者:椰月美智子
私はいつも見えない誰かを想像して、その人のためにレシピを書くのですが、よく思い出すのがこの小説の主人公の多香実さんのことです。
忙しく働きながら年子の子供を育てながら働いていて、毎日綱渡りのような生活。
大袈裟でなく、小さい子供がいるうちは本当にこんな生活で、一つが崩れるとドミノのように倒れていく。
それがわかるから、読んでいると胸がヒリヒリしてなんだか辛くて泣けてしまいます。
ユーモアがありテンポが軽く進んで読みやすいからこそ、わかりあえない夫婦の問題が浮き彫りになってくるのです。
みんな、頑張ってるよね…よし私はせめて作りやすく楽しいレシピを作ろうと思います。
『くいいじ』 著者:安野モヨコ
なんて素敵な食エッセイなのだろう!初めて読んだ時にため息をついたものです。安野先生の漫画は全て持っているほど大好きなのですが、エッセイも最高なのです(「美人画報」も素晴らしいんです!)
だってこの本のタイトルは「くいいじ」。
「や、やられたー!」とズドンと胸を撃ち抜かれました。
時折はさまれる安野先生のイラストもとてもキュート!季節や出来事とともに綴られる日記のような食事の数々が、もうたまらない。
私が一番好きな話は「菜食」というエピソードです。それは配偶者である庵野秀明さんがおおよその菜食者であるという話(とんこつらーめんなどは食べるので厳密ではないそうです)。
旅館などに泊まり、お肉やお魚を食べないと言うと、料理人は逆に燃えるようで趣向の凝らした精進料理を出してくださるそう。
この話を読むたびに、思い出すのは高野山での出来事。私も祖父が亡くなった時にお寺に泊まったことがあり、それはそれは精進料理が美味しかったのです。人の食の話で、悲しい出来事だったはずの自分の食を思い出す。しかも絶品だった。
くいいじなら、私だって負けません。
クッキングパパの男のスタンダード・レシピ (講談社+α文庫) 著者:うえやまとち
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000208003
クッキングパパってすごいんです。だってもう30年以上続いて、レシピを出し続けている。
もう途方もない話です。
この文庫は漫画に登場する料理レシピだけを収められていますが、これがもう、まさに読んでいるだけで楽しい!
このレシピブックのワクワク感はどんな料理研究家だって敵いません。
しかし本来、料理とは生活の中の一部であって、働いている時間の中で献立を考えてやりくりしたり、元気のない人に振る舞ったり、気の置けない仲間と乾杯したり、食卓の周りにはたくさんの物語があるはずです。
そこを蔑ろにしないことで、レシピがもっと身近に感じられる料理書籍が出来るのでは、と思うのです。
私の目指すところはそこだ!などと、大河ドラマのようなクッキングパパを眺めながら、また途方もない夢を見ています。
子どもたちが安心して生きていけるように。明日もいい日になる、と思えるように。
このフェアで4297円の皆様からの募金をお預かりしました。
本日付で「公益社団法人東京子ども子育て応援団」へ寄付いたしました。
ご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。
また再び、たくさんの方に直接お礼が言えるような機会があるように、頑張っていきたいです。
今野書店さん、いらっしゃったみなさま、宣伝してくださった方々、版元の左右社さん、KADOKAWAさん、ありがとうございました。
「新しいお月見」というプロジェクトに参加しています。 https://note.com/new_otsukimi みんながボランティアで運営しておりますので、もし良かったら上記アカウントにサポートいただければ、ありがたいです。 どうぞよろしくお願いいたします。