休み


私は休みを愛している。ヤスミ、という言葉の響きも気が抜けていてなかなか可愛らしい。
休みなんか誰でも好きだろ、と思われるだろうが、私は異常に好きだと思う。休みに執着している。小学生の頃から仮病を使ってたまにズル休みをしていた。誰もいない家で1人、布団を被ってお粥を食べながら見る笑っていいとも!は背徳感があって特別楽しかった。当時KinKi Kidsの堂本剛が、剛紫(つよし)という名義でテレフォンショッキングに出演しており、持っていた自由帳にネームペンで剛紫、と書き留めたのをぼんやりと覚えている。

大学3年生の夏にアルバイトの面接に落ちまくって3ヶ月ほど働きもせず、コロナ禍で授業がリモートだったためほぼ家からも出ず、人に週に一度会えば良い方、という生活を送っていたが大変過ごしやすかった。曜日という概念がなくなり、土曜日が永遠に続く。月曜日が遠すぎて霞がかって見える。月曜日に辿り着けなかった者たちのシャレコウベがあちこちに落ちている。社会や人間と関わってないと不安になる、なんてことはあまりなかった。元々人間関係が希薄な私にとってこの生活は快適で、存外穏やかな日々だった。私には引きこもりの才能があります。もちろんバイトのわずかな賃金とはいえ収入がない生活は金に余裕がなかったが、奨学金で家賃光熱費を払い、幾ばくかの貯金でその他の出費は賄えていた。さらに私は横になってラジオを聴きながらネットサーフィンをし、住宅街を縦横無尽に歩き回ったりたまにアマプラで映画を観るだけで何日も潰せるうえ、ほぼ交際費がかからないため3ヶ月間は特に不自由なく暮らせた。私は老後2000万円なくても生きていける。

悲しいことに、4月に社会人になってからというものの、大好きな休みが週に2日しかなくなってしまった。耐えられない。それなのに月に1度は休日の夜を潰して飲み会を開催する巨悪な上司がいる。6月の飲み会は予定がありますの一点張りで回避することができましたが、来月は、なんとスポーツ大会が催されるらしいです。一から了まで意味不明。土曜日に?会社の人と?スポーツ大会。すみませんがあなたは頭がおかしい。さようなら。

日々の仕事は最悪だが、家に帰ると本当に毎日楽しい。スキップをして帰宅するなり、自分なりのニュージーンズを踊ったり、自分なりの気円斬をエアコンに向けて放ったり、テレビに向かって大きな声で相槌を打ったり、ジャンプしたり、全く退屈しない。一人暮らしというよりも、自分と2人で暮らしているという感覚に近い。人の目がない鍵付きの空間は私にとって唯一心安らぐ場所であり、オアシスだ。地球上の生物が滅亡したとしても、少し泣くとは思うが、しばらくはだらだら楽しく過ごせる自信がある。実家で自室が与えられなかったストレスの反動がまだまだ続いている。

先週の日曜日は1人でカラオケに行き、スマイレージ「夢見る15歳」の『なぜかさみしいよ』というフレーズの福田花音の歌い方を完璧にマスターした。日曜に2時間で1,100円という破格で利用できるうえ、自宅から徒歩2分、さらに軒下にベンチと灰皿があり、防音対策が全くされてないことを除けば最高の店だ。先日映画グラン・トリノを見てからと言うものの、外で座ってタバコを吸うと気分が良くて仕方ないので、そこから30分動けなくなりました。


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