見出し画像

縫製仕様書をエクセルで書く事のデメリットを改めて考えてみた。

1・最近のアパレル製造業向けクラウドサービスの傾向

 最近、弊社が立ち上げ中のアパレル製造業向けの生産管理ソフトを含めアパレル製造業という分野に向けたクラウドサービスが少しづつ増えてきていると感じる。

 簡単に言うと「クラウド上で生産管理・仕様書管理をしませんか?」というサービスだ。私がこのNOTEで伝えたい事は、この手のサービスを実際に考える際、単に「業務をクラウド化する」という切り口でサービスを作る事は大いに気をつけなければならないという事だ。

 昨今のアパレル業界は、コロナによる影響も相まって地殻変動の真っ最中で、少し挙げるだけでも、ユニクロに代表される巨大SPAの台頭、商材・コストでのわかりやすい差別化が難しくなった既存メーカーの縮小、そしてインフルエンサーに代表される非アパレル層のマーケット参入、オンデマンドサービスの増加、極端な短納期・多品種小ロット、ざっとこの様な特徴を持っている。何か起こりそうな予感がするマーケットだと言える。

 業務をクラウド上で行う事で新たにこの業界に参入してくる方々の取っ掛かりの管理コストを下げる事はあっても、既に業務が確立されている経験豊富な既存プレイヤーにとって最適と言えるのか。ここについては細心の注意が必要だ。
 BtoBの業界特化型サービスを考えるなら、本当にその機能が効率化に直結するのかを常に考え続けなければならない。その中でも良い例としてあげられるのが縫製仕様書のクラウド化だと考えている。

2・エクセルこそ縫製仕様書ソフトのスタンダードであるという事実

  「縫製仕様書の作成」は、エクセルで最適化されている。エクセル程汎用性・機能性共に優れていて、かつ多くの人が使い慣れた縫製仕様書ソフトは無いのではないだろうか。

 弊社は最初、縫製仕様書をクラウド化する事が何かの解決になるのではないかと考えていた。そしてそんな仮説を持って様々な事業所へヒアリングに伺う度に、縫製仕様書のデファクトスタンダードの立ち位置を確立しているのは間違いなく「エクセルだ」という現実に触れる事になった。主にユニフォーム等のある程度商材が固定化された商材を扱う分野では既存の縫製仕様書ソフトが使用されている事があるが、変化に富んだトレンドアパレルを扱う現場で「縫製仕様書ソフト」が使われている所はあまり見た事がない。

 慣れ親しんだエクセルという汎用ソフトと業務フローのタッグを崩す事は生半可なものではなく、遥かに上回るユーザー体験・価値を提供出来ない限り、現場担当者・決済権者どちらの目線であっても非常にハードルの高いものだ。属人化ブーストの最骨頂である「世界のエクセル」にどの点で勝てば良いのか?結局課題は何なのか?しばらく迷走していた時期が有った。(今もしているかもしれない)

 市場の比率を見ると、アパレル国内市場の8割超がスーツやユニフォームとは違うトレンドアパレルで構成されていて、アイテムの寿命はユニフォームと比較して短命である事が多い。また、アイテムが持つ指図要素の変数が非常に多いと言う特徴を持つ。例えばシャツ一つを例に上げてみても、シルエット・ディティール・素材や糸の配色・ボタンの多きさや色、それを付ける位置、使う糸、、等々全てに置いて都度丁寧に指示が必要な箇所が多すぎるのだ。

システムの得意分野は繰り返す同じ業務の自動化だと定義した時、縫製仕様書作成においては変則・イレギュラーの指図が多すぎてシステムを使う事で得られる業務効率化という効果はほぼ無いに等しい。

 現時点では、トレンドアイテムの仕様指図の工数を削減する為には、システムを介す事での劇的な効率化は難しいと考えている。事実トレンド市場の仕様指図の多様性をまるっと受け止めてきたのは他ならぬエクセルで、それぞれの会社の使いやすいフォーマットに自由に再編され続ける事で、仕様書作成ソフトのスタンダードとして圧倒的なシェアを持ち続けているのである。

3・エクセルで仕様書を作る最大のデメリットとは

 それでもなぜ弊社が「縫製仕様書」という存在を業務効率化の阻害要因として捉えているか。自分が業務をする中で感じている大きなデメリットに触れたい。エクセル管理をしている事業所の最も大きなデメリットは「情報のサイロ化」、これに尽きるのではないだろうか。そしてこの状況がアパレル業界のDX化を阻害していると考えている。

情報のサイロ化とは、要するに情報の一元管理ができていない、俯瞰性が低い状態を指す。例えば、ある担当者が一部商品の納期や仕様を確認したい場合、業務に関わる全部署の誰でもすぐに目的の情報に辿り着ける様な状態になってないのではないか。担当者が自分の使いやすい形で目の前の情報を管理し、自分のみに都合の良いファイル名となって部署単位のフォルダに整理する。この現象はエクセルの汎用性が高いが故に起こる。
 サイロ化する事で、担当者に聞かないと最新の情報が分からないという状況を招く。その人が休んでも良い様に、紙の書類をファイリングしたり、またその中から欲しい情報を探す事も無くならない。さらに、過去品番の一部を参照したいと考えてもそもそも「自分が知っている過去品番」に限定化・俗人化されている為、隣の担当者が知っているかもしれない貴重な過去データを活かし切れない。
 これらの現象がエクセル管理によって起こる「情報のサイロ化」という現象の最大のデメリットだ。

4・アパレル製造の現場へ与える悪影響

 社内では情報のサイロ化を引き起こすエクセルでの仕様書管理だが、社外、そして産業に与える影響としてはどうだろうか。国産アパレルの比率は驚くほど低く、悲しい事に2020年現在で3%を切っている。国内の縫製工場は半世紀の間で1/5程度に縮小してしまった。

 最も大きな原因は海外生産の工賃の安さで、国内生産は到底コストで競えず産地の空洞化が進んでいる。昨今の業界全体へのブラックなイメージも相まって縫製を志す若者も少なく、縫製士の平均年齢が60歳を超える工場も少なくないなど、高齢化も本当に深刻な問題だ。私自身一時は非常勤講師として若い人材へ服作りの愉しさを教えていた時期も有るが、志のある人材がこの分野を目指そうとしても、十分な新人教育体制を持った職場は多くないし、仕事として稼ぐ事も決して簡単ではない。

 もちろん工場はいかに生産効率を上げていくかに心血を注いでいる。しかし、アパレルメーカーから届く縫製仕様書フォーマットがバラバラである事が業務の効率化を阻んでいる。各社で異なるフォーマットの縫製仕様書に異なる粒度の情報が散在しており、工場内での指図を統一するまでの補完業務に恐ろしく手を取られ、手戻りも多い。同じメーカー内でもブランドが違えばフォーマットが違うのは当たり前で、同じブランド内でも担当者が違えば別のフォーマットになっていたりする。少なく見積もっても数十種類のフォーマットの縫製仕様書が、利益率向上にあえぐ国内縫製工場に降りかかっている。
 社内でも会社を跨いだ情報のやり取りでも負の連鎖を引き起こす。これこそ、弊社が解決したい最も大きな課題感の一つだ。

5・サービスが目指すビジョンとは

 弊社がアパレル向けのクラウドサービスの立ち上げを考えた当初から、縫製仕様書のフォーマットがバラバラだと言うテーマを取り扱ってきた。弊社の目指すところは、工場サイドにとっても効率化を助ける為の物である事はもちろん、何よりそれを扱うメーカー側の膨大な生産情報が、現在進行中の品番も二次利用としても、利活用可能なデータ群としてしっかりと蓄積されている状態を目指す事に他ならない。

 今後、更に多品種小ロット化していくであろうアパレル業界にとって、これらの情報をいかに利活用するかが、今後の業界の行方にかかっていると信じている。そして、自分自身をひとりの服が好きな消費者として考えてみた時に、そんな新しいアパレルの世界を見てみたいという思いを持って日々の業務に取り組んでいる。これからのアパレルはもっと自由に、より多様な表現で人類を包み込む事ができると信じている。

あとがき

 弊社サービスのベータ版は近いうちにリリースされますので、どんな形でも気になった方は弊社サービスページ私のTwitterからご意見やご感想をいただけますと、とても励みになります。
どうぞよろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?