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米国政府調達における原産国決定:全地球測位衛星システム (Global Navigation Satellite System: GNSS) の原産国

 本事案は、タイで最終組立が行われた全地球測位衛星システムの米国政府調達における原産国について、アリス・A・キペル 規則・教示部長 (Alice A. Kipel, Executive Director, Regulations and Rulings) が署名する法的拘束力のある最終決定書です。バイ・アメリカン法との関係から、関連する判決、税関判断の引用も多数あり、ソフトウェア、プログラミング、PCBアッセンブリーの原産国決定に与える影響など、示唆に富んだ内容となっています。専門用語に訳者注を加えつつ、ほぼ全文の仮訳を作成しているので、関連業界で貿易実務に携わる方々への良い執務参考資料になると思います。

本件は、1979年貿易協定法第3章(合衆国法典第19編第2511条以下)及び米国税関規則第177部B節(連邦規則集第19編第177.21条以下)に従い、特定の全地球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)R12i レシーバーの原産国に関する最終決定について、2024年3月1日付でT社に代わって提出された要請に対する回答である。T社は、連邦規則集第19編第177.22条(d)(1) 及び第177.23条(a)の意味における利害関係者であり、したがってこの最終決定を要請する権利を有する。また、T社は米国税関規則第134.32条(m)(連邦規則集第19編第134.32条(m)) に基づく原産国表示要件が免除されるかどうかの決定についても要請した。

事実関係

T社はコロラド州に本社を置くデラウェア法人で、農業、建設、地理空間輸送産業向けの産業技術の生産と設計を専門としている。本事案の争点は、GNSS R12iレシーバーであり、貴社はこれを「厳しい環境下での測量及びマッピング」用に設計されたと説明している。

貴社は、GNSS R12iレシーバーが以下の7つの主要部品で構成され、タイで最終的にシャーシに組み立てられると説明している。
·           メインボード・アッセンブリー
·           電源・通信ボード・アッセンブリー
·           アンテナエレメント・アッセンブリー
·           無線インターフェース
·           アンテナ低雑音アンプ
·           バッテリーSIM
·           450MHz無線機

これらのコンポーネントのうち、メインボード・アッセンブリー、電源及び通信ボード・アッセンブリー、アンテナエレメント・アッセンブリー、無線インターフェースの4つは米国で製造されている。特筆すべきは、これらの米国製コンポーネントのうち3つをプリント基板 (PCB) アッセンブリーとしていることである。メインボード・アッセンブリーは、中央処理装置 (CPU)、ランダムアクセス・メモリー (RAM)、フラッシュメモリー・モジュール、RFプロセッサー、ベースバンド・プロセッサー、全地球測位システム (GPS) コンポーネントなど、GNSS R12iレシーバーの「重要な特性 (essential character)」を提供する主要なPCBアッセンブリーであると説明されている。これらのコンポーネントは、米国で表面実装技術(Surface Mount Technology:SMT) を使用してボードに組み立てられる。さらに、無線インターフェースは、74点の部品が表面実装技術でベア基板に組み立てられた別個のPCBアッセンブリーであると述べている。また、電源及び通信ボード・アッセンブリーは、表面実装技術を使用して回路基板に組み立てられた526点の部品を持つPCBアッセンブリーであり、GNSS R12iレシーバーのすべての通信機能を含むと説明されている。

主要部品の2つ、アンテナの低雑音アンプとバッテリーSIMはタイで生産されている。貴社は、これらが「GNSS R12iデバイスに関して補助的な役割を果たす」と説明している。貴社は、アンテナ低雑音アンプについて、142点の部品が表面実装技術を使ってプリント基板に組み立てられたPCBアッセンブリーであると説明し、それが米国に出荷され、アンテナエレメント・アッセンブリーに組み込まれると説明している。さらに、バッテリーSIMは、5点の部品をプリント基板に組み立てることで製造されるPCBアッセンブリーであると説明されている。

最後の主要部品は450MHz無線機で、これは中国で生産される。この部品はオプションであるが、GNSS R12iレシーバーの原産国を決定する目的で、この部品を含めている。このコンポーネントの生産工程についての詳細は記載されていない。

貴社は、タイでの最終組立作業を「単純な組立」と表現しているが、これは「主に[PCBアッセンブリー]をシャーシに挿入して固定する作業」からなる。最終組立には以下のステップが含まれる。

  1. プライマリPCBアッセンブリー、無線インターフェースPCBアッセンブリー、通信及び電源PCBアッセンブリーは、2~3本のネジで固定することにより、「ホットボックス」サブアッセンブリーにネジ止めされる。その後、一連のセンサーテストが行われる。

  2. アンテナ・アッセンブリーは2本のネジで「ホットボックス」に固定され、無線モジュールは4本のネジで「ホッ トボックス」に取り付けられ、「ホットボックス」アッセンブリーは一連の信号テストを受ける。

  3. キーパッドは接着剤と2本のネジでシャーシに取り付けられる。

  4. バッテリー・コンパートメントの床とバッテリー・コンパートメントを組み立て、それぞれ2本と4本のネジでシャーシに固定する。

  5. バッテリーSIMは4本のネジでシャーシに取り付けられる。

  6. PCBアッセンブリーとアンテナエレメントを含む「ホットボックス」サブアッセンブリーが4本のネジでシャーシに取り付けられる。

  7. バッテリーコンパートメントドアは、2本のネジでシャーシの外側に取り付けられる。

  8. 様々な機械部品がシャーシに取り付けられる。

  9. 4つのコンプライアンスラベル、オーバーレイ、シリアル番号ラベルがシャーシの外側に取り付けられる。

  10. 一連の機能テストが実施される(リークテスト、キャリブレーション確認、ユニット入出力テスト、ユニットジャイロスコープ・テスト)

その上で、GNSS R12iレシーバーの主要コンポーネントを製造するために、あらゆる段階で様々なサブコンポーネントが使用される。また、小さな機械部品や追加のサブコンポーネントは、最終組立時に製品に追加される。貴社は、これらすべてのサブコンポーネントについて、部品が20カ国以上から供給されていることを示す表を提出し、「単一の国が供給国として支配的である」ことはないと説明している。これらの「サブコンポーネント」のいくつかは、貴社が「主要コンポーネント」として指定した品目よりも高価であることに留意すべきである。しかし、最も高価なサブコンポーネントは、主にGNSS R12iレシーバーの外殻に関連しており、デバイスの機能の中心ではない。

さらに、GNSS R12iレシーバーはT社独自のソフトウェアなしでは機能しないと説明されている。ソフトウェア開発には「100万時間以上の開発時間が費やされ」、コードの67%は米国の開発者によって、33%はドイツの開発者によって書かれたと推定している。貴社は、この専有ソフトウェアはさらに米国で「ソフトウェアビルド」を受け、そこで構成ソースコードから機械可読バイナリにコンパイルされたと述べている。このソフトウェアは、米国でメモリー・コンポーネントにフラッシュされ、製造工程の一部として主要PCBアッセンブリーに組み立てられると説明されている。合計すると、GNSS R12iレシーバーの価値の70%は、この独自ソフトウェアの結果であると貴社は推定している。

争 点

  1. 米国政府調達におけるGNSS R12iレシーバーの原産国はどこか?

  2. GNSS R12iレシーバーは19 CFR 134.32(m)に基づく原産国表示の要件から除外されるか?

法制及び分析

原産国判定

米国税関は、改正された1979年通商協定法タイトル III(合衆国法典第第19編2511条から第2518条)を実施する税関規則第177部のB節(連邦規則集第19編第177.21条から第177.31条まで)に従い、米国政府への販売に供される製品について、米国の法律又は慣行における特定の「バイ・アメリカン」規制の免除を認める目的で、物品が指定された国又は機関 (訳者注1) の製品であるか、又はそのような製品になるかどうかについて、原産国に関する助言的教示及び最終決定 (訳者注2) を行う。

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