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第10話 分ちゃんと原ちゃんの会話(1)- 『未組立て』及び『分解された』物品の原産地

(2018年1月5日、第15話として公開。2021年12月9日、note に再掲。)

 原産地オタクが特恵・非特恵を問わず原産地規則の条文解釈にハマり始めると、「1ブツ、1分類、1原産地」という言葉に直面します。「ブツ」とは、捜査機関では麻薬を指すかもしれませんが、原産地の世界では「物品」、「産品」、すなわち「輸出入される貨物」を意味します。「1ブツ、1分類、1原産地」とは、一つの貨物に、原則として、一つの関税分類番号と一つの原産地が与えられることを言います。普通の貨物であればオタクの関心を引くことはありませんが、ちょっと変わった貨物となると、さっそくオタクの食指が動きます。そこで、今回はオタク向けの事例を紹介します。

 皆さん、「Do It Yourself」の木製家具を購入されたことがありますよね。大きめなカートンボックスに、説明書、部品の形に仕上がった木材、ねじ、専用の工具まで入っていて、家に着いたら旦那と子供が我先に組み立てにかかる、お馴染みのものです。さあ、そこで質問ですが、このカートンボックスに入った部品の集合体は、関税分類上、家具の部分品なのでしょうか。そして、原産地は一つになるのでしょうか。

 以下、HS商会の若手エースで何事にもクールな関税分類オタクの分太郎(分ちゃん)と、原産商事の(両親は日本人だけど)テキサス生まれシカゴ育ちで飲むと声が大きくなる原産地オタクの原乃介(原ちゃん)が、焼き鳥屋で一杯やりながらの会話が続きます。

分ちゃん) 分類上、これは部品じゃなくて、家具ですね。HS通則は、「・・・物品には、・・・完成した物品で、提示の際に組み立ててないもの及び分解してあるものを含む。」(通則2(a))と定めていますから。

原ちゃん) それはおかしいだろ。よく考えてみろ。これは部品を集めただけのものじゃないか。当然、部品として分類しなければ理に合わないじゃないか。

分ちゃん) そんなことを言ってると、原産地屋は見方が浅いって言われますよ。それでは、100メートルを超えるような巨大機械でも、そのまま税関に申告し、輸出入しないと製品分類されないということですか。そんな巨大な貨物、工場から港に運ぶまでに日本の狭い道を曲がれないじゃないですか。輸出するためには、当然、「分解して」輸送しますよね。分解されたって、これは製品じゃないですか。組み立てていない家具も同じ理屈ですよ。

原ちゃん) これだから分類屋は理屈っぽいって言われるんだぜ。いいかい、原産地規則ってえのはHS分類を随分と使ってやっているお得意様だぜ。HS分類が部品から製品に変更すれば、その製品には実質的な変更があったとして原産性を認めているんだ。それじゃ、部品を世界中から集めて箱詰めにしただけで部品の分類から製品の分類に変わっちまって、部品を収集した国が原産地になるっていうのかい。ふざけちゃいけないよ。じゃあ、その箱詰めを輸出して、輸出先で汗水たらして組み立てても、組立国が原産地にならないのかい。まったく、話にもならねえな。お得意様を粗末にすると、商売敵の「付加価値」屋に乗り換えるぞ。

分ちゃん) つまみにステーキが出ないからと言って、機嫌が悪くなっても困ります。いいですか、HSというのは多目的品目表として原産地規則でも使われているけど、メインは関税の徴収と貿易統計の収集ということはお分かりですね。そのためにも、このような取扱いが必要なんです。それに、「付加価値」屋さんはやたらと仕入値を教えろって、評判がよくないんでしょ。例外ばかり気にしないで、全体としてのHSのメリットを考えて下さいよ。

 どうも、酔っぱらった原ちゃんは冷静な分ちゃんに往なされてしまったようですね。特恵、非特恵を問わず、原産地規則の観点からは、特に機械類等において、「組立て」を基本的な原産性付与行為として認知しており、通常、HS項(4桁)又は号(6桁)の変更で表現されます。そのため、物理的な組立行為を終えてから、運送目的のために分解されたとしても、その物品が原産性を失うことはありません。一方、物理的な組立行為を伴わずに、通則2(a)の「未組立て」原則の適用により項又は号の変更をもたらす「部品の収集」は、特にEPA協定においては「原産資格を与えることとならない作業」の一つに挙げられる場合が多くなっています(ただし、このようなネガティブ・ルールを置かない原産地規則の下では、部品の収集によって原産性が付与されます。)。

 それでは、箱詰めにされた部品の集合体が輸入され、完成品として組み立てられた後に輸出されるならば、原産地規則上、どのように整理されるのでしょうか。順を追って説明してみましょう。

《第1段階:箱詰めの部品集合体を輸入する》 

 先ず、「部品の収集」は原産性を付与しないとの規定があるとします。箱詰めの部品集合体が他国から輸入された段階では、HS分類はあくまで通則に従うので完成品扱いされますが、原産地はそれぞれの部品原産地が持ち越されますので、「一ブツ、一分類、複数(部品の)原産地」となります。しかしながら、「部品の収集」についての特別な規定がなく、単に関税分類変更基準だけが適用になりますと、「一ブツ、一分類、一原産地」となります。

《第2段階:箱詰めの部品集合体を組み立て、その完成品を輸出する》 

 次に、輸入後に自国で組み立てることになりますが、いくつかのEPA協定、WTO調和非特恵規則案には「組み立ててないか又は分解してある産品」という条文が置かれています。この条文に従えば、(たとえ部品の集合体が完成品分類されるとしても)部品がバラバラな状態で輸入されたと仮定したときに品目別規則を満たすような(実際の)組立てを経た物品であれば、原産品とみなすとしています。すなわち、分類変更がなくても(完成品分類から完成品分類への変更であっても)これを救済するという意味です。ところが、「部品の収集」に原産性を与えず、さらに、このような救済規定を置かない原産地規則の下では、当該組立ては分類変更を生じないため、国を跨いで組み立てられた後の完成品は原産品になりません。一方、累積制度のある特恵原産地規則に限っての話になりますが、「部品の収集」に原産性を付与する場合には、輸出国において原産品としての部品集合体となっているので、輸入国での完成品への組立ては、原産品のみから生産された物品として原産品となります。最後に、「部品の収集」に原産性を付与しないにもかかわらず救済規定を採用していない規則の下では、非原産の完成品扱いの部品を組み立てたとしても関税分類変更は生じないため、非原産品となってしまします。

 混乱して何が何だか分からなくなってしまった方へ一言申し上げますと、この事例は農産品等のHS第1部から第6部までの物品には適用されません。さらに、「実務上の解決策」として、このような解釈論を簡単に回避する方法があります。それは、部品を一まとめではなく、普通に、分割して輸出入すればよいのです。

 さて、今回のオタク味満載のエッセイ、お気に召していただけたでしょうか。参考までに、以下に(1)上記の説明文を場合分けした簡易表と(2)関税率表解説の関連部分の抜粋を掲載しておきます。

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