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第3話 日EU・EPA原産地手続き - 不協和音の調整に苦労する日欧税関当局

(2019年7月22日、第32話として公開。2021年12月14日、noteに再掲。)

 2019年2月1日の日EU・EPA実施以来、EU側の原産地手続きに関する取扱いがどうも不自然で、果たして合意文書である協定条文をEU加盟28ヶ国の事業者及び税関職員は正確に理解しているのか極めて疑問に思うところがありました。当初、明確化が求められた案件では、「インボイスその他の商業上の文書」にいう「その他の商業上の文書」がどの文書を含むのかについて議論を呼びました。この議論は、協定解釈の次元の問題ですから、「商業上」と解釈できるか、「輸送に関する書類であっても商業上の文書に含まれるか」について、一応、専門家レベルの議論になっていたと思います。しかしながら、続いて生じた案件は、まさに信じられないような事案でした。「生産者により作成された原産地に関する申告」が一部の加盟国税関で受理されないとのことで、これは協定に明文規定があるため、案件として上がってくること自体、信じられない内容でした。

 一方で、モノローグ「体験を綴る」第7話「原産地手続きにおける日欧文化の衝突」で触れたとおり、欧州側は我が国の自己申告制度実施上の手続きについて、「やりすぎ」との感情を抱いているようです。すなわち、輸出者が「原産資格がある」といえば盲目的にでもそれを信じるべきとのニュアンスで、我が国の輸入者は輸出者に対して原産性の有無についての詳細を照会するべきではないとの意見を持っているようです。このような状況下にあって、6月26日、ブリュッセルにおいて、「日EU・EPA原産地規則及び税関に関連する事項に関する専門委員会」の第1回会合が開催されたようです。その結果は、7月1日付の財務省税関ウェブサイトに以下の記事として公表されています。

徒然11話 (2)

 記事に記載のある「下記の文書」は採択文書として英文のまま同日公表されており、「別途周知」は7月17日に税関ウェブサイトに掲載されました。「周知」文書(抜粋)は、以下のとおりです。

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具体的な取扱い

 原産品であることに係る追加的な説明(資料)が提供できない場合について、下記(1)の通り取扱うこととします。また、当該追加的な説明(資料)を提供する場合についても、下記(2)のとおり、原産品であることを説明する際の記載事項を簡略化します。
(1) 原産品であることに係る追加的な説明(資料)が提供できない場合
輸出者自己申告に基づいて特恵待遇を要求する輸入者であって、原産品であることに係る追加的な説明(資料)を税関に提供できない者は、以下の通り、提供できない旨をNACCS上で入力できます。なお、この場合、当該追加的な説明(資料)の提供は不要です:
 1. 本年 (2019年) 8月1日からの暫定的な運用
  NACCSでの輸入申告の記事欄(税関用)に、下記のとおり文言を入力する。(和文若しくは英文で入力する)
  日本語の場合: 私は産品が原産品であることに係る追加的な説明は提供できません。
  英語の場合: I cannot provide an additional explanation on the originating status of the product.
 2. 本年 (2019年) 12月(予定)からの運用
  NACCSでの輸入申告時に、原産地識別コードを入力する。(詳細については別途周知)
(2) 原産品であることに係る追加的な説明(資料)を提供する場合
原産品であることに係る追加的な説明(資料)を税関に提供することとした場合には、以下のように取り扱われます。
 1. 輸入者による特恵待遇の要求が「輸出者自己申告」に基づく場合:
原産品であることを説明する際は、下記事項を記載してください。この場合、輸入者は別添様式の「原産品申告明細書」を使用することが可能です。
  (イ) 仕入書の番号及び発行日(仕入書が複数ある場合に、原産品が含まれる仕入書について記載して下さい。)
       (ロ) 原産性の基準を満たすことの説明
       (ハ) 説明(資料)作成者
 なお、輸出者は同EPA第3.17条1に基づき作成した輸出者自己申告及び提供する当該情報の正確性について責任を有します。
 2. 輸入者による特恵待遇の要求が「輸入者自己申告」に基づく場合:
原産品であることを説明する際は、下記事項を記載してください。この場合、輸入者は別添様式の「原産品申告明細書」を使用することが可能です。
       (イ) 仕入書の番号及び発行日(仕入書が複数ある場合に、原産品が含まれる仕入書について記載して下さい。)
       (ロ) 原産性の基準を満たすことの説明
       (ハ) 説明(資料)作成者
 なお、輸入者自己申告は、輸入者が同EPA第3.18条に基づき産品が原産品であること及び同EPAに定める要件を満たすことを示す情報を入手していることが前提となっています。

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 この周知文が意味するところは、これまで産品の原産性について、「情報がなければ『ない』と記載して原産品申告明細書を提出すべし」となっていた取扱いを、産品の原産性について「情報がなければ、NACCS申告にその旨を入力すれば明細書の提出を要しない」と弾力化したように思います。しかしながら、情報があるのであれば、原産品申告明細書に記載して提出するという取扱いが変わった訳ではありません。

 一連の日欧当局間のやり取りを拝見していると、欧州側は、我が国の輸入者が欧州産品の原産性に係る情報を得られないことについて日本国税関が問題視するならば、当局間の「確認(verification)」手続きで決着をつければよいとの「落としどころ」を用意しているように感じられます。しかしながら、確認手続きの結果として特恵否認ということになれば、被害は我が国の輸入者側に発生します。輸入者に原産性に係る情報を出さない理由が企業秘密の漏洩防止であるならばよく理解できますが、勝手な推測をすれば、欧州側では我が国の制度が欧州と同一ではないことから理解できず、またあえて理解しようともせず、結果として協力もしたくないという意識の表れなのかもしれません。

 協定発効前の1月9日に発出されたEU/日本EPAガイダンスにも明確に規定されているとおり、欧州委員会はEUの輸出者に対して日本国の輸入者から原産性に係る照会があっても回答する義務はないとの立場を、今回日本国税関との連名でその旨を公にしたというところです。ケースバイケースになるのでしょうが、輸出者自己申告を信頼できるか否かの判断について原産性判断基準を具体的にどのように満たしたかについて事前に確認することができないのであれば、取引相手のコンプライアンスへの信頼性を判断基準とすることになります。我が国の税関からの事後確認が入った場合には的確な対応をしてもらいたいですね。

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