見出し画像

第4話 日EU・EPA原産地手続に関するガイダンス・ガイドラインの新設・改訂

(2019年12月20日、第37話として公開。2021年12月14日、noteに再掲。)

 仕事納めまであと2週間を切った2019年12月16日、日本時間の夕刻、日欧同日にガイダンス・ガイドラインの新設、更新が双方の税関当局のウェブサイトで公開されました。今回新設されたガイダンスはEU側の「原産地に関する申告に係るEU日本EPAガイダンス」の1本のみで、改訂版として公表されたのが日本側の「日EU・EPA 自己申告及び確認の手引き」とEU側の「特恵の要求、確認及び否認」の2本となります。これらを読んでみると、同じ表現振りの記述が多くなっており、日欧において協定条文の統一的な解釈を国内法段階においても共有し、共通の原産地手続きの取扱いを志向したものであることが見てとれます。しかも、EU側の当初ガイダンスにおいて「書きすぎ」ていたと思われる部分が削除、修文されており、こうした変更も日本側からの強い働きかけがあったことを物語っているように思います。

 さらに特筆すべきは、協定附属書3‐D注2に記載されている輸出者参照番号の取扱いです。附属書には「輸出者が番号を割り当てられていない場合には、この欄は、空欄とすることができる」とされていたものが、「場所及び日付」の欄に「輸出者の住所」を記載することとなった点です。同附属書注5では、「場所及び日付は、これらの情報が文書自体に含まれる場合には、省略することができる」としていますが、今後、法人番号を持たない輸出者(すなわち、参照番号が空欄の輸出者)は商業上の文書に場所・日付が記載されていたとしても、あらためて住所を記載することが求められます。

 ここで興味深いのは、その理由として「輸出者を特定できない」としていることです。我が国においては国税庁から法人番号を取得していない個人事業者が無番号者の代表例になりますが、輸出者を特定できないという理由には少し違和感があります。今回の参照番号部分の改訂は、欧州側のREX制度に起因するのかもしれません。REX制度自体が原産地非違を繰り返したり、関税犯則で罰せられた者をREX登録から外すことによって特恵貿易の輸出自己申告資格をはく奪することにしているため、REX番号を持たない者が自己申告を行うことがそもそもありえないという認識なのかもしれません。そのため、もし欧州の輸入者が法人番号を空欄にした我が国の輸出者自己申告を拒絶したとすれば、それは「身に着いた習慣」とでもいうようなものなのでしょう。

 このように、単なる自国民向けのガイダンス・ガイドラインの枠を一歩踏み出した日欧共通通達を策定しようとしたのですから、双方の税関当局が調整に難航したことは想像に難くありません。日EU原産地規則・税関関連事項に関する専門委員会の採択事項(2019年6月26日)では「ガイダンス・ガイドラインの新設、更改は本年10月1日まで」としていたので、この時期にようやく公表されたという事実そのものが、調整の困難さを現しているようです。

 ちなみに、当該採択文書の別添IIにおける各締約国の「措置及び予定表」によれば、両締約国は以下を実施することとされていました(日EU双方がそれぞれ実施主体だけを別にして同じ文章を掲載していたので、実施主体をまとめて一つの文章として引用しています。)。


ガイダンス・ガイドラインの策定
以下に記載される問題に関し、2019年10月1日までに完遂すべくEU及び日本国で継続する共同作業に基づき、日本国税関及び租税・関税同盟総局は、新たなガイドライン又は既存のガイドラインの改訂版を可及的速やかに公開する。日本国税関及び租税・関税同盟総局は、新たなガイドライン又は既存のガイドラインの改訂版の公開前に、租税・関税同盟総局及び日本国税関に協議する。
●  生産者によって作成された原産地に関する申告の適切な取扱い
●  「その他の商業書類」の例示の提供
●  第三国で発出されたインボイスと共に使用される原産地に関する申告の適切な取扱い


 新設されたEU側の「原産地に関する申告に係るEU日本EPAガイダンス」と改訂された日本側の「日EU・EPA 自己申告及び確認の手引き」の別添には、今回の改訂を象徴するような文書として「EU税制関税同盟総局と日本税関の間で合意した共通文書」が全く同じ内容で(それぞれ英文、和文で)掲載されています。我が国の輸出者でEU税関の不統一な取扱いに悩まされていた方、又はEUの輸入者の勝手な解釈で正当であるはずの書面の受領を拒絶されていた方等は、該当する部分(英文)を先方税関職員又は輸入者に提示することで解決の一助になるかもしれません。特に、EUにおいてはこれらのガイダンスを加盟国税関当局に入念に周知するはずなので、1周年を迎える日EU・EPAが円滑に実施されることが期待されます。

 それでは、共通文書の発出によってより明確化された「輸出者」の解釈とQ&Aについて、筆者の理解した内容を簡単に述べてみたいと思います。まず、輸出者・生産者による自己申告において、これまで輸出者というと我が国の関税法上の輸出者をイメージしがちでしたが、今般、日EU・EPA原産地規則においては「輸出者とは原産地申告を行う者」とのニュアンスを強く出しています。したがって、「原産地申告を行う者」であって、協定上の責任としての①いずれかの締約国に所在し、法的義務を履行すること、②原産品を輸出する者・生産者であること、③原産品を正確に特定すること、及び④書類の保管義務を負う旨を明記しています。

「EU税制関税同盟総局と日本税関の間で合意した共通文書」(抜粋) (2)
画像3
画像4
画像4



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?