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第2部 EPAによる節税:「原産品」の見分け方

 前回、「原産地規則とは」と題して原産地規則が存在する意味及び特恵貿易制度などについて概略をお話ししました。特恵貿易制度とは、簡単にいうと物品を輸入する時に支払う関税を無税にすること、割安にしたりすることができる制度ですが、今回から3回に分けて、特恵制度のうち経済連携協定(Economic Partnership Agreement: EPA)によりどのような節税が可能となるのかについてお話を進めます。関税の節税は、簡単にできる場合とそうでない場合があるので、まず特恵制度を活用する上でもっとも重要な概念である「原産品とは何か」を簡潔に説明します。数年前まではTPP、日EU・EPA、昨今はもっぱらRCEPというローマ字を報道でもネット記事でもよく見かけます。したがって、具体的な事例を取り上げる場合には、現在、貿易業務に従事されている方々の間で高い関心が寄せられているRCEPを例に取って話を進めます。

RCEPはなぜ注目されるか

 RCEPの正式な名前は「地域的な包括的経済連携協定」で、英文ではRegional Comprehensive Economic Partnership Agreementです。略語として「地域的な包括的EPA」とするよりも、より短く「RCEP協定」又は「RCEP(「アールセップ」)」の方が覚えやすいですね。「包括的」と名付けられているように、RCEPは、物品の貿易のみならず、サービス、投資、人の移動、電子商取引、競争など、広い範囲において加盟国の経済活動を国際条約上の義務としてルール化しています。本稿では、これらのうちの物品貿易に限定して説明します。

 RCEPが注目されるのは、日本の最大の貿易パートナーである中国と、経済規模の大きい韓国に対して、新たにEPAを実施することになったからです。過去の話をすれば、中国及び韓国に対しては一般特恵制度(GSP)によって、先進国としての日本が開発途上国としての中国及び韓国に対して無税又は割安な関税を適用していました。ところが、中国及び韓国の経済力が強くなってくると、充分に経済発展を遂げた中国及び韓国の製品が無税又は割安な税率で日本の市場に参入できるのに、日本製品には中国及び韓国の税関でしっかりと関税を徴収されるのは不公平だという声が上がります。結果的に、中国及び韓国についてもそれぞれ時期の違いはありますがGSPの対象から外され、不公平感はなくなりましたが、日中及び日韓間の貿易ではお互いにWTO税率しか適用されず、貿易の一層の促進のためにはEPAの早期締結が望まれました。現在では、RCEP協定が発効したことにより、中国又は韓国からの輸入品のみならず、日本からの輸出品にも特恵税率が適用されます。

EPA加盟国から輸入される産品のすべてが節税の対象となるか?

 残念ながら、EPAに加盟している国から輸入される産品のすべてがEPA特恵税率の対象となるわけではありません。日本では、米などの食料安全保障に関係する穀物は特恵の対象としないこととしているので、特恵制度から除外される品目が出てきます。他の加盟国にも国内事情によって特恵対象としない品目があります。このほかにも、WTO税率が既に無税になっている産品であれば、わざわざコストをかけて原産地証明書を発給してもらって「同じ無税」の待遇を得る必要は全くありません。留意してほしいのは、「譲許表」とよばれるEPAでの自国の特恵税率をいつまでに撤廃又は引き下げるかを約束する表に、WTO税率が無税であるにもかかわらず、発効の年から〇年先まで毎年「無税」にするというような虚しい記載があることです。RCEPにおける中国を例に取りますと、「Base Rate」(基準税率のことで、RCEP共通で2014年1月1日時点のWTO税率です。) が0.0%と記載されているので判別できます(注1)。

 では、輸入しようとする産品がEPA特恵関税の対象となっていて、WTO税率が有税である場合に、必ずEPA特恵税率が適用されるのでしょうか。答えは「否」です。まず、特定の産品が検疫上、輸入禁止であれば、税率以前の問題として輸入できません。さらに、輸出国であるEPA締約国(当該EPAに署名しただけでなく、効力を有する国)から輸入される産品に必ずEPA税率が適用されるわけではなく、輸入される産品が「原産品」であって、その証明ができる場合に限ってEPA税率が適用されます。輸出入される貨物(産品)がEPA特恵税率を適用する要件を満たす「原産品」であるかを決めるルールが原産地規則で、「産品が原産品であることを証明」するための手続きが原産地手続きです。特恵制度を使いにくくしている最大の要因が原産地規則とその証明手続きにあるのですが、これらは特恵制度の維持に最低限必要なことなので、上手に対応することが節税の第一歩です。

 上記のEPA活用に際しての検討項目をフローチャートに落とすと、次のようになります。

 前ページのフローチャートに現れる産品の包含関係を図示すると、以下のようになります。

EPA活用に際して検討する産品 (品目) の包含図

節税の利益は輸入者に、その負担は輸出者に

 ここまで、EPA特恵貿易を活用するにはどのような要件を満たさなければならないのかについて、段階を追って説明してきたところです。それでは、輸出入しようする産品がRCEP原産品であって、その証明も可能であるならば、必ずRCEP税率を使うべく人的、資金的な資源を総動員して対応すべきなのでしょうか?筆者の意見は「否」です。関税の節税による直接的な利益は輸入者が得ますが、輸出者又は生産者は産品の原産性の証明に材料のサプライヤーの協力を得る必要があり、時間、労力、費用をかけねばなりません。したがって、輸出者側が負担するコストと輸入者が得る節税額がある程度バランスして初めて「win-win」の関係になります。しかも、輸出入者が独立した関係にあるのか、「親子関係」にあるのか、更には輸出入者間の「力関係」でどちらかが優位に立っているのかによっても事情は異なります。

 例えば、WTO税率10%からRCEP税率が9.5%に引き下がる場合と一挙に0%(無税)になる場合、1年間の輸入回数が2~3回である場合と20~30回の場合とでは、輸出入者の対応の仕方が変わって然るべきです。また、現実的な問題として、フローチャートの輸入制限の項目でチェックすべきことですが、輸入国で関税割当を行なっている品目を輸出するならば、割当を得られる確証があってビジネスを進めるべきです。同様に、輸出しようとする産品が(自国ではなく)輸入国の検疫又は製品の規格基準に合致していることを、産品の原産性判断に入る前にあらかじめ確認しておかねばなりません。

 「節税の利益は輸入者に、その負担は輸出者に」のタイトルが示すとおり、産品の原産性を証明するために汗をかくのは輸出者・生産者であるのに対し、EPA特恵税率の適用によって利益を受け取るのは輸入者になるという点が、年末調整に費やした自分の苦労が自分自身に報われる所得税の節税との違いです。節税のための原産地手続きは第3部で詳しく説明することとし、次に産品の原産性判断を行なうための原産地規則を書き進めていきます。

原産性判断基準の「イロハ」

 原産性判断基準は、ザクっと分けて二つ半存在します。RCEPを例に取って説明を進めます。

 一つ目は「完全生産品」という概念で括られる産品です。粗い定義を置くならば、「生産が一ヵ国で完結している産品及び政策的に定められた産品」となります。生産が一ヵ国で完結している産品とは、例えば、日本国の領域内で採掘した石炭などの鉱物、採取・栽培される植物がこれに当ります。興味深いのは動物に関する完全生産品定義です。生きている動物は、「生れ、かつ、成育される」ことで完全生産品になります。

 しかし、野生の動物は人間の思惑にかかわらず動き回るので、大陸から飛来した渡り鳥、海を回遊する魚などが日本国の領域で狩猟、わなかけ、漁ろう、採集又は捕獲によって得られる場合には、その生死を問わず、完全生産品として取り扱われます。また稚魚を輸入し、養殖によって更に成育させると、その国で生まれなくても完全生産品です(注2)。さらに、輸入された生きている動物から得られる、ミルク、獣毛なども完全生産品です。こうなると、「生産が一ヵ国で完結」と言い切るには躊躇してしまいます。輸入された製パン器に小麦粉などの材料を入れてパンを作るのと、輸入された乳牛に餌を与えて牛乳を得るのでは、輸入された小麦粉などからパンを製造した場合のパンの原産性判断においては品目別規則を満たす必要があるのに対し、牛に与える餌が輸入品であったとしても「生きている牛の搾乳」という行為自体が牛乳を完全生産品にしてしまいます。この定義は、製パン器と牛を「モノを作る道具」とみなしていることからくる結果です。乳牛に餌を与えることは、製パン器の電源を入れるようなもので、「小麦粉からパン」という理解にはなりません。原産地規則全体を通じて、モノを作る道具は輸入したものであっても、生産の結果として生み出される産品に影響を与えません。

 「完全生産品」と呼ぶには全くふさわしくないものの、政策的に定められた産品に、(i) 金属を削る際に生じる製造くず、(ii) 家庭で消費された家具、食品などの廃品、くず、(iii) 使用済みの乾電池、電気製品で収集されたものなどがありますが、これらは焼却などの処分を行なうか、原材料又は製品そのものをリサイクルするものである場合に限られます。なぜ「呼ぶにふさわしくない」かというと、回収、修復作業の結果としての回収された原材料、リサイクルされた産品を完全生産品とするのではなく、自国原産であるか否かを問わず、回収、修復作業に入る前の消費し尽された廃品、くずを(焼却などの処分、リサイクル条件付きで)完全生産品として定義するためです。そもそも、RCEP原産地規則章の第3.1条 (定義) (n) で、

「生産」とは、産品を得る方法をいい、栽培、採掘、収穫、飼養、成育、繁殖、抽出、採集、収集、捕獲、漁ろう、養殖、わなかけ、狩猟、製造、生産、加工及び組立てを含む

と規定される生産の例示の中に「消費」が入っていないにもかかわらず (一般的には、生産と消費は概念的に真逆なので入らなくて当然ですが)、これらの廃品、くずなどを完全生産品と定義しています。その理由として考えられることは、「消費」を定義に組み入れてしまうと、第三国製品の迂回輸出を合法化してしまうおそれがあることです。もっとも、解釈論としては、「産品を得る方法」に消費を含むと解すれば問題はないのでしょうが、やはり政策的に決めていると説明することが的確な説明であるように思います。

 完全生産品は原産品です。しかしながら、原産品は必ずしも完全生産品ではありません。ここは誤解を生じやすいところなので、完全生産品と原産品との相違を以下で明確にしておきます。

 言葉で説明すると、このようになります。

(あ)完全生産品は原産品である。
(い)実質的変更基準を満たす産品は原産品である。  
(う)原産品のみを材料として生産された産品も原産品である。
ところが、
(え)完全生産品だけを材料として生産された産品は完全生産品である。
したがって、
(お)完全生産品だけを材料として生産された産品は完全生産品であり、完全生産品は常に原産品であるが、原産品は必ずしも完全生産品ではない。

 また、図で説明すると、次のようになります。

この概念の違いを明確に理解しておかないと、品目別規則に唐突に「完全生産品」がルールとして出てきた時に混乱してしまいます。

 二つ目は「実質的変更」基準と呼ばれ、産品の生産に使用された材料がそれらの形状、特質、名称、価額、用途などと異なる産品として実質的に生まれ変わったかを判断するもので、協定本文に原則を示す一般規定が置かれ、附属書に品目別規則として具体的基準が規定されます。附属書の品目別規則は、一般規定の例外となる品目だけを掲載したものと、HS第1類から第97類までの全品目にルールを規定するものがあります。この基準を適用して原産性判断を行なうのは、産品の生産に際して必ず一つ以上の非原産の材料を使用している場合に限ります。

 この実質的変更の有無を判断するための具体的基準として適用されるもののうち、代表的な方法が次の3つです。
·   関税分類変更
·   付加価値
·   加工工程

 これらの他にも、原産材料と非原産材料の比率、特定自国産原料の使用義務、特定非原産材料の使用禁止などが併設されることがありますが、今回は上記3つの方法を簡単に説明します(詳細は次回)。

 さて、実質的変更基準は、「使用した非原産材料が実質的に変更したか」を問うものなので、品目別規則として個々の産品に設定される3つの方式のどれかについても、(付加価値で例外もありますが)非原産材料に対してのみ適用されます。

関税分類変更  産品の生産に使用された全ての非原産材料の関税分類(HS類、項又は号)が産品の関税分類(HS類、項又は号)と異なることで実質的変更を判断します。HSは、産品の特定という規則の明確化に貢献するのみならず、HSの構造を利用して実質的変更を判断する「モノサシ」の役割も果たします。HSが200ヵ国を超える国で採用され、世界基準となっていることから、実質的変更を表現する最も普遍的な基準として各協定で使用されています。

 以下に、RCEPの品目別規則を例に取って具体的に説明してみましょう。

 「類の変更」は、例えば、生きた動物(第1類)から食用の肉(第2類)、更に肉の調製品(第16類)へと、大きな変更を求めます。しかしながら、第1類から第2類への変更には屠畜という工程を経ますが、RCEPでは生きた動物を輸入して屠畜するのみでは実質的変更とは認めず、類変更から「第1類の材料からの変更を除く」と規定しています。そのため、事実上、自国の完全生産品としての動物を屠畜するか、他の締約国の完全生産品としてその国で生まれ育った動物を輸入して、原産材料としての動物を屠畜して食肉にした場合に限って原産性を与えます。第2類の肉から第16類のソーセージ(第16.01項)への変更は実質的変更となります。当然といえましょうが、生鮮・冷蔵の牛肉(第02.01項)を冷凍庫に入れて冷凍牛肉(第02.02項)にしても、実質的変更とは認められません。

 「項の変更」は、他の協定でもスタンダードとして使用されており、第18類(ココア及びその調製品)を例に取れば、カカオ豆(第18.01項)、ココアペースト(第18.03項)、カカオ脂(第18.04項)、ココア粉(第18.05項)、最後にチョコレートなど(第18.06項)、カカオ豆からチョコレートに至る工程の重要な段階を付加価値が増す度にHS項の番号が大きくなる構造を利用して、項変更があれば実質的変更があったものと判断します。第16類は、HSの構造が、カカオ豆からチョコレートのように原産性判断に適したものとなっています。

 「号の変更」は、項の変更を求めることが事実上困難な産品に適用されます。例えば、天然のダイヤモンドで鉱床から取り出された状態のものは第7102.31号に分類され、カットダイヤモンドとして宝石となったものは第7102.39号に分類されます。両者の付加価値の差は歴然としており、このような場合に項変更を求めることは合理性を欠きます。そのため、原石を切断、研磨をすることでカットダイヤモンドとなる号変更で実質的変更があったものとみなします。

 よく誤解されることですが、産品の生産に使用される材料のすべてを輸入材料に依拠したとしても、関税分類変更の要件を満たせば、当該産品に原産資格が与えられます。例えば、項変更が求められる第94.01項の木製の椅子を製造する場合、脚と背もたれの部分に使用される角材(第44.07項)、クッション部分に使用されるスプリング付きの詰物(第94.04項)、クッションの表面をカバーする牛革(第41.07項)など、すべての材料を外国から輸入して、椅子に仕上げた場合であっても、項変更の要件を満たし、原産資格を得ます。この場合、木製の椅子の部分品(第9401.91号)を輸入して加工しても項変更が生じないので、あくまでも素材を輸入して、国内で直接製品に仕上げる必要があります。

付加価値  「産品の価額」(FOB価額が一般的)と「産品の価額から非原産材料の価額を差し引いた額」の比率を算出し、一定数値(閾値)以上であれば実質的変更があったとみなします(控除方式)。この方式がスタンダードで、RCEPを含む多くの協定で使用されていますが、逆方向から付加価値を判断する方法も存在します。例えば、RCEPでは、産品の価額(FOB価額)に対して、「原産材料、直接労務費、直接経費、利益、他の費用」の総和の比率を付加価値とする方法も採用しています(積上げ方式)。この場合は、非原産材料以外を考慮の対象とします。閾値として採用される数値は協定によって異なりますが、RCEPを含め40%を採用する協定が多数を占めています。

 米国のGSP原産地規則はこの付加価値(積上げ方式)による原産性判断のみを採用しているため、品目別規則を設定する必要もありません。譲許表と品目別規則だけでEPA協定の数百ページを占めることを考えれば、省スペースの観点からは最適な基準です。しかしながら、実際に適用するとなると、価格情報は商売上、極めて機微なものなので、取引相手が常に情報を開示してくれるわけでもなく、立証段階で様々な困難に直面することになります。

加工工程  非原産材料に対して特定の加工又は作業が行われることを要件とします。最も多く採用されているものは「化学反応」で、化学品のように化学反応の結果として異なる産品になることが号変更で対応できない場合に、号変更を補完する基準として使用されます。このほかにも、産品の不純物を除去して純度を一定数値(80%が一般的)以上に高める「精製」、所定の仕様と合致させるための材料の意図的な、かつ、比例して制御される「混合・調合」などがあります。RCEPでは「化学反応」だけを採用しています。
実質的変更に関する上記の3つの具体的な基準は、いずれも非原産材料に対して適用されると説明しました(付加価値の積上げ方式を除きます。)。そこで、非原産材料とは何かを明確にしておかなければなりません。非原産の材料とは、RCEP協定を例に取れば、次のとおりです。

· 署名国以外の米国、EUなどから輸入される材料、
· 交渉に参加したものの最終的に離脱したインドから輸入される材料、
· 署名国であるものの(本稿執筆時において)国内手続きが未了のために発効していないフィリピン、インドネシア、ミヤンマーから輸入される材料、
· RCEP締約国又は日本国の領域内で製造された材料として使用する場合であっても、RCEP協定の原産性要件を満たさない又は満たすかどうか分からない材料

 第3部で詳しく述べますが、RCEPの原産性要件を満たすかどうか不明であるにもかかわらず、取引先が「一筆書いてほしい」との要請に安請け合いをして「RCEP原産材料」として納品してしまうと、最終製品のメーカーに迷惑がかかることがあります。逆に納品を受ける企業サイドでも、サプライヤーが原産性管理をどの程度精緻に行なっているのかを承知しておく必要がでてきます。

 三つ目が「原産材料のみから生産される産品」です。この基準は、概念的に内容を咀嚼しにくいので、実際の適用事例で説明します。まず、原油を輸入して国内でプラスチックの一次材料を生産します。この一次材料をペットボトルの材料として使用した場合、ペットボトルは「原産材料のみから生産される産品」になります。なぜそうなるかというと、輸入原油をプラスチックの一次材料に転化した段階でEPA品目別規則を満たすので、非原産原油の存在にもかかわらずプラスチックの一次材料は原産品となります。その原産品だけを材料としてペットボトルを製造すれば、ペットボトルは原産材料のみから生産された産品として原産性を得ることになります。

 原産材料のみから生産される産品は、「原産性判断基準のイロハ」の冒頭部分で「ザクっと分けて二つ半存在」すると述べた「半分」に当たる基準です。なぜ半分か。原産材料のみから生産される産品は、産品を生産するための材料が直接産品に組み込まれる又は作り込まれる段階ですべて原産品になっている状況で適用されるのに対して、実質的変更基準では、材料が直接産品に組み込まれる又は作り込まれる段階で必ず一つ非原産材料がある場合に適用されます。この三つ目の基準が創設されたのは、産品の中間材料(上の例によれば、プラスチックの一次材料)の原産性判断を容認するようになったことに遠因があります。産品の生産工程の中間段階で全ての材料が原産材料になってしまった場合に、実質的変更基準を適用するには原産材料の素性を工程の上流まで洗って非原産材料を見つけ出してからでないと適用できないという不都合を解消するために、便宜的に付け加えられた基準です。理論上はこの基準がなくても原産性判断に支障はでないので、欧州系の規則、日インドEPAにはこの基準が置かれていません。実際の例に当てはめますと、上記のペットボトルを製造するために使用した非原産材料を、生産工程を遡って非原産の輸入原油であるとしてペットボトルの品目別規則を適用し、原産品であると立証することもできます。

 したがって、「原産材料のみから生産される産品」の判断基準を必ず適用しなければならないということはなく、「実質的変更基準を適用して原産性判断を行なうのは、産品の生産に際して必ず一つ以上の非原産の材料を使用している場合に限る」と述べたとおり、非原産材料の範囲を日本国に輸入された粗原料の段階まで拡げる(生産工程の上流に遡る)ならば、「原産材料のみから生産される産品」であっても実質的変更基準で原産性の判断ができます。

重複するEPAの最適選択による最大の節税

 日本とその他のRCEP参加国との間では既に他の協定で特恵制度を設けていることが多々あるので、特恵制度がダブってしまっています。ベトナムにいたっては、「日ベトナム協定」、「日アセアン協定」、「TPP11」、「RCEP」の4協定でダブっています。EPAを利用するに当たって、併存する制度の存在が混乱を招く原因になります。そこで、上記の考慮事項を日本から鉄製品(第7209.15号)をベトナムに輸出する場合に当てはめて、EPAの最適選択を検討してみましょう。

 第7209.15号の鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(冷間圧延をしたもので、幅が600 mm 以上、厚さが3 mm 以上のもの。クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く。) のEPA税率等比較表

 ベトナムに対して鉄のフラットロール製品を特恵輸出するのであれば、TPP11かRCEPの二択しかありません。EPA税率では先行したTPP11が4.5%でRCEPの6.4%に比較して優位に立ちます。しかしながら、原産地規則はRCEPの方がより緩やかで、関税分類変更と付加価値を選択できます。特に、熱間圧延を行なった非原産のフラットロール製品 (第72.08項) を材料として冷間圧延を行なった場合には、TPP11、RCEPの双方の関税分類変更を満たさないので、RCEPの付加価値基準を満たすことでRCEPを利用する方法のみに絞られます。その際、WTO税率で7%、本年のRCEP税率が6.4%であることを考慮し、輸出者として立証に要するコストを勘案して最終判断を行なうことになるのでしょう。


(注1)  RCEPの譲許表は、相手国毎に定める方式を取っており、中国の場合、(i) アセアン諸国、(ii) 豪州、(iii) 日本、(iv) 韓国、(v) NZの5本建てになっています。日本の場合は1本で全署名国を網羅しているのですが、同じ品目でも撤廃・引下げの有無、段階的引下げの最終年が (i) 対中国、(ii) 対韓国、(iii) その他で異なることがあります。以下に、中国の「対日本国譲許表」における第1類(生きている動物)の第0101.21号(馬:純粋種の繁殖用のもの)に対する税率を参考までに掲載します。

(注2)  魚の養殖を完全生産品とする定義は、EPA導入期のアセアン諸国との二国間協定ではほぼ認めていなかったのですが、近年合意したEPAでは採用されることが多くなっています。


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