対峙
ヒッ
仕事を終えて帰宅した私は、扉を開けるやいなや小さな悲鳴をあげた。視界に何者かの黒い影を認めたからだ。暫く立ち尽くしてしまったが、やがて私はその正体を確信した。間違いない。
幸い、向こうはまだこちらに気づいていないようだった。とりあえず、何か武器になりそうなものを探す。
(・・・まあ、何もないよりマシか)
心強いとは言えない武器、というより防具を手に取り、私は出来るだけ相手に刺激を与えないよう、慎重に忍び寄る。
(よし、ここからなら、、、!)
隙を与えぬよう、素早く敵を反転させる。立ち上がろうと必死にもがいているが、身動きができない様子だ。
相手が起き上がらないうちに、グッと指に力を込めて、床に押し付ける。
クシャリ
ティッシュ越しに伝わる、不快な感触。
・・・勝ったのだ。
そう確信した私は、へなりとその場にしゃがみ込んだ。心なしか手が震える。侵入者を排除したことに安堵しつつも、罪悪感が私を苛む。自分よりも遥かに非力で小さな、けれども確かな命を、この手で殺めてしまったのだ。
ティッシュの中を恐る恐る覗くと、少し茶色味を帯びた黒色の体が鈍く光った。もう、ピクリとも動かない。
ゴメンよ、と呟く。
私はそいつを包み直し、そっと、ゴミ箱の底へと落とした。
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