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夢の効用

やっぱりトカゲでしょう。
トカゲを選ぶってところがあの子のいいところなんですよ。犬とか猫じゃなくてね。

うちの子タカハシさんって名前をつけたらしいんです。トカゲに。
タカハシさん。そりゃあいい。

束の間のうたた寝にあらわれた宮崎駿さんは
目を細くして笑っていた。
花瓶には紫の花が飾られていた。

トカゲか。
呟いて目を覚まし洗い物を始めた。

夢の中では会えないひとにも会うことができる。
言葉を交わすことができる。
もう二度と会えないひとがひょっこりあらわれてくれることもある。昔の姿のままで。

沈み込みそうな心と身体に何かが戻ってきたような感覚があってほっと胸を撫で下ろす。

マイノリティに対する嫌悪感。
何かを成さなければ認められないという焦燥。
もっと頑張らなければ。もっと。もっと。
見下す人見下される人。距離が近すぎる客。
他人のことなんか別にどうでもよくないですか。
当たり前のように放たれた言葉。
そういう全てを吹き飛ばしてくれたのは
眼鏡の奥で悪戯そうに笑う宮崎駿さんの姿だった。

君たちはどう生きるか。
自分で決めなさい。
子どもにも自分で決めさせるのです。
あなたはあなたであり子どもは子どもです。
自分の価値は自分で決めなさい。

夢を見て夢に救われる。
夢の効用。

ありがとうございました。
深々と頭を下げて開けたドアには
出口と書かれていた。

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