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「チャイルド・マレスターの探索範囲についての一考察」泉南郡熊取町小4女児誘拐事件(13)

 確実に友梨ちゃんを誘拐した人間は存在し、そいつは彼女を車に乗せ、どこかに連れ去った。そいつはどこにいるだろうか、どの辺にいるのだろうか。

〜ブランディンガム夫妻の犯行地点選択モデルにある。彼らは、犯罪者を含む人間の行動に関する研究から、人は自分の置かれた環境の中でランダムには行動しないことを示している。

「地理的プロファイリング 凶悪犯罪者に迫る行動科学」D・キム・ロスモ著 北大路書房 2002年

 飛行機や鉄道・自動車が無かったころ、人の日常における行動範囲はそれほど広くはなかった。ひたすら自分の足で歩くしか移動手段は無かった昔は、半径20kmほどの世界で生きていたと考えられる。
 1里(約4km)の道は歩いて1時間程度だが、陽が出ている間に歩き続けたとしても制限時間はせいぜい10時間程だろう。つまりは片道5里(20km)が日常的生活圏の限界ではないかと思われる。
 自動車が発明されるまでは、ペドフィリアにとっては居住地を離れ広範囲を探索することはそれほど容易ではなかっただろう。現代では自動車によりはるかに連れ去りは容易になったと同時に、遠くまで行けるようになった。さらにSNSの発達により、物理的接触をしなくても目標との距離を縮めることが容易になった。現代はペドフィリアやマレスターにとってはまさに天国だ。
 犯行現場から犯人の居住地を考える地理的プロファイリングでは、犯行の形態に応じて活動範囲を予測するまでのデータの分析はなされていない。一体、チャイルドマレスターたちの行動範囲はどれほどなのだろうか。

新潟少女監禁事件
 28歳:無職
 自宅:一戸建て
 移動距離:50kmほど
 1990年11月、新潟県三条市の路上で9歳少女が誘拐された。

50km弱の範囲

 犯人である佐藤宣行は、同年6月には同県柏崎市内で別の女子小学生に対し猥褻行為を行い新潟地裁で懲役1年、執行猶予3年の判決を受け、執行猶予中に今回の犯行に至っている。彼は少女を拉致し、9年に渡り自宅に監禁し続けた。
 新潟地裁の判決文によれば、「成人女性と親密に交際したいが、面倒と思い大人しくて逆らわない幼い女児に興味を抱くようになった」そうで、まさしく典型的なチャイルドマレスターだ。母の所持する車で自宅から50kmほど離れた三条市をドライブ中の17時ごろ、付近の農道を一人で下校している女児を発見し、ナイフで脅し、トランクに押し込んだ。

拉致現場

 判決記録によればトランクに押し込み自宅へ戻る途中、18時30分ごろ状態が心配になったのか北陸自動車道で車を停め、トランクを開けて粘着テープで両手両足を緊縛し、両眼を目隠し拘束し直している。20時ごろに自宅に連れ帰ったとされており、2時間から3時間ほどかけて誘拐している。
 彼はドライブ好きで、母親を乗せて何度も遠くまでドライブに行っていたという。

「とにかく車に乗っていれば幸せという子でしたね。ドライブに出掛けるのが好きなので、ふたりでいろんなところに行きました。富山、群馬、東北の方まで足を伸ばしたこともあります。でも、泊まりはしない。どんなに遠くに出かけても必ず日帰りです。あと観光も一切しない。宣行は車からほとんど降りず走りっぱなし〜

「14階段 検証 新潟少女9年2ヶ月監禁事件」窪田順生著 小学館 2006年

 彼は家庭内暴力があり、不潔と思っていた高齢の父親を家から追い出し、コントロールできる母親と同居していた。

岡山倉敷女児誘拐監禁事件
 49歳:無職(自称イラストレーター)
 自宅:一戸建て
 自宅と誘拐現場の距離:15kmほど
 2014年7月に11歳女児が小学校から帰宅途中に誘拐され、5日間に渡り49歳、自称イラストレーターの藤原武の自宅に監禁された。

 イラストレーターを自称しているが、彼はほぼ無職であった。父親は自宅近くの用水路に転落して亡くなり、母親は介護施設に入所していたため、自宅は彼の自由自在な城と化していた。彼はかねてから念願であったファンタジーを実行に移すべく、認知症の親を迎え入れるためと嘯き、自宅の一室のドアを外側から施錠可能にし、防音工事を行い、監禁部屋を作った。
 誘拐した子の発見は一目惚れに近い感覚だったそうで、数ヶ月前から何度も女児の周辺の下見を行っており、その行動は小学校周辺で不審な車として目撃されていた。
 カッターナイフを女児に突きつけ、車に押し込み5日間にわたって監禁したが、車の目撃情報からすぐに身元が割れ、家に踏み込まれている。監禁に成功してからは「光源氏」という気持ち悪すぎるタイトルの日記をつけており、捜査官が家に押しいった時に女児のことを「妻」と言っている。

栃木県小山少女監禁事件
 35歳:無職
 自宅:一戸建て
 自宅と誘拐現場の距離:430km以上
 小学校6年生の女児を誘い出し、大阪から栃木に連れ去った。犯人の伊藤仁士が言うには「自殺を止めたかった」「SNSで助けを求めていた子を助けてあげた」らしい。小6女児とはSNS(twitter)で知り合い、大阪の公園で待ち合わせをし、電車を使って自宅まで連れ帰っている。
 家に入るにあたってスマートフォンも靴も取り上げ、容易に外出できないようにしている。さらに人助けと称して15歳の少女も監禁しており、自宅には2人の少女がいた。彼はハーレムでも作ろうと思っていたのであろうか。位置情報の検索を防ぐためにスマートフォンのSIMカードは抜かれ、逃げようとすると銃弾を見せ脅迫していた。
 事件を起こす10年前に父親が他界していた。弟と妹は家から出ており、祖母はいたが別宅に住んでおり、犯人は自宅一軒家に独り暮らしだった。

北関東連続幼女誘拐殺人事件
 犯人・距離・自宅:不明
 1979年以降、栃木県と群馬県で発生した同一犯による犯行が疑われる誘拐及び殺人事件。

 4歳から8歳までの4件の女児誘拐殺人事件と、関連が疑われる1件の女児連れ去り事件が栃木県と群馬県の県境で渡良瀬川沿いに半径10km圏内で発生している。この事件の遺体は河川敷に遺棄されており、いずれも犯人はパチンコ店で女児に声をかけ、外に誘い出している。非常に狭い範囲で事件が起こっていることから、犯人とされる男は車を所持しておらず、電車や徒歩、または自転車などで移動していたと思われる。

千葉小3女児殺害事件
 46歳:無職
 自宅:マンション
 誘拐・遺棄範囲:20km
 2017年3月に千葉県松戸市で小学校3年生の女児が行方不明となり、翌々日に同県我孫子市で遺体が発見された。

 女児は登校時に行方不明となり、翌々日の朝に我孫子市北新田の排水路脇の草むらにおいて絞殺体で発見、遺体発見現場から20km離れた茨城県坂東市の利根川河川敷で、ランドセルと衣類が見つかった。
 被害者宅と犯人である渋谷恭正の自宅はかなり近いところにあった。渋谷は、小学校の保護者会元会長で、登校の見守り活動にほぼ毎日参加していた。しかし子供に声をかけ、車で送って行こうとしたりする行動もあったらしく、逮捕後自宅からアジア系女児の出演するロリータDVDが見つかっている。中国国籍の女性と同居しており、子供も2人いた。彼は親から相続したマンションの家賃収入で生活をしており、ほぼ無職であった。

寝屋川市中1男女殺害事件
 45歳:除染作業員
 2015年8月に大阪府寝屋川市に住む中学1年生の男女2人が誘拐され、殺害された事件である。犯人の山田浩二は警察官を偽り、未成年者を車に乗せ、拘束し夕方から深夜にかけ車内に監禁後殺害していた。

 8月13日午前5時ごろ、寝屋川市駅前の防犯カメラの映像を境に男女2名の足取りが消え、午後11時ごろ高槻市の物流会社の駐車場で1名の遺体が、8月21日に柏原市の山中でもう1名の遺体が発見された。
 この男の乗る車の行動範囲はせいぜい20kmほどであった。この事件の13年前から合計7名の男子中学生をナイフで脅し拉致、車に連れ込んで拘束し、車で引き回したり猥褻行為を行っており、この事件も刑務所から出所したところだった。こいつは筋金入りの変態、未成年車内連れ込み引き回しマニアだ。

神戸長田区小1女児殺害事件
 47歳:無職
 集合住宅
 2014年9月11日に起きたこの事件は、兵庫県神戸市長田区の小学校1年生の女児が行方不明となり、23日に遺体の一部が自宅近くで発見された。

 犯人の君野康弘の自宅と被害者宅は目と鼻の先だ。女児は下校後友人と遊びに出た後に行方不明となっている。
 起訴状によると「絵のモデルになってほしい」と自宅に誘い入れ首を絞めて殺害している。君野は生活保護を受けながら、酔っ払い近隣住民に迷惑行為を繰り返す男として時折トラブルになっていた。
 死体遺棄現場は君野の自宅から30メートル以内であり、ポリ袋に入れて遺体を遺棄し、さらに遺体の一部を冷蔵庫で保管していた。

新潟小2女児殺害事件
 25歳:会社員
 2018年に新潟県新潟市西区で女児が殺害され、線路に遺棄された事件である。

女児の自宅と容疑者宅は200m以内だ

 犯人の小林遼は仕事帰りに乗っていた軽自動車を女児に意図的に衝突させ、転倒した女児を軽自動車の後部座席に乗せ首を絞めて気絶させた。車で海岸沿いの広場に連れて行き猥褻行為をした後、女児は意識を取り戻したが、首を絞め殺害した。
 その後自宅に死体を持ち帰り性的暴行を行なったのち、線路内に遺体を遺棄しており、紛れもない鬼畜変態ペドフィリアだ。
 容疑者宅から誘拐地点も被害者宅も200メートルほどで目と鼻の先だ。

妄想と考察
 分析のためにはより多くのケースを集める必要はあるが、女児の誘拐における拉致地点は、概ね犯人の自宅近くで行われることが多い。女児の誘拐の目的は性行為であることが多いため、人に見つからない場所でことに及びたいはずであり、最も安心できる場所は犯人の自宅だ。
 また、犯人の属性として子供にとって安全地帯である自宅と学校を離れる時間帯、登校時もしくは下校時(午後2時から午後5時ごろまで)に自由な時間があるもので、主に無職であることが多い。そもそも子供が学校から解放される時間帯は成人は就業中であることが多いのは当たり前だ。不定休であったり、小林薫のように新聞配達員で朝に仕事が終わる職業についている者にも接触できる時間はあるが、監禁となると定職に就いているものには難しいだろう。
 そして、上記にあげたケースたちはペドフィリアとチャイルドモレスターが混在しているが、いずれも奴らに共通するのは「父性の不在」だ。奴らの大半に家族というコミュニティの中での父親的な存在がいずれも見当たらず、自宅を我が物としたのちに、これらの犯行を思いついた節すらある。⭐️
 母数は少ないが、奴らの活動範囲はおおよそ半径20kmほどである。50km先で偶然一人でいる女児を発見し、拉致した佐藤宣行の方はどちらかというと遠出しているほうだ。そういえば連続幼女殺人犯である怪物、宮崎勤もドライブが好きで、犯行の行動範囲は50kmほどであった。
 おそらくチャイルドマレスターは目標を発見するためにどこまでも遠出はしない。そして、女児を監禁できる環境の形成には、「父性の不在」が関係しているかもしれない。

 さらに、サーチコストからも幼女誘拐について考えてみたい。サーチコスト(探索コスト)は企業経済学の考え方であり、「消費者が完全合理主義者であれば、効用を最大化するために、限界費用が限界便益を上回るまで、より良い商品やサービスを求めて探索を続ける」という考え方に基づいている。効用を最大化するためには、多くの代案を考え、それを評価するために必要な情報を収集し、その代案の成果を計算し、他の代案と比較することが必要となる。つまりは、自分が欲しい商品を最も安く最も労力を少なく得るためには、商品に関わる情報を沢山集めなければならない。最も安い商品を見つけたが、それを買うための交通費がかかってしまうのであれば、意味がない。インターネットが最も安く早く届くが、商品を実際に見ていないため、手元に届いても思ってたものと違えば意味がない。
 これらの作業にかかる探索コストは時として膨大になり、それを差し引いた後の効用は最大化されなくなる可能性もある。散々に時間をかけて探したが、買った商品は自分が思っていたものでないという事態だ。
 探索コストは、「情報を得るための金銭的コスト」「探索のための機会費用」を「外部コスト」と呼び、「探索行動やそれにより得た情報を整理する」知的作業を「内部コスト」と呼ぶ。「内部コスト」は消費者の探索能力によって決定し、知識や教育や訓練に知能によって決定する。
 あまりに遠いところから標的を調達しようとするより、土地勘があり目標の行動パターンの調査がしやすい近隣の方が目標を探索しやすい。しかし、あまりに近隣で、あまりに頻回に同じ場所で対象を探索すると、目撃され覚えられたりと逮捕につながる恐れがある。そのため、自分を知らない人間がいるところまで離れる必要があり、例えば隣町などある程度一定の距離を取ったところで目標を探索するはずだ。これらの考え方は地理的プロファイリングでも見られるが、チャイルドマレスターがどのような活動範囲を取るのかはわかっていない。
 しかし、このサーチコストがあるために無限に対象を探すことはできず、どこかで区切りを付けなければならないはずだ。さらに、土地勘は距離に比例して失われ、もし遠方で目標を運良く見つけたとしても、拉致後道に迷い自宅に帰れなくなる可能性もある。そして、あまりに遠すぎると、誘拐した女児に長い時間注意を払わなければいけないため、その間はずっとストレスになるだろう。さらに、長時間目標を連れ回すことで、自身が目撃される機会も増え、捕まるリスクが増加する。おそらく、拉致に成功したあとのことも考え、遠くから出向いてまで探索はしないだろう。
 目標を探索するためには、必ず目標がいる可能性が高い時間にそれらの場所に出向く必要がある。まずはどの辺を子供がウロウロとしているのかを知らないといけない。例えば住宅街や、小学校の近くや、公園などだ。ただし、目標と直接接触してコミュニケーションし、グルーミングを諮るペドフィリアであれば、公園など子供の溜まり場に出向いてもいいだろうが、チャイルドマレスターは孤独で社会的スキルが低く、子供を操るスキルは持ち合わせていない印象がある。
 おそらく、チャイルドマレスターが何より重視するのは、「目標が独りでいる」ことだ。つまりは、おそらく車で30分から1時間程度の範囲内、誘拐現場から半径20〜50kmの中に監禁場所である自宅があるはずだと私は考えている。


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