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座談会 扉の奥にある自由(前半)

『イルミナ』準備号より座談会「扉の奥にある自由」を公開します。
イルミナはストリップのきらめきに惹かれた女たちでつくる「ストリップと社会と私を考えるZINE」です。
現在BOOTHでの通販や、タコシェさん(中野)B&Bさん(下北沢)で販売しています。
また、準備号のまえがきはこちらで公開しています。

*WEB公開に合わせ、誌面より変更&削除した箇所が若干あります。
*参加者:あいだ(あ)、うさぎ(う)、はるみ(は)

ストリップとの出会い

 私たちにとってストリップとはどんなものなのか? まずそれぞれのストリップとの出会いから話しましょう。私の初めては友達と行った浅草ロック座。それから何回か浅草に行くうち、あるとき「この人をもっと観たい!」という踊り子さんができたんです。そこから他の劇場にも行くようになり、ずぶずぶと……。

 私は横浜にあった黄金劇場という古い劇場が最初でした。劇場の近くで働いてる人に案内してもらって。そのときは雰囲気を楽しんだという感じでしたが、漠然とストリップはいいものだなと。次は7年後、横浜ロック座の10日限定女性客無料興行でした。そこで観たのが友坂麗さん。男装でキレのいいダンスを披露していて、「宝塚?!」と。そして、何よりすごく堂々と真っ裸になる。横浜ロック座は狭い劇場なので、多少場末感もあるけれど、そういうのを一掃する衝撃でした。

 私はもともと好きな子供向けのアニメがあるんですが、そのスピンオフ作品の映画を元ネタにしたBL(ボーイズラブ)ショーがあると友達に誘われて劇場に行きました。2017年に閉館してしまった新宿のTSミュージック。初めて見たダンスショーは山口桃華さんで、ポールで踊るのを見てメロメロになりました。

 桃ちゃんはみんなをメロメロにする……。

 BLショーは、栗鳥巣さんと渚あおいさんとの男装でのチームショー[踊り子が2 人以上登場して行うショー] だったんですが、ふだん接する二次創作BLとノリが一緒! このひとたちは自分たちの身体を使って作品への愛を表現してるんだなと、ショーを楽しむ気持ちと二次創作のファンダムを楽しむ気持ち両方が刺激されました。次の日も別の友達を誘ってTSに行き、他の踊り子さんや劇場も気になって翌週には池袋(ミカド劇場)に向かいました。

型と創意と、道

 十数分の中で踊る・脱ぐという型を守っていれば何をしてもいいというのがストリップの大きな魅力ですよね。

 その中で踊り子さん自身が構成・選曲・衣装など選択できるのが面白いです。

 音楽もポップスだけじゃなくて、ヒップホップだったり、ノイズだったり、踊り子さんがそのとき好きなミュージシャンだったり。私の好きな曲を使ってる人がいるとすぐテンション上がってしまいます。

 ストリップを観たことのない人の中には、とにかく脱げばいい、誰にでもできる仕事と思っている人もいるかも? でも、たった一人でステージを作り上げるのがストリップ。そこに踊り子さんがさまざまな思い入れをぶち込んでくるのが面白いんです。

 アイドルのように「プロデューサーの意向」とか「社会の求めるもの」とかじゃなく、本人の意志を見ている気持ちになりますね。

 たくさんの演目を次々出していく人や、月一くらいで新しい演目を作る人もいて。自己プロデュース力がないと出来ないですね。「なりたい自分」を想像する力も必要だし。

 時事ネタを作る人もいますしね。BLストリップをやっている栗鳥巣さんは本当にいろんな演目を作る人で、原発をテーマにした演目もあります。今度は「桜を見る会」の演目を作るとか!?

 ストリップには「いつか武道館」みたいなわかりやすい到達点はありません。ステージはデビューしたての子も大ベテランも同じ持ち時間で、演者はその中身を高めていくしかない。「道」って感じですね。

「なりたい自分」が見えてくる

 ストリップとは脱ぐもので、裸になるところがハイライトと思われているけど、実は裸であることは本質ではないんですよね。もちろん、脱ぐことがストリップの型の基本なのは間違いないのですが。

 「裸であることが本質でないことがわかること」が本質というか……。「裸」って社会的な文脈がすごく多いじゃないですか。「裸は大事、他人に見せてはいけない」と女性が言われるとき、「ひとりの人間のプライベートな部分だから」はわかるんだけど、なんか勝手に「貞操を守ることで社会での女としての価値を維持しなさい」とか「ひとりの愛する男のためだけのものとしてとっておきなさい」とかの意味がついてくるような。でもストリップの舞台で裸を見ると、そういう余計な文脈は嘘で、身体は身体だし、本人のためのものだって再確認させられます。

それから、可愛い下着は「勝負下着」とか呼ばれて、男性を喜ばせるためのもの、セックスするときのものと思っていたんですが、舞台上のキラキラの下着を見てると、「普通に可愛いだけじゃん」って。自分が可愛いと思うものを身に着けたいと思うようになりました。女の子向けのアイドルアニメにはコーデを楽しむという遊び方があって、そのテーマとして「キュート」とか「ポップ」とか「セクシー」とかがある。子供向けアニメの優しい世界を出ると「セクシー」は男のためのものになってしまいがちだけど、本当はセクシーは女の子にとって魅力の一要素なんです。ストリップはセクシーを女の子のためのものにしてくれます。

 私、ストリップを見てサルート[ワコールのセクシー& ゴージャスなライン。ストリップでは衣装としてよく使われている]の下着買いました! ジムにも行きはじめ、髪も伸ばして。黒髪って「従順」の象徴みたいな、いかにも男のためのものと感じられて、以前は染めてました。でも、友坂麗さんや翼裕香さんが、登場したときには結っていた長い黒髪を後からバサッと下ろすのが最高で……。「私もこうなりたい!」って。

 自分の身体を自分のモノにした、取り返した感がありますね。「何かになりたい」と言うのも恥ずかしくない。

 先日40~50代の女性たちを劇場に連れて行ったら、皆さん口々に「やっぱり筋トレね」と言ってました。見る人によって、投射される憧れもそれぞれ違いますよね。自分の身体や見た目のケアをしようかなと自然に思えるようになるのもストリップの魅力のひとつです。

 不思議なのは、踊り子さんの手入れされた身体を見て、「自分にはなれない」ではなく、「こうなりたい」と思うところです。

 たとえば、電車の脱毛広告は何か脅迫的だけど、ストリップを観て脱毛しようと思うのはポジティブな気持ちのような。

 広告からの脅迫を受けて「こうじゃなくちゃ」とか、逆に「自分には不相応だ」と感じるのとは違って、もともと持っていた「こうなりたい」という気持ちの背中を押される気がしますね。ストリップを見ているとき。

 世の中には他人をジャッジするふるまいが山ほどあるじゃないですか。特に男の人が女の人の見た目を評価して「あり」「なし」とか言ったりするひどいことが当たり前に行われている。でも、ストリップのステージではどんな踊り子もライトを浴びて輝いている。そこがとてもいいですね。

 アイドルが太ると体型を隠すような衣装を着たり、自撮りを過剰に加工したり。世間の視線に傷つけられた結果、自分を隠さざるを得ないのだろうと思うと、つらくなります。しかし、ストリップはステージの上ですべてをさらけ出している。踊り子さんにもひどい言葉を浴びせる人はいるかもしれません。でも、私はその「隠さない姿」にはげまされます。

後半につづく

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