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おさかなキーボードの現状

やべ〜!キーボード #2 Advent Calender 2023の24枠めを取ったのに何も書いていませんでした。

昨日はミクモさんの『ほぼゼロから始める自作キーボード設計体験記』これすごいですね。なんでみんなそんな恙なく基板を書けるんでしょうか。自分も全く同じタイトルをつけられる内容なのですが、設計ガイドを通らなかったためか四苦八苦しています。ミスった。

プロセスぐちゃぐちゃなので編年体でいきます!

昨10月

この頃ちょっとしたアプリ開発をしていたら、弱小解説動画の外国人が「いま適当に命名した変数がa,o,e…なのはDvorak配列だからやで気にせんでね」と言っていて、調べて目から鱗が落ちた。もともとQWERTYを盲打できないのが作業のボトルネックになっていたが、納得していないことには入り込めない性質なので諦めて(遅々として進まないアダルト自然学習に任せて)いたのである。

配列を変えられるなら話が変わってくる。当時はKarabiner-Elementsの存在を知らなかったのでそれ用のハードが要ると思い、数日のうちに遊舎工房でCorneを買って5列・フォーム設地に改造し、VIAを弄りながら勝手なローマ字配列を考え始めた。

昨12月

適当に自分が覚えられればいいやと思っていたが凝り性が発動してしまい、最終的に100万字を頻度分析して史上最高のローマ字配列を作ってしまった。

2月

大西配列でエタイ300台が安定するようになった頃、右手薬指上(Y)がチャタリングを起こし始めた。感触が良いからと言って低信頼なスイッチを使うもんじゃないし、半田付け未経験だからと言ってホットスワップ不可能なボードを選ぶもんじゃない。しかし同じガワに数万払うのも癪だし、親指や下段のキーキャップの天面ではなく縁が当たるのもそろそろ痛かった。と言って印字や色形の統一を崩して適当な斜めのプロファイルを継ぎ接ぐのも美意識に欠ける。布教資料制作の中で調べ当たったDactyl系譜の造形美にも触発されたが、Charybdis Nanoを孫正義財団で3Dプリントしてみたらデカすぎてびっくり。だんだんとハードも自作することを意識し始めた。

大西配列を布教するために参加したキー部3%で『薙刀式』の大岡さんと合流できたのも大きかった。Discordで手配線のやり方資料Gateronのロープロスイッチの存在を教えてもらったり、3D配列の考え方にも助言をもらいながら、ゼロベースでエルゴノミックな筐体の試作を始めた。

blender

初めはこんな感じで、指の長さと付き方を素朴に反映させていた。親指は非常に快適でこの角度が現在まで残ることになる一方、小指・薬指は恐ろしく押しにくく、今までこいつらは屈筋ではなく指全体を硬直させて手の重みで押していたことに気づかされた。それぞれの指はパワーも可動性も通う神経もまったく個性的で、それを吸収できている現行のフラットなキーボードにも一定のロバストネスを認めざるを得なかった。

4月

エルゴノミクスの先例を洗うべくPinterestをサーフしていたらDygma社のShortcutという倒れたプロジェクトを見つけ、また目から鱗。そうか、3×10のグリッドも崩していいのか。確かにCorne程度の列ズレだと小指上と人差し指拡張下は押しにくく、小指外のほうがなんぼかアクセサブルだろう。有意に短い小指に他と同じ縦3uを担当させるのはおかしい。完全に正しい。関係ないけどどことなく魚に見えるな。どっちみちキーの作用方向と接指方向を独立に考え始めたならキーキャップもモデリングしなきゃいけないし、魚にするか。

ところでKeyboard Input Hackathonに誘われた。当初は30²通りのキー位置の連接の個人/平均速度を測ってbigram頻度と結びつけることでアルペジオ適性を評価できる論理配列の新しい評価アルゴリズムを作って大西配列を補強しようと思っていたが、そういえば今魚作りたいんだ。こういうのは勢いだ。数日前からフライングでblenderをガチり始め、財団には閉館時間にプリンターを回させてもらい、KIH会場には発表数十分前まで遅刻してただ一人ハードウェアを出品した。

キー押下のY軸は鉛直下にまとめながら、ステップスカルプチャーの思想を進めて鞍型のキャップを考案し、ハリボテではあったが好感触を得た。

5月

配線まで至らなかった悔しさと余熱もあって、自分用にしっかり最後まで作ろうと決意。FDM(積層式3Dプリンター)は点で印刷していくので時間がかかるわりに積層痕がダラダラ残るが、指先で触れるものにこれはいけないと思い、光造形3Dプリンターを購入。ボストンでメタマテリアルをやっている先輩の家にステイしたとき間近で運用されていたので不安は無かった。同時に家もなかったので寛大な友人の部屋に使用権と引き換えに置かせてもらう。

音楽家たちとの会食を飛ばしながら

なんとか印刷できた筐体とキャップにPro Microをdirect_pinsで手配線し、QMKを必死でコンフィグ。内部や裏面はグチャグチャだが、それなりに見栄えのいいファンクショナルプロトタイプができ、細かいモデルの改良を繰り返しながら普段使いを始める。

7月

キー部5%に持参したところ、大岡さんに「可愛いから売れるよ」と言ってもらう。自分も製品化をモティヴェにもう少しクオリティを詰めたかったので、ロボコン日本代表の先輩に基板の設計・発注方法や板金の切削加工について教えてもらう。財団に事業費を通し、寛大すぎる友人宅に卓上CNCフライスとボトムプレート刻印用のレーザーカッターを置かせてもらった。

事業計画書
フライス

前後して、初めて遊舎工房に行った時から内心あった「はぁ?いまどきmicro-Bで有線接続?」という感覚を大事に、SMKJPで無線×充電化の技術選定について教えを請うたところたくさんの反応をいただいた。この中でXiao nRF52840にZMKを載せた作例をくださったakeさんが偶然大西配列の使用者で、のちにファーム周りでお世話になる。

9月

しかし無線化は沼だった。当初は風呂敷を広げて「BMPに充電回路をつけたコピー基板を作れるだろう」という話だったが基板担当者に飛ばれてしまい、仕方なく純正BMPで無線プロトを作る。だが単価の高さや度重なる接続不良(たぶんこちらの不手際)に気が滅入り、USBから充電できないのもやっぱり気に食わなかった。

またこの頃おさかなでタイピングゲームをやっていたら右小指を痛めてしまい、小指が階段のように下がっているのがよくないと仮説してスイッチの横並びを完全フラット・5°ティルトの単純なものにした。あれだけグロテスクなエルゴノミクスへの志向から始めてけっきょくこれに収斂したのは敗北感があるが、キーキャップまで統合設計するパラメータの多さに対して圧倒的に試作数が足りず事なかれ主義になってしまった。これから3D配列を作りたい人は、脳内で決め打ちせず、最初に粘土や枠だけのボディにスイッチといろいろな角度のキーキャップを嵌めて空間関係を固めてしまうことを強く勧める。急がば回れ、何事も横着は裏目に出る。

←が古いモデル

12月

リアルタイムリマップを捨ててXiao×ZMKでプロトを作り直す。技適グレー問題については製造元のSeeedを含む各所に問い合わせたが明確な証言は得られなかった。ただまあ先人たちは似たモジュールについてそれを得られたようだし、そもそも誰が言い出した懸念なのかもわからない。これ以降ダメだと言われても「観賞用です」と言って売るつもりだ。フー・ギヴズ・ア・ファック。

あらためて電子部品を選定し、モデル・基板は一から作り直した。例の寛大な友人から知見を逆輸入し、光造形レジンも従来の水洗いレジンから、生体適合で剛性靱性ともに高いアルコール洗浄レジンに移行。

ボトムプレートからのネジ受けは熱圧入インサートナットから六角ナット横入れに変更。光造形レジンは別に熱可塑ではなかった。
サポートはChituboxに頼らず線接のものを手作りすることで仕上がりを向上させた。

基板は当初ココナラに外注していたが、度重なる調整を依頼するうちに自分でも多少KiCadが触れるようになってしまい、充電・リセットを手配するほう(wingと呼んでいる)は自力で書いた。

ようやく機能的に満足がいったのと、これ以上長引かせるとプロジェクトが腐りそうなので、あとは微調整して製品版とする予定だ。ボトムプレートの絶縁シール・マグネット入りのブック式貼り箱のパッケージ・LPとリマップ補助ツールも外注し、組み立て済みのものを遊舎工房で委託販売したい。ボトムプレートの真鍮板の切削→酸化黒染め→刻印の成功をまだ見ていないのが残る心配だ。しかしいろいろな人に助けられながらなんとか完走できそうである。プロダクトデザインはもうやりたくないよ。

来年のキーボードカレンダー投票で最多得票だったのが最後の光

明日はよういちろうさんが『Remapについて何か書く予定』だそうです!おさかなもBMPプロトのときに使わせてもらいましたが、神インフラなので課金してでも保守されてほしいものです。今はメンヘラQMKに手一杯だと思いますが、いつかZMKにも対応しないかなあ。

2024/4/28追記

販売開始しました。

けっきょくこの記事の後も数ヶ月改良を続け、高さを抑えるためにモデルを全面改良(ボディの横軸を凹に、キャップの縦軸を平坦に)し、スイッチ基板も自分で書き直し、きれいなパッケージも届きました。ZMK用のキーマップエディターを含むLPもほぼ自作。
絶縁シールと真鍮黒染めは面倒すぎて断念。遊舎工房への委託も手数料が高すぎて断念し、Squareで直販に。
ようやく仕様にも満足がいき、ハンドメイド品だと言えばギリ怒られなさそうな品質とコストになりました。

頑張る・いつまでに売るといった宣言を破り続け、本当にモノになるのか常に不安な1年でしたが、終わるときは息を吐ききるように自然に訪れるものです。

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