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脱出ゲームトラウマ物語

 数年前、僕たちキモヲタフレンズはFUJI-Qの何とか要塞で、生まれてはじめての脱出ゲーム参加を前に大変緊張していた。少し肌寒い秋の終わり、外に並ぶのは少々寒かったが、そんなことよりも期待の方が上回り、僕たちは楽しく談笑しながら2時間以上をおとなしく列形成に従った。

 ついに建物内まで列は進み、僕たちは尚更緊張しながらも「どんな事ができるのかな?」「難しいみたいだけど頑張ろう!」など初めての脱出ゲームにワクワクしっぱなしだった。2時間以上立ちっぱなしのしんどさも忘れるほどだった。屋内に入ってからは周りの会話も聞こえだした。みんな脱出ゲームを楽しみにしている感じだった。ふと室内を見回すと、数組後のグループが突如床にどかっと腰を下ろし、ノートやらペットボトルやらブルボンのお菓子やら何やらを広げ始め、喋り始めた。地べたで。

 僕たちも最初は「まぁ寒かったし、立ちっぱなしはしんどいしね~」と、気にも止めなかったのだが、そのグループの喋り声がどんどん大きくなっていく。

「ここは○○で△△だから□□で~」

 神様…これは…ネタバレなのでしょうか……。よく見るとそのグループはオフィシャルから出ているTシャツを制服のように全員着ており、いかにも「手練だぜ~玄人だぜ~」という風貌をしていた。

 脱出ゲームにかける青春! 謎解きに奮う知性! 素晴らしい! うるせぇ!!!!!!! アホか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 言うなれば、鬼滅の刃無限列車編やってる映画館の前で「ここで炭治郎と煉獄さんが~~」と原作を解説してるようなものだ。恐ろしい。いや、そのネタバレを聞いたところで、初見の我々には所詮微塵も理解できないのだが、普通、謎解き脱出ゲーム入場待機列でそこの謎解きの復習を会話でするか? という話だ。しかも「周りに聞かせたいんです? マウント?」という大声で、だ。

 まず、列形成中に地べたでピクニックで一つ、

 まず、ネタバレ大声拡声器で一つ、萎えた。

 そして、いざ入場となった時、

「オゥフ・・・・・・」

僕たちはそのグループにタックルで吹き飛ばされる。日大か?

「オラオラ~素人はどいたどいた~! こちとらクリア目指してんだよ!」

 という気合の入ったタックル。一刻を争うアトラクションだ。着いてこれないやつは義務教育で無い限り置いていかれる。世の常だ。素人達をロードローラーのように轢き殺しながら、手練の猛者達はテキパキと何らかの手順通りに何かをして、スッと居なくなった。

 初見の僕たちは圧倒されながらも何か頑張ろう、何からすればいいのかわかんないけど頑張ろう、と走り回り、ただ走り回ってタイムアップを迎える。カードリーダーにたむろする落伍者達に向け、無慈悲に容赦なく第一ラウンド終了のアラームが鳴り響いた。

お疲れ様。「何の成果も得られませんでした…」壁内調査失敗の瞬間だ。

 僕たちはアトラクションから有無を言わさず叩き出され、失意の中、屋外の喫煙所で言葉少なに煙草を吸った。虚しい。何もない。ヴォイド。

「あのチーム、死ぬほど来てるんやろな、ここ」

 初見では死んでもクリアできないというアトラクション。きっと連日時間を割いて足を運んでいるのだろう。

「はぁ…二時間並んで10分くらいで終わったよ…絶望しかない…」

 絶望。ああ、そうだ、このアトラクション…

「?! でもゥチラ、絶望要塞脱出してね?????」

「ほんとだ! 脱出成功してんじゃん! やったね!!!」

「やった~! 二度と来ねぇよクソが!」

 そのように、僕たちが辛酸を嘗めたヴォイド、「絶望要塞」の思い出は、何年経とうとも僕たちの心に、暗い影を落とし続けたのであった。

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