監査と劣悪な労働環境の是正について(知床事故より)

 近年、技能実習生を巡っては、「低賃金で劣悪な労働環境で、奴隷のように労働させている。」という記事が書かれることがある。また技能実習制度に関しては、アメリカ政府など諸外国からも現代の奴隷制度だといわれ、早期の改善を求める声が上がっている。他方日本政府は中国がウイグル族に対して、強制労働をさせていることに対して、批判する政治的スタンスをとっている。この専制国家の少数民族への弾圧を人権という観点から、批判する欧米諸国にとって、今現在ベトナム人等技能実習生に対して低賃金で労働させている状況は、中国のやっているそれと同じに見える。欧米諸国が外国人にしていることを持って、彼らに日本を非難する資格があるのかという視点は別問題として存在するが、このままの技能実習制度を続けていいわけでもないと思われる。少なくとも、劣悪な労働環境で外国人を雇用するいわゆるブラック企業は、監査によって、その不正を見抜き、外国人受け入れの資格を失わさせることが肝要だと考える。
 この監査について、今世間を騒がせている知床遭難事故においても杜撰なものであったのではないかと疑問の目が向けられている。以下に日本経済新聞から記事を部分的に引用する。

2022/05/08  日本経済新聞 朝刊  27ページ  より部分的に引用
 観光船への監査は原則として事前通告して行う。その理由について同省担当者は「船舶は航路や発着時間がバラバラのため、調整する必要がある」と説明する。
 しかし沈没した観光船「KAZU I(カズワン)」の運航会社「知床遊覧船」(北海道斜里町)を巡っては事故当時、原則として事務所にいるべき運航管理者の桂田精一社長が不在。航行中に悪天候になりそうであれば船長の判断で引き返す「条件付き運航」で出航を決めるなど、安全管理規程に違反するずさんな運航状況が次々に明らかになった。
 貸し切りバスの場合、国は14年からバス発着場などでの抜き打ちの街頭監査を実施。悪質な法令違反があった場合に運行停止とする厳しい処分も導入した。
 これらの措置は、7人が死亡した関越道のツアーバス事故(2012年)や15人が死亡した軽井沢のスキーバス事故(16年)を受けて導入されたものだ。
 カズワンを含め5トン以上の小型旅客船は5年に1回の定期検査と年1回の中間検査がある。
 カズワンは事故発生3日前の4月20日、国の代行機関、日本小型船舶検査機構(JCI)の中間検査を受けた。船体には問題なかった一方、陸上との通信手段について、船長は従来の衛星電話から携帯電話に変更すると申し出た。
 同法などによると船体に積む通信設備は携帯電話も認められる。国交省によるとJCIの検査員は当時、運航中に携帯電話が適切につながるかどうか口頭で船長に確認。漁業関係者からも「通じる」という証言があり、検査を通過させたという。
 しかし船長の携帯電話は運航ルート上の大半で通信圏外で、カズワンからの通報には乗客の携帯電話が使われた。船長の携帯電話が現場海域で通じにくいことは通信会社のホームページで確認できるが、検査ではそこまで調べず結果的に不備を見抜けなかった

 監査が、行われているにもかかわらず、監査によって不正が見抜けず、たくさんの人命が失われる最悪の事態になってしまった。何のために、監査をやっているのか、国民から、国土交通省に対して批判があって当然だろう。
 これを技能実習生の問題に当てはめると、監理団体及び受け入れ企業と技能実習生機構との問題になる。監査について、抜き打ちでやっているのかどうかは不明だが、もし事前に連絡して行っているのであれば、早急に抜き打ちで行うように改善すべきである。また調査の強制力についても、任意の調査でなく、正当な理由なき拒否等に対しては、罰則できるように改善すべきである。知床の問題と異なり技能実習生の問題は、労働問題であるため、そこには人間関係も問題も関わり、扱いが難しい。ただ悪質なセクハラや、暴行などが確認できればすぐに受け入れ停止にできるように、外国人が気軽に話せる環境を作ることが大切である。そのため、監査の際には必ず外国語通訳を連れていくことをしていないのであれば早急に行うべきである。
 日本はすでに外国人なしには回らない国になってしまっている。中小企業が大半を占める日本では、外国人なしで回らないのであれば、淘汰してしまえという極論も通用しない。そうしてしまうと、中小企業に勤める労働者が退職することにより、消費が急減し、日本経済のGDPは縮小するだろう。そうすると残る道は、外国人の受け入れをするしかなくなる。(私は退職があっても、次の仕事がすぐに見つかれば経済的打撃が少ないため、もっと労働市場の流動性を高めるべきだと思うが、これには日本型雇用の問題にもぶつかる。)是非は別にして、日本政府は、改革を後回しにして、移民受け入れに舵を切っている。そうなのであれば、監査の有効性を高め制度をクリーンなものにしていくほかないと考える。


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