<読書>2021年1月読了、山谷剛史(2020)『中国のITは新型コロナにどのように反撃したのか』星海社
山谷剛史(2020)『中国のITは新型コロナにどのように反撃したのか』星海社
中国のITはここ5年間で凄まじい発展を遂げた。BATの一角、BAIDUは音声アシスタントや自動運転のためのAIを研究開発し、ALIBABAはECサイトのみだったのが、物流や金融にまで業務を拡大し、TENCENTは微信のみならず、動画やゲームなどの領域にも各出ししてきた。深圳は「起業の都」と呼ばれ、様々なアイデアが次々に社会実装されて行きました。例えば2016年には、ofoなどに代表されるシェアサイクル、美团、饿了么、百度外卖に代表されるデリバリー配送、新しい小売の形態としてのアリババ系の盒马鲜生、2017年には無人コンビニが実装された。またECサイトでは、アリババ一強ではなくなり、独自の配送網を有する京东、主に低所得者をターゲットとする拼多多もまた近年では存在感を示すようになりました。キャッシュレス の普及でネット決済がしやすくなったのを受け、ネットビジネスに新形態も生まれ、ライブコマースなどが注目されるようになったり、有料動画なども普及した。
この中で新型コロナウイルス禍が発生した。約20年前にも中国は疫病に苦しめられた。しかし今回はその時と違い、丸腰ではなかった。初動や実体の告発者への政府の対応には問題があったが、ITの基盤が整っており、かつ強権的な中国は新型コロナ感染症に対し、西側先進国に比べて、被害を抑えて対処することができた。ではその基盤とは何でそれがどのように新型コロナの封じ込めに役立ったのかが本書で書かれている。
基盤1 キャッシュレス スーパーアプリの普及
→2017年ミニプログラム機能の導入で、新たにアプリをインストールする必要がなくリソースも取らなくなり、このプラットホーム上に対コロナの緊急必需サービスを追加した。これにはマスクの予約購入、電子保険証をスーパーアプリで使えるようにし、病院や薬局での支払いの電子化、消費振興券の配布先をスーパーアプリにする、スーパーアプリでの病院の検査予約、スーパーアプリでの通行手形である、3色のQRコードなどがある。
日本の課題:マスク品切れ、10万円給付の遅さ、データ通信料の高さ、COCOAの導入率の低さ、都道府県間の移動
基盤2 オンライン教育
→中国では日頃から学校との連絡は微信で行っていたので釘釘を導入でき、タブレットではなくスマホでオンライン授業をできるようにしたため移行が早かった。教師も2016年からの政府の方針のもと授業動画を撮っていて慣れていた。テンセントが教育会社と提携し、オンライン授業サービスを開始した。
日本の課題:オンライン授業導入の遅さ
基盤3 宅配配送の基盤
→普及している宅配サービスだが、所得格差によって農村部の人が配達員を担うことで、大量にニーズに対応できた。マンション入り口に専用棚を設ける。ライブコマースで農民がデジタル直売、アプリであらかじめ商品を予約した上でのガソリンスタンドによるドライブインでの商品販売など消費者の選択肢が豊富だったからこそ、非接触が実現できた。
基盤4 ECサイトと異業種を結びつける力
ECサイトに偽物販売、高額転売防止をさせる。京东は独自の流通網を駆使し、ビッグデータで必要な数を予測し事前に倉庫に補充しておき配送し、アリババは物流企業菜鸟が海外からマスクを取り寄せた。またハイアールはネットソリューションコスモプラットで製造環境を提供し、マスク自動生産ラインを6日で作り上げ、医療物資資源情報プラットホームを提供し、マスクの素材の需要と供給及び物流企業のマッチングに役立たれた。
日本の課題:物資不足
基盤5 5G、VR、A Iの基盤
2019年3月に5Gの商用サービスが開始され、5Gの低遅延性が様々な領域で役に立った。例えばメグビーなどの監視技術を用いたAIの分析を伴う素早い体温チェックに使われたり、武漢で作られた火神山医院ではチャイナテレコムとユナイテッドイメージインテリジェンスによるコロナ分析システムではCTスキャンの画像をAIで素早く分析し作業時間の短縮、正確性の向上が図られた。依図科技もまたCTスキャンからコロナをA Iで素早く発見することを可能にした。またチャイナモバイルとVR企業熾橙数字による遠隔診療システムが実現できたのも5Gのおかげである。
日本の課題:オンライン診療、体温確認の雑さ。
基盤6 ドローンの基盤
もともと使われていたECの運搬だけでなく、病院への物資の運搬、街の消毒、体温測定や警告など警察利用も行われた。
基盤7 信用スコア
社会信用システムに新型コロナ対策の項目を入れることで迷惑行為を行うことへの抑止力に役立った。
日本の課題:鼻マスクオヤジ。マスク拒否男。
これらの基盤によって、感染対策、感染防止と日常生活の両立、経済ダメージの軽減、深刻な医療崩壊や感染者数の大幅な増加、不当に個人の自由を主張するものの取締りなどの新型コロナ特有の課題に対処することができたのである。
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