サンタに願いを

 十二月二十三日。サンタ村では、急ピッチでプレゼントの準備が進められていました。

 世界中から届けられたサンタへの手紙、サンタへの願い。普段は仕事もしないニートなサンタたちにとって、クリスマス前の一週間が一番忙しい時期です。

「おい! このプレゼントの配送先間違ってるぞ! 三つあっちのグループだ!」

「またケイティとかいうガキが欲しいものを変えやがった! 先月から始まってもう十回目だぞ!」

「なんだこの願い!? クリスマスイブに彼氏とロマンチックなデートができるように東京に雪を降らせてほしい? 爆発しろ、リア充め! その日の気温じゃ雪を降らせることなんてできねえよ!」

 人間界で言われているほどサンタたちは優しくありません。好き勝手に送られてくるプレゼントに悪態をつく彼らは、無理なお願いやプレゼントは届けないこともあります。サンタたちも万能ではないのです。

「まずい、この重労働は老体に響く。明日のプレゼント配布までもたねえよ…」

「頑張れ! お前が倒れたらお前の担当区域のプレゼントをだれが配るんだ!」

「俺なんてもう三日も寝てねえ。流石に死んじまいそうだ」

 あまりの過労に弱音を吐くサンタもたくさんいます。サンタの世界も人手不足で、毎年ギリギリの中でのやりくりが続いているのです。

 そんな夢も希望もないサンタの世界ですが、それでも世界中にプレゼントを届けるという仕事はみんなやり遂げようとします。なるべく多くの人のもとへプレゼントを届ける、それがサンタの義務だからです。

 厳しいプレゼント準備が続く中、とうとう人間界の十二月二十四日になりました。

 ここまでくると新しいプレゼント希望も少なくなり、サンタたちはもっぱらプレゼントを配布先ごとにまとめる仕分け作業に入ります。仕分けが終わった区域から、順次配り始めるのが決まりです。

 そんな中、あたらしい願いがサンタ村に一つ届きました。すでにアジア地域へのサンタたちが出発し、残るは後発のヨーロッパ、アメリカ大陸組です。よりにもよってこのタイミングで何がきたのかと、うんざりしながら一人のサンタが願いの中身を見ます。それは日本のある女性から送られてきたお願いでした。

「今更なんだ? もう日本へのサンタは出発してるから、プレゼントは間に合わねえぞ」

「願いによっては叶えられないってことにするか、明日の後日便行きだが・・・」

 そこまで言ったサンタの言葉が、途中でとまります。ヨーロッパ担当の彼は本来、日本になど行くことはありません。しかし願いを読み終わった彼は、嫌そうな顔をしながらも、こう言いました。

「いや、この願いは必ず叶える」

「ええ!?」

 まわりのサンタたちが驚きの声を上げ、口々に止めようとします。しかしヨーロッパ担当のサンタは意志を変えません。不思議がるまわりのサンタに、だまったまま手紙を見せます。

 その手紙を読み終わったサンタたちが、反対の言葉を飲み込みました。そのまま神妙な顔になり、やがてヨーロッパ担当のサンタの肩を叩きました。

「任せてもいいか?」

「任せろ。俺が朝までに必ず届ける」

 そういうと彼は、ソリに乗って夜空へと飛び立って行きました。

 


 

 日本のある街。十二月二十五日の明け方に、あたらしい命が誕生していました。お母さんの腕の中に抱かれた元気な男の子は、穏やかな寝息をたてています。その寝顔を見つめながら、お母さんが言いました。

「よかった、サンタさん、ちゃんとお願いを聞いてくれたんだ」

「ん? お願い?」

 お父さんがお母さんに訪ねます。お母さんは幸せそうな笑顔を浮かべ、赤ちゃんを撫でながら言いました。

「そう、陣痛で苦しかった時にね、お願いしたの。元気な赤ちゃんが、無事に生まれますようにって」

「そっか。ちょうど今日はクリスマスだ。きっと、サンタさんが願いを聞き届けてくれたんだね」

「こんな年で、サンタさんにお願いも変だけどね。それでも、こんどお礼の手紙を書こうと思う。だめかな?」

「いいんじゃないかな。僕もお礼を言いたいから、二人で一緒に手紙を書こう」

 お父さんとお母さんは静かに笑いました。

そんな家族を、サンタは空の上から見ていました。願いを無事届けることができたサンタは、幸せそうな夫婦と子供の顔を見て、まだ月が残る空へと飛び去っていきます。

 たくさんの願いが届けられるサンタ村。どれだけ辛く大変でも、サンタたちは誰かの幸せのために、プレゼントを届けます。

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