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クレしんの映画ってオトナ帝国とか戦国大合戦の話ばかりされがちだけど『アクション仮面VSハイグレ魔王』の話をもっとしたい

クレしんの映画の話を友達や知人とするたびに毎回している話なんですけど、やっぱり『アクション仮面VSハイグレ魔王』が一番凄い作品なんじゃないかって僕は思うんですよ。

第1作目だからすごい

まず何が凄いってこれがクレしん映画の第1作目だという事実がもう既にすごい。だって、「クレヨンしんちゃんの映画を作ろう」って企画が持ち上がったとき、こんな挑戦的なジュブナイルSFのプロットをやろうと挑戦的なことを言い出した人間が間違いなく制作者の中に居たからだ

この話は大雑把に言えば「しんのすけの大好きなヒーローのアクション仮面が悪のハイグレ魔王と戦う」という一見めちゃめちゃチープな話なのだが、〝アクション仮面というヒーローが実在する並行世界の人間〟という設定を軸としたパラレルワールドSFを軸としたストーリーで、〝誰も見たことがない幻のトレーディングカード〟というガジェットの都市伝説っぽさとか、〝日常が徐々に異世界に侵食されてズレていく不気味さ〟の丁寧な描写など、大人が見てもかなり見応えのあるSFとして楽しめる。

あと、当時子供だった自分が見たとき「しんのすけが見知らぬ路地を曲がった先で謎の駄菓子屋にたどり着く」という序盤のシーンが、ものすごく印象に残った。「もしかしたら自分も現実に同じ事が起こるかも」とワクワクさせる夢があったのだ。未だに変な路地を見るとつい曲がってみたくなってしまうが、多数の迷子を生み出したと考えると実は教育的には良くなかったかも知れない。

今でこそクレしんの映画が「泣ける」とか「大人でも見られる」という印象が当たり前になっているが、第1作目から「子供と一緒に見に来る大人も楽しめるような作品にしよう」という意欲は傾けられていたと思うし、この作品のヒットがあったからこそ続く作品も挑戦的な2歩目3歩目を踏み出せたのではないかと思う。いかなる数学の天才が居たとしても、数字を最初に考え出したやつがやっぱり一番偉いと思うんですよね。

子供の夢を大切にしている

もう一つこの作品が改めて見てめちゃめちゃ良いなと思ったのが、とにかく〝子供の夢を大切にして壊さない〟という絶対的なポリシーでこの作品が作られているということだ。そもそもアクション仮面という存在自体、アニメの劇中劇でしかなく、現実で言う仮面ライダーのパロディーみたいなものでしかない。

だが、この映画の冒頭はそういった画面外の事情を一撃でぶっ飛ばすかのようによくできていて、〝テレビ番組の撮影中にアクション仮面が本物の敵の襲撃に遭う〟という展開だ。

テレビ局で撮影用のセットやカメラ機材が並ぶスタジオという作り物の中に、爆発でうがたれた本物の大穴が地面に空き、撮影スタッフたちが深刻な表情でそれをのぞき込むというカットがあるが、ここめちゃめちゃセンスいいなと思う。撮影スタジオという虚構を作り出す現場と、その中で本物の爆発の跡に衝撃を受ける大人たちという対比が、「アクション仮面は実在する」というリアリティをかき立てられる。子供向けのアニメで特撮ヒーローの撮影スタジオという夢のない場面を見せるのは禁じ手っぽく思えるが、子供の夢を突き放しているように見せかけて実は逆に大事にしている。
テレビの前で番組を見ているしんのすけに、みさえが「アクション仮面なんて存在しない」とわざわざセリフで言わせているのも、脚本としてよくできている。

そして、このシーンの良いところって、例えばこの映画を見終わった子供が、そのあと他の特撮番組を見たとき「このヒーローもアクション仮面みたいに本当は実在するんじゃないか」と思わせることができる。公開された1993年は残念ながら仮面ライダーシリーズは放映されてないし、ジャンパーソンとかブルースワットは逆に現実味がありすぎるけど・・・。

アクション仮面がカッコイイ

また、アクション仮面というヒーローの描き方も、かなり丁寧に作られている。メタ的に見れば「仮面ライダーや戦隊ヒーローのパロディ」というパチモノめいた存在なのだが、作中での彼の立ち振る舞いやセリフの一つ一つ、そして登場から活躍シーンまで、一貫して子供の憧れるヒーロー像をものすごく丁寧にやっている。制作側が特撮ヒーローの存在を小馬鹿にしたり子供だましと斜に構えず、真剣に子供が憧れるヒーローとして描こうとしている。

これは個人的な印象だが、こういうアニメに出てくる劇中劇って、なんだかやたらとパロディ元の特撮ヒーローやロボットアニメを小馬鹿にしたような描写が多い。わざとインチキくさく、偽物っぽく描こうとしがちなのだ。本物を描けない作者が〝逃げ〟としてギャグっぽく描いてしまいがちなのだ。
だが、この作品の一番芯になっている要素は「テレビの中のヒーローが本当に実在していたら」という子供の夢そのものだ。なので、アクション仮面というヒーローを「本当に子供が憧れるようなヒーロー」として描かないと成立しない。カッコ悪いパチモノの存在として描くと、しんのすけの憧れもまたパチモノになってしまうからだ。
この映画を見ている観客が「アクション仮面ってカッコイイ!」と心から思えて初めて、カッコイイと思うしんのすけの気持ちに共感できるし、このカッコイイヒーローが実在するという嬉しさにも共感できる。

そしてこの映画のラストに「しんのすけがハイグレ魔王倒す」というシーンなのだが、このラストシーンが王道でベタで真っ直ぐに中心を撃ち抜いている。
映画の冒頭で〝テレビの向こう側の存在〟としてアクション仮面を見ていたしんのすけが、1時間30分という時間の中で冒険し成長した結果、〝憧れのヒーローと肩を並べて戦う〟という場面に昇華しているのだ。「男の子は誰でもヒーローになれる!」という子供の夢を真摯な態度で映像作品に落とし込んでいる。いやキュアエコーの話じゃないんですけど。

もちろんここで上げた以外にも、子供向けらしくてコミカルで楽しく笑えるシーンが満載で、子供向けとして飽きさせないアニメ映画なのだが、「子供の夢を大切にする」という真ん中に通った哲学の存在を意識してみると、大人にとっても「子供に見せたい夢のある作品」という印象を改めて感じさせてくれると思う。いやハイグレ魔王って字面は改めて本当にひどいんだけど。


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