The end of Summer
明け方に目がさめることがあると、思いの外空気がひんやりしていることに気づく。あわてて足元のタオルケットを引き伸ばす。
通勤路にも、蝉の死骸がいくつも転がっている。鳴き声もだいぶ少なくなってきた。
ひまわりは真っ黒な顔になってうなだれて、空には薄いうろこ雲。自然はもう秋を迎えようとしている。
休みの日、久しぶりに車で郊外へドライブに行った。前にユリと行った海辺へ。不味かったコーヒーショップは避け、地元でコーヒーをテイクアウトした。
ぼんやりと考えるのは、これからのユリとのこと。
ユリのまなざしを思い出す。言葉はいつも乱暴だけど、ときどきわたしが辛いときにそばにいて助けてくれるように思う。
でも、わたしはなるべく、気が付かないふりをしている。
ユリには、もうみっともないことをたくさん見られていて、取り繕うものもない。なぜわたしに構うのか、不思議だ。
ときどき熱いシャワーを浴びてるような、強い視線にドキドキしたことがないといえば嘘になる。
わたしは、これから先もジョンホ先輩を忘れられないまま、満たされることなく空っぽのまま生き続けるんだろうか。いつか誰かと愛し合える日もくるのだろうか。それが......。
「ジーッ」
突然何かが、足にぶつかって、ポトリと落ちた。
蝉だった。仰向けになってもがいている。
「まるで今の俺のようだな」
静かに見守る。
蝉の一生は、地中に7年、地上で1週間とかせいぜい2~3週間と聞く。その間、精一杯生きているんだろうな…。
正直、自分だって、いつまで生きてるのかわからない。
どうせいつか終わる旅ならば、悔いのないようにしたいけど......。
「ジリンジリン (スマホの着信:ユリ)」
「先生? いまどこ?」
「うん? 気分転換にドライブにきてる。漢江公園だよ」
「ふーん。じゃあ、俺が行くまでちょっとそこで待ってて」
「は?」
・・・
ぼんやり海辺の鳥を見ていると、肩を叩かれ、ふりむくとユリがいた。
「なんで誘ってくれないの? 一人で来るなんてズルいじゃん」
ユリがふくれて言う。
「もう夏も終わりですね」
何気なく隣に寄り添ってくるから、ちょっと離れる。
するとまた間を詰めてくる。
「あ~もう!」
首に腕を回して、周りからみえないようにすばやく頬にキスしてくる。
「どうせくだらないこと考えてるんでしょ? 歳の差がどうとか俺の将来だとかなんだとかって」
「心配いらないよ。うまくやれるって」
「ユリ……」
「俺の気持ち、もうわかってるんでしょ。逃げないでよ。てか、もう逃さないから!」
すごい目で圧をかけてくる。ああ、もうこの目にはやられる。
ほんとはうなづいちゃダメなのに…つい下をむいてしまう。
「ジージー」
足元の蝉がまだジタバタしてる。ひっくり返そうと足で触るとあわてて飛び立った。まだ力があったことに驚く。わたしにもまだ可能性があるのかな…。
「わかった。お前が飽きるまで付き合うよ」
ユリは、ちょっと嬉しそうにそっぽを向いて、ドンッと体当たりしてくる。
「誘拐犯なんだから、責任とれよ」
自分の手の中に掴んだものが、いつまで輝くのかわからないけど、まだ来てもいない不幸を嘆くのは、もうやめようと思った。
fin
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