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2021年にファンタジーSF巨編最新作を見せてくれる「仮面ライダーセイバー」


仮面ライダーシリーズは、日々進化する特撮技術を駆使した、時にSF、時にファンタジーな作品を一回30分のコンパクトな尺に収められ1年間の放送を通して毎週楽しむことができる国産エンタメの宝だ。今年は「聖剣と本」をテーマにした仮面ライダーセイバーということで、聖剣、ドラゴン、騎士団(ソードオブロゴス)、全知全能の書…といったかなり古き良きファンタジー作品の要素が詰まっている。2021年にこれだけの質の高い技術で作成された剣と魔法の実写ドラマを見れることはここ以外ないだろう。

剣と魔法の特撮(VFX/CG)ファンタジーの大作といえば1977年に第一作が発表されたスター・ウォーズシリーズは2020年に完結し、映画ハリー・ポッターシリーズは2001年に始まり2011年に完結し(派生のファンタスティック・ビーストシリーズも2018年まで)、映画ロードオブザリングシリーズは2001年に始まり2003年に完結した。莫大な予算に裏打ちされた技術をふんだんに使った剣と魔法のファンタジー大作映像作品は既に完結している。

2021年現代、時代の流れ的に現在人気があるのは”現代社会に近い世界観のSF”(シン・ゴジラ、パシフィック・リム)もしくは”古典作品のイデオロギーをメタ的に破壊するエンタメ”(異世界転生チートもの、転生悪役令嬢が自身の運命を書き換えるものなど)であるように体感している。仮面ライダーセイバーの前番組である仮面ライダーゼロワンも、現代とリアルなごく近い未来の社会でAIをテーマにしたリアリティある世界観とそこで生きる人物の描写が本当に素晴らしく、話題性に富み、人気も高かった。

一方で、剣と魔法(ワンダーライドブックによる変身をはじめとした能力の数々を魔法とまとめさせてもらう。)のモチーフはどちらかというと「古典作品」に該当するだろう。仮面ライダーセイバーの目玉の一つである「多人数」が「世界の均衡を守る組織」として活動するのはスター・ウォーズにおけるジェダイ騎士団、ハリーポッターにおける魔法学校・各寮の組織に重なり、これもまた古き良き古典作品の必須要素でもある。これら騎士団的組織(それなりの人物の集団)の活躍を描くには多数の人物を生き生きと描きつつ本筋をたるませず最後は広げた風呂敷を畳み、カタルシスを伴う完結に導ける高密度・長期間の執筆に耐えうる原作者(脚本・監督)の力量と、それを支え続ける制作環境(編集・プロデューサー)の力量が問われる。どんなに普遍的な魅力を持つ古典作品の要素を汲もうが作られた作品が古臭くて面白くなければ人は見ない。また、制作環境にはもちろん資金が必要であり、装備品一つ、背景一か所が現代社会と乖離している古典作品の実写化は資金繰りが大変なわりにリターン(興行収益)が少ないのかもしれない。それゆえ企画にはかなり厳しい博打を打つ覚悟も要りそうだ。

このように、時代の流れもあるのか、古典的なファンタジーを骨子とする新規の実写作品を見る機会はかなり少なくなってきている。しかし、仮面ライダーセイバーはそこをかなり補って超えてくるような古典作品の良さを汲んだ最先端特撮ドラマとして見せてくれるのだ。

古典作品の要素を汲みながらも主人公を言語的コミュニケーション能力の高い「小説家」にすることで、話し合って分かり合えることは主人公を中心とする登場人物たちにきちんと話をさせ、それで納得できれば共闘する、納得できないならば別離・対立する…といったストーリーの運びがあるので風呂敷だけが無限に広がりコミュニケーション不足による登場人物の軋轢が発生するといった視聴者側のストレスが少なくなるように設計されている。

さらに公式HPを見ればオンエア上説明しきれないがストーリー上必ずしも知らなくてOKなことはコラムの形で補足される。自分の視聴レベルにあわせて公式が段階的に情報を整理し提供してくれる優しいコンテンツデザインなのだ。


これはメインプロデューサーの高橋一浩氏が古き良きファンタジーを愛していることと(以前は騎士竜戦隊リュウソウジャーのPを務めた)、過去に仮面ライダーゴーストで高橋氏とタッグを組み、この度ライダーに戻ってきたメイン脚本家福田卓郎氏の功績が大きい。仮面ライダーゴーストで得た様々な経験を活かして成長し、今作にぶつけていることが見るたびに伝わってくる。そして製作チームの様々な年代の人たちがよりこのコンテンツを広く・様々な層に愛されるように作り上げた、才能と努力の結晶だろう。

2021年にこれだけの質の高い技術で作成された古典ファンタジーの要素を汲み、なおかつ面白い実写ドラマを見れることはかなり貴重な体験であり、本当に毎週が楽しい。この良さを最後まで描き切ってくれることを期待している。

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