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「特集 子どもと日本語教育―専門家の養成・研修のあり方を実践から考える」

『早稲田日本語教育学』は、早稲田大学大学院日本語教育研究科(以下、日研)の紀要ですが、2021年に刊行された第30号の特集は、「子どもと日本語教育―専門家の養成・研修のあり方を実践から考える」でした。

 この特集には、川上郁雄・石井恵理子・池上摩希子の鼎談「子どもと日本語教育―専門家の養成・研修を実践から振り返る」のほか、12本の「実践報告」が掲載されています。そのすべては、以下のURLから無料で閲覧できます。

https://waseda.app.box.com/s/uzia0hdcj0uynrcb53eh8oyu7f6pvpj7

 この特集は私の責任編集で編まれました。「日研設立20周年記念特集として」と題された「緒言」には、特集の趣旨が次のように説明されています。

「早稲田大学大学院日本語教育研究科(以下、日研)は、2001年に設立された。2021年3月で20年が経過し、設立20周年を迎えた。(中略)。
 日研は、設立当初から、「日本語教育学」を主専攻とする独立大学院(学部を有しない大学院)として日本語教育学界では独自の位置を占めてきた。そのミッションは、「日本語教育学の知見と経験を持って社会に貢献できる専門家の養成」にある。実際に、修了生は、高等教育機関だけではなく初中等教育機関や社会教育等で日本語教師になる人、看護介護等の外国人人材養成・派遣から一般企業等に従事する人など、幅広く社会に貢献している。その観点から、日研は、設立15周年記念事業として、「日本語教育と社会の関わり」を「公共性」を視点に研究を重ね、その成果を『公共日本語教育学―社会をつくる日本語教育』(川上編、2017)としてまとめ、刊行した。
 今号の特集の趣旨も、その研究成果の延長線上にある。近年、日本語教育を取り囲む社会的環境が大きく動いている。その一つは、2019年に施行された「日本語教育の推進に関する法律」である。この法律の施行により、子どもの日本語教育の教員養成・研修に関する社会的関心と要請がこれまで以上に高まってきている。文部科学省の調査によると、「日本語指導が必要な児童生徒」数も5万人を超えており、学校現場もどのような日本語教育を行うか、課題も多い。
 これらの現状を鑑み、本特集は、日研がこれまで行ってきた「年少者日本語教育」の専門家養成と実践研究を振り返り、その成果と今後の研究の方向性を示すことを目的として企画された。
 日研はこれまで「理論と実践の統合」をモットーに専門家養成教育を行ってきた。「理論と実践の統合」というのは、単に「理論を実践に応用する」という意味ではなく、「理論と実践の往還」という視点に立っている。つまり、実践から立ち上がる知見を理論化し、新たな理論をさらに実践へ移し、そのプロセス自体を研究と捉えるという「実践の学」としての日本語教育学を標榜している。したがって、子どもの日本語教育における専門家養成教育においても、実践は外せない柱となっている。
 同時に、私たち日研の教員は、日研の20年間の専門家養成教育が実質的に成功しているのかどうかを検証する必要があるという問題意識を持っている。その検証には、日研教員側の視点からだけではなく、日研修了生側の視点も必要であろう。そこで、本特集では、日研教員だけではなく、日研修了生にも執筆をお願いした。したがって、本特集のテーマは、日研における日本語教育の専門家養成教育は子どもの専門家をどのように養成しているのか、また教育現場の研修にどのように生かされているのかについて、「実践」の視点から検証することである。特集のタイトルが「子どもの日本語教育」ではなく、「子どもと日本語教育」とした理由は、子どもに対する日本語教育という限定的な議論ではなく、子どもという日本語学習者と日本語教育の関係を広い視野から検討するためである。」

 この特集の最初に配置されたのが、前述の鼎談です。テーマは、「子どもと日本語教育―専門家の養成・研修を実践から振り返る」。その鼎談は、以下の小見出しで構成されています。

1. 現状について。
2. 教育現場の課題と専門家の育成・研修。
3. 大学における日本語教育実践の意味。
4. 子どもを対象にした日本語教育実践の意味。
5. 大学と自治体との連携―「鈴鹿モデル」と日研のプロジェクト。
6.「JSLカリキュラム」「DLA」「JSLバンドスケール」は教育現場に役立つのか。
7. 海外で日本語を学ぶ子どもの教育的課題は何か。
8. 子どもの日本語教育の社会的貢献とは何か。

 その鼎談の次に、「実践報告」が続きます。最初の「実践報告」は、「「年少者日本語教育」専門家養成教育を考える―実践の視点から」(川上郁雄)。ここには、私自身がどういう経緯で「年少者日本語教育」に携わり、何を目指して子どもの専門家養成教育を行ってきたのかが語られています。

 さらに続く11本の「実践報告」は日研教員4人と修了生8人が、それぞれの様々な実践を紹介しながら自身の実践論を展開しています。

 これらの鼎談と「実践報告」から何がわかったのかについて、「緒言」で次のようにまとめられています。

「第1は、日研の教員の教育観は実践から形成されているということである。日研教員は、自分が受けた養成教育だけではなく、移動の経験や子育て、日研等での実践経験が、自らの担当する養成教育の基礎となっている。そして、それらの経験を通じて形成される日本語教育観をもとに日研での「実践研究」教育を行っている。そのため、その養成教育は、日研生の日本語教育観の形成に大きく影響していることがわかる。
 第2は、日研修了生は日研で養成教育を受け形成した自らの日本語教育観を、修了後のさまざまな実践を通じて、さらに更新しているということである。修了生の教育観は、子どもの日本語教育を考える時、日本語の言語知識や教え方のスキルだけではなく、子どもを広い視野で捉え、全人的な成長と育成を重視するという意義であり、教育観である。
 第3は、日研教員も日研修了生も、日本語教育の専門家の養成において、実践が欠かせないと考えているということである。そして、養成と研修を時間の前後や場所の違いで区別するのではなく、相互に連関しているとする見方に立っている。これは、日研教員と修了生という区別を超えて、子どもの日本語教育だけではなく、日本語教育に関わる人材育成という課題についても言えることであろう。」

 この特集が示唆することは、子どもに関わる日本語教育の専門家養成教育とは、子どもに日本語を教えるだけの実践者を養成することではなく、実践を通じて自らの子どもの捉え方、日本語教育観や実践観を常に更新し続ける実践者を育成することではないかということです。

 このことは、このnoteにある「セルフ・ラーニング研修」の実践の考え方と同じです。

 

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