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「管理職は愉快です」復刻版 第1回
はじめに ~苦労の中から楽しみを~
管理職は愉快です
管理職の苦労や悲哀、忙しさ、虚しさなどを挙げたら切りがありませんが、それ以上に愉快なことがたくさんあります。
最近の風潮で異議を唱えたいものがあります。
それは、課題とか苦労とかを真っ先に言い募る風潮です。
管理職は魅力がない。苦労ばかりが多くてつまらなそうだ。上からの指示・命令に従うばかりで、主体的にできることなどないと、ネガティブな物言いが流行しています。
豊かな社会になり、私たちは勘違いをしているのではないでしょうか。
つい最近まで、人生や仕事は苦しみや悲しみに満ちているものとされてきました。
今は豊かになり、生き甲斐や、やりがいがあることが当然とされるようになりました。
しかも、それらを味わう前から知ることができると勘違いする人が増えました。
仕事で苦労することは当たり前のことです。
当たり前の苦労を声高に言い募るのは、大人のすることではありません。
苦労や悲しみの中から楽しみを見いだし、愉快に生きてみせるのが大人の矜恃ではないかと思っています。
暗いところばかりを指摘し回るよりも、明るいところを見いだして生きるほうが、誰だって愉快でしょう。
ですから、管理職はとても愉快です。最近の風潮に逆らって、管理職の楽しみ方を考えてみようと思います。
苦労話は、粋ではありません。明るい失敗談は、少しだけ粋な気がします。
後から来る人たちに、軽やかに楽しむ姿を見せてあげたいものです。
皆さん、だまされたと思って管理職になってみてください。
これからお話しすることは、基本的に事実です。
ただし、教頭、校長時代などの体験に、明るいウソや爽やかな冗談を入れたりして、のびのびと脚色するかもしれませんから、お気をつけください。
こう書くと、「ウソはいけない」と怒る人がいます。
確かに、ウソはいけません。
しかし、現実はさまざまなところにウソが混じっています。
事実をある一方の価値観から切り取らないことです。事実をしなやかに受け止めて、多面的・多角的に見ることです。
そうした柔軟さを身につけなければ、愉快に生きることはできません。
《心得一》事実をしなやかに受け止め、多面的・多角的に見る
例えば、たいていの著者は誠実にホントのことを書いているつもりでいます。
私も誠実にホントのことを書くつもりです。
しかし、記憶には自信がありませんし、ホントのことを正しく伝える能力があるとも思えません。
ですから、無意識のうちにウソや冗談が混じり、脚色も入れてしまうだろうと思います。
「ウソはいけない」と簡単に割り切れるものではないのです。
管理職には事実をしなやかに受け止め、多面的・多角的に見る柔軟さが必要です。
愉快を味わうには、柔軟さを身につけておかねばなりません。
人という生き物は、自分であっても不可解なものです。
ですから、世の中は複雑怪奇です。
しかし、だからこそ、生きることが愉快なのです。
混沌としているから、エネルギーに満ちているのです。
人のなかに光と闇が混在し、善悪を簡単に分けられないから、教育は奥が深くて愉快なのです。
という理由で、この連載を始める決心をしたのですが、この決心の理由を簡単に信じてはいけません。
多面的・多角的に疑ってください。
教育長という、それほど暇ではない職に就きながら、「管理職は愉快です」の連載に挑戦しようとするには、差し迫った理由があるに違いないと気づく疑い深さが必要です。
この疑い深さがなくては、管理職を十分に楽しむことはできません。
「管理職は愉快です」に挑戦する本当の理由
T県では、管理職をめざす教員が激減しています。
小中学校の2015(平成27)年度教頭候補者選考では、志願者431人中、登載者が235人の1・8倍の倍率でしたし、県立高校及び特別支援学校の県立学校等15年度管理職候補者選考の前期選考では、志願者44人中登載者が31人の1・4倍の倍率でした。
10年度選考においては、小中学校で志願者1165人中登載者が330人の3・5倍、県立学校等で志願者121人中登載者が40人の3・0倍の倍率でしたから、5年前と比べても志願者数が大きく減っていることがわかります。
さらに、10年前と比べると志願者数は4分の1程度に減っています。
しかも、実態は、倍率1・8倍や1・4倍という数字以上に厳しいものがあるのです。
県立学校では、今回、44人受験して13人が不合格となりました。
しかし、この13人は管理職候補者になれないというわけではありません。
翌年や翌々年に合格する人もいるでしょう。
つまり、今年受験した44名のうち管理職になれない人の数は、13人よりはるかに少ないのです。
こうした観点から見れば、管理職候補者選考の合格率は1・1~1・2倍程度ではないかと思われます。
これは大問題です。
管理職としての適性が十分ではない人が管理職になってしまうかもしれません。
現在、学校教育は大変な激動のまっただ中にいます。
学校のトップである校長が舵取りを間違えると、子供たちや保護者、地域の方々から見放されてしまうでしょう。
不作為でやり過ごすという戦略が通用しない時代になりました。
そうした時代に、管理職として力量のない人を校長に持った学校は、関係者全員が苦労します。
ですから、管理職志願者数激減という大問題に対して、あらゆる方面から対策を講じなければなりません。
まず、管理職候補者を増やす対策が必要です。また、低倍率を勝ち抜いた管理職登載者の研修を充実させ、管理職としての力量を高める必要があります。
教員採用の段階で優秀な教員を採用できるよう工夫する必要もあります。
教員の先輩・後輩というナナメの関係を充実させ、先輩を通して管理職のやりがいの「見える化」を図ることも大切です。
その他にも講じなければならない対策がたくさんあるはずです。
管理職候補者を増やす対策についても、さまざまな対策を考えなければなりません。
まず、教員の志願者を増やすこと、特に女性教員の志願者を増やすことです。
教員以外の行政職員や民間人の志願者や再任用校長を増やすという方法もあります。
管理職候補者選考そのものをやめ、資質のある教員を管理職に任命する方法を採らねばならない時期が来ることも覚悟しておくべきでしょうし、学校を減らし、管理職の数を減らすという逆転の発想も恐れてはなりません。
教員の志願者数を増やすことについても、多くの方法が考えられます。
管理職候補者には現任校に長く在職できるようにしたり、合格しても子育てなどの理由で登載を延期することができるようにしたりする方法もあるでしょう。
これらの方法は、何が志願者となることを阻害しているかを分析することから生まれます。
さまざまな阻害要因を検討するなかで、特に気になったものがありました。
管理職は魅力がない、苦労ばかりが多くてつまらなそうだというネガティブな物言いです。
事実をしなやかに受け止めようとしない姿勢、「見えないもの」を見ようとしない姿勢を何とかしなければなりません。
そこで、教育長が率先して自分にできる対策をやってみせようと挑んだものが、管理職の楽しみ方を伝える「管理職は愉快です」の連載です。
管理職は波瀾万丈、冒険に次ぐ冒険の日々で、驚きや喜び、悲しみ、感謝に満ち、充実した愉快な人生を送ることができます。
その一端をお伝えしたいと思います。
では、管理職の楽しみ方講座を始めることにしましょう。
(初出 2015年1月6日「内外教育」)
解説
《心得1》事実をしなやかに受け止め、多面的・多角的に見る
心得一をわかりやすく言うと、頭や心、体を柔軟にしておこうということです。
歳を取ると、頭も心も体も頑なに固まってきますので、視野が狭くなり、適切な判断ができなくなります。
自戒を込めて、一番目の心得としました。
仕事をしているときも、頭や心のしなやかさは大切でしたが、仕事を引退してからは、頭や心に加えて、体のしなやかさも大切です。
遊び心を忘れず、困難や退屈に出会っても「愉快だ~」と両手を大きく広げて、楽しんでしまおうと思っています。
ところで、管理職不足について、現状は、定年延長や定年後の再雇用で対応しているようです。
役職定年や給与減俸については、いずれ廃止せざるを得なくなります。
しかし、現状を見ると、それらを廃止しても管理職不足は解消しないでしょう。
現状は、目に見えにくい管理職不足よりも、目に見える産休や育休の代替教員の不足の方に関心が集まっています。
確かに、学校を機能不全にしているのは、代替教員不足ですから、仕方ありません。
教員不足を解消するためには、教師がやるべき業務とそうでない業務とに分け、やるべき業務以外を何としてもやめなければなりません。
そうしないと、教師を目指す人は増えません。
今まで学校が引き受けてきた業務をやめることは、大きな困難を伴います。
そもそも学校が引き受けてきた業務は、すべて意味のある業務です。
意味のない無駄な業務などないのです。
それでも業務の削減を断行しなければなりません。
この困難な決断を下し、業務削減を実現させることは、管理職の役目です。
ですから、管理職のなり手がいないことは非常に重大な問題なのです。
実は、管理職を担う人材は学校の中にたくさんいます。
ただ、その教師たちが管理職になりたがらないのです。
管理職になっても大変、教師でいても大変です。
でしたら、管理職になって、教師の業務を削減してしまいませんか。
業務削減を断行できる管理職は愉快ですよ。
ちょっと苦労するだけです。
苦労も、乗り越えてしまえば、爽快に変わってしまいますから、一時の苦労です。
管理職は愉快です。
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