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父と娘とクレアラシル

近頃柔軟剤やシャンプーの香りの名付けが混みあっている。
なにかっちゅうとフローラル。
花て。
なんの。
広すぎる。

しかし私の疑問には答えず名づけは続く。フローラルはフローラルでもフレッシュフローラル(なんの)にクラシックフローラル(なんの)、グリーンフローラル(なんの)にフローラルハーモニー(どんな)、フラワーブーケ(なんの)にイノセントフローラル(・・・)。どんだけフローラル界隈で差別化をしたいのか。

フラワー系だけでも枚挙に暇がないが、アクアオーシャン(磯の香?)とか、香りの想像すらつかないベルベット(叶姉妹?)とかホリディファンタジー(自堕落?)なんてのもある。
パウダリーピオニー?ピオニーてなに?芍薬?ここへきてご指名なの。粉末芍薬て咳止めか何かかね。

挙句の果てにアロマの香りときた。香りの香り。なんの中のなんのだ。

スメルハラスメントの前に、スメルの名付けにくらくらしそうである。

それはそうと、少し前に、夫が自分のシェイビングフォームといっしょにビオレを買ってきた。Bioreという文字を目にした瞬間、あの香りが脳裏によみがえった。

そう、ビオレの香りはビオレでしかない。

ビオレuとかあったけど、どれも香りはビオレベースだった。多分。

文字を見るだけで香りが思い浮かぶなんてなんという刷り込みだろう。

ビオレは思春期の洗顔を通じて原始的感覚である嗅覚を洗脳していたのだ。

そういう話をしたいわけではない。

長女が中学生になってなんとなく肌のざらざらが気になり始めたころ、確かにそんな相談をされたんだけど、私は石鹸をよく泡立てて顔を洗って、オロナイン塗っておきなとか返事したんだった。
そこを、知ってか知らずか意外に優しい夫はさりげなく何気なく、自分のシェイビングフォームを買いにいって、ちゃんと女子の棚から薄オレンジのビオレを探してきたのだ。

そしてチューブ1本使い終わりそうになったころ、またさりげなく何げなく、洗顔フォームをビオレからクレアラシルにグレードアップさせてきた。クレアラシルとなると確かちょっと高いし、薬用感が出てくる。ああ、クレアラシルの独特のクレアラ臭も懐かしい。そしてあのラインの色の組み合わせも青春そのものな気がする。

そう、夫は長女の鼻の頭に青春の証、ニキビができはじめていたのを見逃さなかった。

口を開けばよくケンカする父と娘だ。
二人とも負けず嫌いなところが似てるんだと思う。私が週末などひとりで出かけると必ず子どもからはお父さんがこんなこと言ったと通報があり、夫からはまたこんなことを言ってしまったと報告があがる。
毎回7:3くらいで夫が悪い。
大人だし親なんだからもうちょいましな声のかけ方はないのかね、と夫に言い、娘には男はずっとあんな感じだから先に君が大人になってなだめてやるしかないよ、と言う。

子どもに対して小学生男子みたいなアホな憎まれ口としつこいギャグがやめられない夫。
でも洗顔フォームをたまに買ってくるだけで妻と娘からの評価を覆せるのだからずるい。

娘は嬉しそうに顔を洗っている。
それを夫がいちいち嬉しそうに報告してくる。なんだ、円満じゃないか。

そのうち娘もあれやこれや自分で選びたくなるんだろう。そのときまで洗顔フォーム選びは夫に任せておこう。

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