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歌解説『朧月夜(おぼろ月夜)』


Chère Musique

朧月夜(おぼろ月夜)


作詞:高野辰之 作曲:岡野貞一

菜の花畠に 入日薄れ
見渡す山の端 霞深し
春風そよ吹く 空を見れば
夕月かかりて 匂い淡し

里わの灯影も 森の色も
田中の小道を 辿る人も
蛙の鳴く音も 鐘の音も
さながら霞める おぼろ月夜

日本の歌の表すもの

『赤とんぼ』や『里の秋』と同じように、この歌もクラスでは“歌曲”のコーナーで取り上げました。
“唱歌”でもあります。


日本の歌曲をはじめとした歌には、ただ淡々と情景を語る歌が多いです。
日本語の美しさと意味深さが、そのような芸術を産むのだと思います。

これは日本人が作る歌を日本人が歌うから、そう感じるのかも知れません。
自然がどのような状態なのかを、ただ語っているだけに見える詩の中で、はっきりとその映像が頭の中に見えてきます。


言語の美しさというものは、どんな点にその基準を置くかによっていろいろでしょう。
ですが、日本人の私にとっては、日本語ほど美しく奥行きの深い言語はないと思っています。
ひとつの現象を表すのに何とおりもの言葉と言い方があり、それらを捉えて何が見えるかもひとりひとり違うでしょう。


題名は『朧月夜』『おぼろ月夜』、どちらの表記もあります。

朧月とは、2月から春にかけての季節に、急に気温が上がり始めて空気中の蒸気の量か増えて、月を見た時にその輪郭がぼんやりと滲んで見えることを言うそうです。

クラスでは2月の課題曲として取り上げました。

歌詞の解説

詩の解釈というものには、正解はありません。
言葉たちの中に何が見えてくるか、文の内容から何が伝わってくるかは、受け取る人によって違います。

私の解釈を書いてみます。

一番:
菜の花の花畑なのか花畠なのか、私の勝手な解釈では畠のほうが人工的な感じが少なく自然発生の場所に思えます。
太陽が沈んでゆくという現象を表す数多の言い方の中で、入日が薄れてゆくという言い方は、本当に美しいですね。
その手前で、広大に広がっている山の麓が霞がかっている。
春の風を感じてふと空を見上げたら、早くも夕方の月が見える。
影のように薄くかすかに見える月の、その見え方を、匂いが淡く伝わってくるようだ、という言い方で。
存在を認識することを匂いと表す美しさですね。

二番:
夕方になって灯った人家の灯りと、早くも深めている森の暗さ。
心が現実に一歩だけ近づき、家へと歩く人間を見る
さらに感覚が身近になって、その人の歩く畑で鳴く蛙(かわず)の声と、それと対照的に空間全体に遠くから響くお寺の鐘の音を聞く。
それらすべてのものを、ぼんやりとしたものに変えてしまうような、輪郭のにじんだ月。


凛とした冬の気持ちが漠然と緩んできて、体調にも変化をきたし何となく落ち着かない、これから春になってゆくという時期の人間のアンニュイな物思いを感じながら、歌っています。

言葉のリズム

二番の詩におもしろい細工が見えます。
「○○も、○○も、、、」
と羅列が続き、最後の一行でそれらが何なのかを言う。

この手法は、詩人のなかでは定番のものらしいのですが、歌で使われるのはとてもノリやすい気持ちのリズムを生むと、私は感じています。

岡野貞一と高野辰之

作曲家と作詞家のヒットメーカーのコンビというのはいつの時代にもいますが、山田耕筰と北原白秋の次に有名な二人ではないでしょうか。

この二人で作った代表作は

春が来た
春の小川
おぼろ月夜(朧月夜)
もみじ(紅葉)
ふるさと(故郷)

どれもタイトルを聞いただけで歌えてしまう曲ばかりですね。


このような、情景を語るだけでいろいろな想いを乗せて歌うことができる歌は、日本人として大切にしてゆきたいですね。



歌の練習♪
https://youtu.be/6favsYW2mLc?feature=shared

Musique, Elle a des ailes.

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