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「ガボットを習ったの」


Chère Musique


何年か前の話になりますが、姪が「この間からピアノのレッスンでガボットを習い始めたの」と報告してくれました。
「いっちゃんは知ってるでしょ?今度遊びに行く時にまた教えてね」

『ガボット』だけでは分からない

彼女にとっての「いっちゃん」(私)は、音楽のことならなんでも知っている人、という存在のようです。
だから『ガボット』と言っただけで、曲が分かると思っていたみたい。
当時はまだ小学校低学年でしたからね。

「ガボット」だけでは分からない。作曲したのは誰なの?と訊いたら、キョトンとしていました。

そこで、なるべく簡単な言い方で、ガボット(本当はガヴォットなのですが)という名前の作品がたくさんあるのだということを、伝えました。


彼女はとある大手の楽器メーカー系列の音楽教室に習いに行っているのですが、そういうところはどこも、その会社のオリジナルピアノ教則本があり、その中の掲載曲もオリジナル作品が多いのです。
だから、いくら音楽のことならなんでも知っている(笑)いっちゃんでも、知らない曲でした。

踊りの種類の名称

でも、彼女に説明したのはそこではなく、ガヴォットというのは元々は曲の名前ではなく、「踊りの種類の名前なんだよ」ということ。

そう、舞踊の名前なんです。
皆さん多分よく聞いたことのある「メヌエット」「ワルツ」なども同じです。
そういう名前の舞踊があるのです。

それを踊るための音楽作品に、踊りの種類の名称と同じ名前の曲名をつけているだけのこと。
ワルツはなんとなく、そういうことなのかな、と思っている方も多いようです。
でもメヌエットの方は、バッハのメヌエットとして知られている、ピアノの初級でほとんどの方が習ったことのあるあの曲。
あの曲の固有の名称だと思っている方が、本当にとても多いですね。

舞曲

宮廷舞踏が一番盛んだったバロック時代には、たくさんの種類の踊りが踊られていました。
メヌエット、ガヴォット、アルマンド、クーラント、ジーグ、ブーレ、レントラー、ガイヤルド、などなど、まだあげればきりがないほどの種類があります。
(同じ単語でも日本人がカタカナで書くには、いくつかの表記があります。
ジーグまたはジグ、ブーレまたはブレやブレー、ガイヤルドまたはガヤルドやガイアルドやガャードなど。)

それらすべてのその踊りを踊るための曲が、とってもたくさん作られていました。
拍子、リズム、アクセント、速さなどが、その踊りにぴったりな音楽作品です。


先ほど話題に出たワルツは、一番よく知られた言葉ですが、バロック期ではなく実はもう少し後の時代の踊りです。


その後、舞踊のあり方や流行などが時代と共に変わっていっても、そういう音楽たちは好まれ続け残っていきました。
そして後のどの時代にも、ほとんどの作曲家たちが、自分の時代の流行を取り入れ、自分の個性を盛り込んで、作り続けています。

ショパンは、祖国ポーランドの民族舞踊であったポロネーズやマズルカを一躍、世界的に好まれる音楽として発展させました。

どの作品なのかを伝えるには

というわけで、ガヴォットという名前の音楽作品は、実は星の数ほどあるのです。
姪の教室は流石に大手だけあって、オリジナル曲で構成された教本の中に、そういう古典舞踏の名前の曲を入れるというのは、おしゃれですね。
曲の内容も、もう何年も前なので忘れましたが、確かきちんとガヴォットのリズムだったと思います。


舞踊の種類の名前の曲を言うときには、誰それ作のワルツの作品何番、というふうに言ったり、掲載されているシリーズを言ったり、メロディを口ずさんだりなどしないと伝わらないのです。
ショパンの「子犬のワルツ」のように、通称がある曲は、それだけで伝わりますけどね。


このような、同じ名前の曲がたくさんある、というパターンは、実は踊りだけではありません。
ソナタや変奏曲、交響曲、協奏曲のように曲の音楽形式が曲名になっているものもあります。
プレリュード(=前奏曲)、ノクターン(=夜想曲)、バルカローレ(=舟歌)など、音楽の種類の名前をそのまま曲名にしていることもたくさんあります。


いかがでしたか?
メヌエット、と言われて、誰の?どの?と聞き返されても、その人は決して音楽を知らないわけではなく、カッコつけてるわけでもないんですよ。



Musique, Elle a des ailes.

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