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 今日はとうとうその日が来た。妻と息子が退院する日。車の中、僕はジャズドラマーのような心の躍動を抑えながら、冷静に病院へと向かう。窓の外の景色は流れていくけれど、時間は遅いジャズのテンポのようにゆっくりと進んでいるようだ。

 病院に到着し、手続きも無事に終わり待合室で待つ。そこでの待ち時間は、何気ない風景に夢中になりつつ、ふと気づくと僕の足がそわそわと動いていた。まるで、心の中で演奏されるジャズのリズムに合わせるように。

 そして、ついに息子と対面。彼の小さな体は僕の手のひらに収まりそうで、彼のハッキリとした目に何とも言えない感情が湧き上がる。自分が父になったのだ、という実感。初めてのチャイルドシート体験、初めて3人での車の旅、初めての家族3人の時間。一日が初めての連続だった。

 我が家に到着し、部屋に響く彼の小さな泣き声。それは新しい音楽の始まりのようで、未知の楽曲を演奏するジャズバンドの一員になったような感覚がした。

 そして、妻が言った。「新しい父親としての責任感を感じてるのね」と。僕は答えた。「もちろん、今後の人生は一緒に楽しいジャズを奏でることだろう。ただ、夜泣きのジャズソロは君に任せたい」と。

 彼女の笑い声と、息子の小さな目が僕に新しい人生の始まりを教えてくれた。今日は、人生の新しい一節の旋律が始まった一日。この新しいリズムに耳を傾けながら、一緒に素晴らしいジャズを奏でていくつもりだ。少しでも外れた音があれば、それもまた人生の中の美しい即興演奏として楽しんでいく。それが僕の人生の新しいテーマ性なのだから。

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