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紅を引く、ヅラを被る。そして女になる。

   アタシは趣味として女装をする中年男性ですが、この歳にもなって
 「もっと可愛い女の子になりたい」
と思っているのです。スタイル良く、キレイにメイクをして可愛くなりたいの。
(コイツ・・頭おかしいんじゃ・・)と思う方もいるでしょうが、すみません本人は至って本気です。(頭がおかしい事は否定しません)

 日夜様々なダイエット記事を熟読し(実行はしない)、多数のメイク動画チャンネルを視聴し参考にする(実行は少ない)。今まで無趣味だったアタシがのめり込むとここまで変わるものかと驚くばかりです。
そしてメイクをするようになって知ったのですが、自分の顔を装う事のなんと奥が深く高い技術が必要なのか、という事。
中年男性諸氏は
「また嫁さん同じような化粧品買ってんな・・」
「おいおいいつまで化粧に時間かかってんだよ・・」
等と思う方もいると思います、しかし女子のメイクには男には計り知れない手間とテクニックとたくさんの道具が必要なのです。(金も)

    ここで世の男性がいつでも女装の世界に飛び込んでもいいように、簡単に手順を書き出してみましょう。(あくまでアタシのですのでご参考まで)

1.洗顔、保湿(化粧水)
2.化粧下地
3.コンシーラ(ヒゲの青味隠し含む)
4.ファンデーション
5.眉毛描き
6.眉マスカラ
7.アイライン(目の縁取り)
8.アイシャドウ
9.まつ毛ビューラ(まつ毛を挟んで立たせる)
10.つけまつげ
11.マスカラ
12.ハイライト(鼻を高く見せたり、目元を明るくする)
13.シャドウ(鼻を高く見せたり、頬・アゴをシャープに見せる)
14.チーク
15.リップ
16.グロス(リップ保護艶出し)
17.フィニッシュパウダー

ウイッグ装着

ふぅー・・・何てこった。
書き出すとこんなにある。しかもこれは標準的なもので、もっと細かい手順もあるからね・・アイシャドウベースとかリップベースとかetc,etc・・
しかもこんなに手間と時間をかけて可愛くなるかどうかは、技術が伴わないと駄目とか。ほんとうに大変。化粧する人にはもっと世界は優しくなるべき。


 アタシは基本的に男性の格好のままハッテン場に行き、施設内でメイクをするのですが、某浅草ハッテン施設ではゲイさんとのバッティングを防ぐために、メイクする場所が制限されており、5階建ての建物の中でメイクをするのを許されている場所は2か所、2階と5階のトイレの洗面台のみ。
なので週末ともなると多数の女装さんたちによって繰り広げられる血で血を争う戦いに勝たなければメイクは許されないのです。(3人で定員)

    館内に入りロッカーで不要な荷物を預け、シャワーを浴びたあと2階の洗面所へ入るとすでに二人の女装さんがメイクをしている。
「おはようございます。失礼します。」とおずおずと空いた場所に挨拶をして隣に入り道具を広げ始めると、チラリと手持ちのメイク用品や道具、そしてアタシ値踏みが行われる。華やかな女の園の裏にある、表には出ない静かな戦いが、始まるのだ。(実際は平和です。もう少し)

そして皆思い思いのメイクをして、それぞれ奇麗になっていく。ナチュラル系、ケバ系、セクシー系・・ 女装の数だけ「かわいい」「美しい」があり皆それぞれ懸命に努力する。なんと美しく気高い女の世界。(施設内の人間はすべて男性です。あしからず)

    アタシは月に3~4回ほどしか女装しないため、どうしても女性の姿になった直後は自分の姿と心に違和感がある、そこで化粧をしながら自分に言い聞かせるのだ(僕はこれから女の子になる・・)すると化粧が仕上がるにつれて心が切り替わっていく。
大体、口紅を引くあたりでスイッチが入り始め
ウイッグを被り、再び鏡の自分と目が合うときに
「ワタシは女。可愛い女の子」
と自分に言い聞かせる。ここで僕という男から

アタシは女になる。

気分は正にガラスの仮面である。
鏡の前に映るその時出来る精一杯のメイクをして可愛くなった自分はまさに女の子(・・大きいお姉さん)
そして恒例となった洗面所で記念写真を(加工アプリで)撮り、Twitterにアップする、という常人にはなかなか理解していただけないルーチンをこなした後、アタシは施設内に消えていくのだ。


  日常から非日常への切り替え、スイッチを入れることによって生まれる「女である自分」という別の存在。そうして僕はその間だけ、アタシという女性として一時を楽しむ。


  私たちは常に、毎日ストレスや仕事や生活に追われ、心がすり減ってしまう。そして求められる役割を演じて生きていくのに精一杯だ。ほんの一時でもその役割から離れて、自分の望む姿で自由に振舞えるとしたら「女装」というあまり世間では快く思われない趣味ではあるが、別の人間(キャラクター)になり日常を忘却できる時間はとても素晴らしいと思う。

    人は皆、誰でも心に仮面を持っていて、それを被り違う誰かになって演じるチャンスが平等にあるのだ。
あなたは誰になりますか?

                                      おしまい

※私は「趣味で」女装をしているため、肉体と精神の性が違ってる方や自分の体の性を嫌悪されている方、マイノリティの方々からすれば嫌悪される存在なのかも知れないな、という事は常々感じております。不快に感じる部分がありましたら申し訳ありません。
    苦悩もなく姿だけ着飾り、好き勝手遊んでいるような存在に映るかもしれませんが「こんな人間もいるんだな」と広い心で思っていただければ、正に多様性の認められた社会となりますので、何卒よろしくお願いします。


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