国道沿いを歩く美しいドレスを纏った女はペットボトルを思い切り蹴る。それはラベルには水と表記されているが中身の液体は黄色い。蓋が緩かったのかそれは溢れ出してアスファルトに染みていく。薄く人間の匂いが辺りに広がっていく。女はまた歩く。ようやく目的地に着いてお城のような場所を見上げた。
ハンドクリームを塗った手は神聖な扱いを受けている。何物もそれに触れられやしない。いや、もしかしたら逆で全ての物がそれを避けているのではないのだろうか。どちらにせよ意識のせいで両手は使い物にならなくなった。トイレに行きたい。ラインの返信をしたい。空を叩く拳は太陽が昇るまで降りない。
あっついんだよ!!
熱が出たからポカリを飲んだ。気管に入って咽せた。右隣の部屋の人も風邪をひいていたのかゴホゴホしている。俺より苦しそうなのがムカついたからわざと大きな咳をして牽制。そうしたら左隣の部屋の人がああ苦しい苦しいよぉって言い始めた。不幸自慢はどこでも起きる、咳をしてもひとりにはなれない。
火曜日は燃えるゴミの日だからまとめて捨てた、においが消えた。
目を瞑り、深くゆっくり息を吸えば小さなことは無かったことに出来る。嫌なこととかね。けどそれは消えたわけじゃなくて空気と一緒に身体の奥に押し込まれただけだからいつかは逆流してしまう。そうなった時の為にもう一回押し込むかいっそ吐き出してしまうかの選択は早いうちに決めておかないとダメ。
味見をしすぎて唐揚げがなくなっちゃった。子どもが帰ってくる前にスーパーで惣菜を買って誤魔化さないと!涼しい店内にはたくさんの惣菜があって迷ってしまったが唐揚げを作っていたことを思い出し無事購入完了。 「お母さんは食べないの?」 夕食の時子どもに言われたが、もうお腹いっぱいなのよ。
おやす、、、み
あの子の写真を撮るときはいつも右隣を空けてとお願いされる。ちょうど人一人分くらいの隙間を。小学校の時から不思議だとは思っていたけど聞けないまま大人になってしまった。あの子の親に会う機会があった、今はいないあの子の話で盛り上がりふと写真を見せてもらった。全ての写真、右隣に何かいる。
扇風機の風で具合が悪くなるのは一箇所に風を浴び続けているかららしいけど実は違ったりして。造られた風ということが生物として受け入れられずに体調を崩すのかも知れない。やっぱりどれだけ知能が高くても人間も自然の一部だって神様からのお告げなのか、それでも私は今日も扇風機を使って眠るのだ。
おやすみなわけよ
大切に買ったスマホは最初のうちは慎重に使うが一度でも落としたり充電器を刺しながらゲームをしたりすると途端に扱いが雑になってしまう。 「私のことあんなに大切にしてくれたのに、酷いわ」 これは恐らくスマホの気持ち。 「いつまでも昔の話を持ち出すなよな」 これはおそらく使用者の気持ち。
無数の穴から一つ選んで迷わず飛び込め!天国か地獄か、そんなもの後からじゃないとわからない。他の穴の方が良いかもとかは思っても無駄だ、だって確かめようがないからね。ただ、もしかしたら全部の穴の出口は同じで迷う時間こそが僕に本当に必要だったことなのかも知れないなって落ちながら考える。
おやしゅみ🫧
道に落ちていた空き缶を蹴り続ける遊びをしていたら川まで着いた。綺麗な水の音に癒されたけど目の前には沢山の紙皿や紙コップ、ビニール袋とかその他色々がぐちゃぐちゃに散らかっていた。僕以外の人もゴミを蹴る遊びをしていたのかなと考える。そんなわけないよなと空き缶を持ち上げて少し落ち込む。
水槽の中には何もいないけど生臭い匂いだけが部屋を満たしている。そのせいで食欲がなくなって体重はずっと減り続けて苦しい。床に転がった時、空間を泳ぐ魚を見た。呼吸がしやすくなった気がした。最後の力を振り絞り浴室に向かい風呂の中に水を溜めて飛び込んだ。憧れに近い音が体を包んで離さない。