オタクに媚びるのが苦手なアイドル

アイドルはここ数年で市場環境が変わって、平たく言うとインフルエンサーとの垣根がなくなりつつある。アイドルになりたいと言ってアイドルをやっている子は多いが、「君がやってること、それアイドルというよりインフルエンサー(もどき)だよね?」みたいなことも結構多い。

それはさておき、従来のアイドルは万人に受けることを目指してきたけど、グループが乱立し、ファンを奪い合うようになると、結果としてステージの規模が小さくなり、それまであまり求められなかった個別具体的なレスやSNSにおけるコミュニケーションなど、ファンがより個人的なつながりを強く求めるようになってきていることは、アイドルの皆さんも肌身で感じることだと思う。

「私、そういうの(オタクへの媚び)はやらないので」

個人的にはそういうスタンスの子はカッコいいと思うし、本来、意思が明確ならばそれを表現するのになんのためらいも要らないはずだが、実際アイドルたちは、自分の意思と目の前にある現実とのギャップに悩んでしまう。

なぜなら媚びる方がファンが簡単についてしまうからである。

ここで、人にお世辞を言うことや、おじさん転がしが何の苦にもならない稀有な子は、圧倒的にアイドル向きなので、この文章を読む必要はない。

オタクに媚びる、マシな言い方をするなら神対応だが、この対応はファンを増やすが、ヤバいオタクも誘引する諸刃の剣である。

結果としてオタクの意味不明な言動や、モラルを欠いた発言に悩まされるアイドルが生まれてしまう。

ヤバいオタクは文明人なら本来持っていないといけないデリカシーというものが欠如している。

いや、正確に言うなら普段はモラルある社会人を演じているのに、アイドルと触れ合う時だけなぜかデリカシーが溶けてしまう。

「●●さんが来るの待ってたよ」「●●さんのこと結構気になってる」などアイドルの何気ない軽口によって、オタクの脳には大量のドーパミンが分泌され、理性のタガが外れる。

最初は普通のおじさんだと思っていたのに、気づいたらいつの間にかチェキのとき毎回密着してくるセクハラおじさんが出来上がってしまうのである。

一部のアイドルはこの”ヤバめなおっさんと触れ合わないといけない現実”に耐え切れず、アイドルを一度引退するが、人からチヤホヤされることに体が慣れてしまっているため、しばらくするとステージ、もしくはインスタグラマーやYouTuberとして戻ってくる。とは言え、アイドルを辞めて、小汚いおじさんの相手しなくていいや!と思ってたけど、実際アイドル時代お金を払っていたのは小汚いおじさんだったので、肝心の稼ぎがない。そうなると次にクラウドファンディングとかでファンミーティング1.5万円、チェキ3000円みたいな、「アイドル時代もそんな価格で売れなかっただろ!」とツッコミをうけるようなアコギな商売を始めて、おじさんからも見放されてしまい、最終的に西麻布のラウンジで働ければいい方で、大体がパパ活アプリをチェックする毎日を送るか風俗またはAV落ちしてしまう、みたいな話がグリム童話にあります。


これらの問題は、デリカシーのないオタクが悪い。と言いたいところだが、実際はアイドルというビジネスモデルが引き起こす構造上の問題である。

アイドルのビジネスモデルはなにかというと、言うまでもなく人気商売である。人気がないといけない。

アイドルはアーティストか否かという出尽くされた議論があるが、個人的に思うのは、印税で食べてる人たちはアーティスト(職人)である。art-istは、芸術を専門に、それを生業としている人たちを指す。

一方、多くのアイドルはアーティストではない。なぜなら人気商売(ファンビジネス)だからである。メインの収入源はプロダクト(音源)ではなく、グッズや握手会である。

「アイドルはオタクに媚びる必要があるのか」という問いに答えるなら、アイドルとして活動する以上は媚びる要素を完全には排除できないだろう。逆にアーティストになって"芸"を売ることができれば、客に媚びる必要はなくなるかもしれない。

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