アイドルの義務と権利

仰々しいタイトルをつけてしまいましたが、指原がプロデュースする≠ME(通称ノイミー)のメンバーの一人から、過去にアイドルプロデューサーと遊びに行ったときの動画が流出しました。

メンバーの処遇は、アイドル在籍時の動画ではなかったということで不問となっています。

(略)私のプロデュースするアイドルは恋愛禁止ではありません。(特に推奨もしていません。皆さまにそれが伝わってしまうのはプロフェッショナルではありません。

グループの危機のタイミングにおける指原Pの手腕には毎回感心させられますが、今回の指原Pのグループ方針についても、基本的には賛同の声が多く集まっています。

主に「アイドルの前に一人の人間だから恋愛は許される」「今どき恋愛禁止は古い」という意見が多いようです。

現代人としてはこの方向性に賛同できるのですが、オタクとして手放しで喜べるかというとそんな単純な問題でもないなーという気がしています。

アイドルが恋愛することは倫理的に許されるのか

まず「アイドルの前に一人の人間だから恋愛は許される」という主張。この主張が成立するには、アイドル以外のシチュエーションでも同様に成り立つか検証してみる必要があります。

アイドルというのは職業です。そしてアイドルが恋愛する理由はただ一つ、恋愛禁止のルールがあるにも関わらず欲望が抑えられず我慢できなくなった。つまり、理性が働かなかったということです笑 

これを理性が働かないサラリーマンに当てはめてみると、「サラリーマンの前に一人の人間だから自分が儲けるために企業情報をリークする」行為も許されることになりますし、医者なら「医師の前に一人の人間だから患者よりも自分の家族の治療を優先する」ことも許されてしまいます。

これらの行為を実際にやってしまえば社会的な罰を受けることは自明です。にも関わらず「アイドルの前に一人の人間だから恋愛してもOK。懲罰もない」という不文律がまかり通ってしまうと、それはアイドルという職業の倫理観、ファンに夢を提供する仕事に携わる者の態度として疑問を呈せざるを得ません。

同様に「アイドルの恋愛禁止は古い」という意見についても、一見、進歩主義者の主張のように聞こえて耳障りはいいですが、あえて反証するなら「古い価値観を持っていることは悪いことなのか」と突っ込むこともできます。

「キャッシュレスが浸透した世の中で現金を使うのは古い」、「いまだにお歳暮や年賀状を送っている人は遅れている」など、一概に「古い・新しい」という価値基準で「良い・悪い」を決めることはできません。少なくとも近年の日本のアイドルは「恋愛禁止」を前提に成立していたことを思い出して、議論する必要があります。

アイドルの義務と権利

ここでお気づきの方もいるかもしれませんが、アイドルに恋愛する権利があるかどうかという議論と、アイドルが恋愛(性欲)を我慢すべきかどうかという議論は切り分けておこなう必要があります。前者は権利の問題ですが、後者は理性の問題です。

「アイドルの前に一人の人間である」という主張は当然正しい。だからといって「アイドルの恋愛が全面的に許されるべきだ」とは思いません。

つまり、アイドルは恋愛する権利を有するが、アイドルという職業を成立させるためには恋愛(性欲)を我慢するのが義務だと考えます。

アイドルという職業が成り立つのは恋愛禁止だから

また経済的な側面からも恋愛禁止は合理的だと言えます。

そもそもアイドルという職業はなぜ成立するのでしょうか。ある職業が成り立つにはお金の出どころが必要です。俳優は演技によって生計を立てますし、歌手は歌で生計を立てます。アイドルは何で生計を立てているのでしょうか。

現代で言えば、握手会、それに紐づく接触です。ももクロやBABYMETALのように接触なしで活動しているグループもありますがごくわずかです。接触商法という言葉があるように、接触なくして、今のアイドルグループはほとんど成立しません。

なぜほぼ素人みたいな女性との握手が10秒1000円という高価格帯のサービスとして成立しているのか。日本で一番高いと言われる銀座のクラブでも1時間3〜4万という相場です。10秒換算すると、アイドルの握手会のほうが10倍以上高い。

この驚くほど高価格のマーケットが成立する理由、それこそがアイドルの恋愛禁止という建前があるからだと考えます。

言うまでもなく、アイドルはフィクション(共同幻想)をベースにしたエンタメです。彼氏がいないという前提があるからこそ、オタクは惜しみなく推しの子にお金をつぎこむことができます。アイドル側も彼氏がいないという前提で振る舞うので、これまた多くの男を虜にすることが可能なのです。

そのため、一度フィクションが崩れてしまうと、アイドルというマーケットが成立しなくなる可能性があります。近年では、恋愛をオープンにしながら芸能活動するプロ女子大生やインフルエンサー、Youtuberが誕生し、若いアイドルは恋愛を我慢しながら芸能活動することに対してますます疑問を持っています。

Youtuberやインフルエンサーは無料のコンテンツによって親近感を売っていますが、ユーザーから直接課金されるわけではありません。あくまで広告が主な収入源です。(一部のトップYoutuberを除く)

それに対してアイドルは、実際に会って話せる人であり、ゆえに相手の恋愛感情を掻き立てることも可能です。人間は感情的になったときに課金しやすくなるので、実働時間に対する利益率は高いと言えます。(メンバーにお金が行き渡っているかは別問題ですが)

そしてこの高利益体質の秘密が恋愛禁止です。

アイドルは恋愛の自由を厳しく制限されるからこそ、多くのオタクから応援(課金)されるわけで、恋愛の自由を許容されるのであればアイドルとしての旨みを得ることはできないでしょう。

"恋愛するアイドル"という職業は存在しない

ここまで見てきたように、アイドルという職業はオタクに夢を見させることによって成立します。つまりオタクに夢を見せられなくなった時点でアイドルとは言えず、アイドルとして得られるはずだった利益を失います。ここで言う利益とは報酬はもちろん、周りからチヤホヤされることだったり、称賛を浴びること、社会的に影響力を持つことなどを指します。

普通の女の子として恋愛できる幸せと、アイドルという職業で得られる幸せを両立させることはかなり難しいでしょう。むしろ普通の女の子としての権利を放棄するからこそ、たかが数年の活動で普通の人が一生では出会うことができない数の人間と出会い、愛されるわけです。

これがアイドルが恋愛してはいけない理由です。

「アイドルの前に人間だから」「恋愛禁止は古いから」という理由だけでアイドルの恋愛OKな動きを推進すべきかどうかは、もう少し慎重になって議論すべきだと思います。

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恋愛を解禁する必要性

ここまでの話はあくまで原理原則の話です。グループの方針によって恋愛推奨、恋愛禁止にする判断は自由ですし、実際恋愛や結婚してアイドルを続けてる人もいるでしょう。

そもそもオタクが「アイドルには恋愛する権利がある!」なんていちいち言わなくても、アイドルは勝手に恋愛してます。残念ながら。

アイドルの権利を声高に主張することよりも、アイドルをフィクションとして楽しみつつ、ときに裏切られ傷つきながらも、それをエンタメとして楽しむ心の強さこそが今オタクに求められるものなんじゃないかなーと思います。


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