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アイドルカルチャーにおける「強いファン」「弱いファン」とは

この記事を読んで「HIPHOPのカルチャーとアイドルカルチャーは似ているなー」という話です。

HIPHOPは「過剰にマッチョで女性蔑視的なジャンル」であり、「男子中学生並みの女性観」を保持した世界である。

アイドルが「女性蔑視的なジャンル」かどうかは、一ファンとしてはそんなことはないと思いつつも、「制服を着た若い女をニヤニヤ見ている中年男性」という一般的なアイドルファンのイメージに照らし合わせると十分女性蔑視かもしれません。「男子中学生並の女性観」については、異論はありません。むしろ小学生並みです。

あとアイドルオタクは軟弱なイメージがあるかもしれませんが、思想としては完全にマッチョ寄り。

ライブで最前に行けないやつが弱い。ライブでレスもらえないやつは弱い。

金をドブに捨てつつ、競争に耐えうる心がないと、今のアイドルオタクは大変かもしれません。

HIPHOPとは音楽ではなく「一定のルールのもとで参加者たちが優劣を競い合うゲームであり、コンペティション」

これは握手会や総選挙などからも分かる通りで、アイドルカルチャーにはマネーゲームやコミュニケーションゲームの側面があります。

また、従来のオタクの文化には、知識でマウンティングする側面もありました。しかし、最近のアイドルの楽しみ方は、知識よりもコミュニケーション力やつながる力に比重が寄っているため、知識<コミュニケーションとなっており、従来の口角泡を飛ばすタイプのオタクは駆逐されています。

「文句あるなら見なければいい」は許容できるか?

先に紹介した記事のなかで、筆者があるアーティストの動画に批判的なコメントをつけたところ、他のファンから「嫌なら聞くな」とコメントで言われたという話がありました。

批判に対してファンからこの言葉が出てくるのは、「よりよくするための変化を望む」より「現状を全肯定する」ことがファンのあるべき姿として重んじられているからではなかろうか。差別にまつわる議論には特に「怒ってばかりの人間より楽しんでいる自分たちが勝者である」と結論づけ、差別を告発した側を、感情を理由に黙らせようとする姿勢が頻繁に表れる。

アイドルのコミュニティでも、おおかた議論とは呼べないようなコメントの応酬をよくみかけます。

またアイドル自身もファンに対し「私のことが受け入れられないなら見なければいい」と言い放つ場面もときどき目にするようになりました。

昔よりアイドルが自由に意見を言えるようになった。そういう捉え方もできます。

しかし、その論理は理解しつつも、そこに生まれるのはコミュニケーションの断絶です。

本来ファンやアイドルに必要なのは対話です。ファンを増やすことを目的に活動するなら、なぜ相手のことを理解できないのか、理解しようとする姿勢が大切なはず。しかしこれは理想論であり、ここでは扱いません。

マニアがジャンルを潰すという言葉があります。強いファン(マニア/オタク)が弱い立場のファン(ライトファン)と対話をしなければ横に広まらず、いずれそのジャンルが縮小するということを端的に表した言葉です。

すべてのファン、ファンではない人間にも意見・批判をする自由があり、その自由は「強い」「弱い」に関わらず、無条件に平等にあるはずです。

その前提条件において、強者には強者なりの楽しみ方があり、弱者には弱者なりの楽しみ方があるというだけです。

しかしアイドルの「強いファン」の話には一定の説得力があります。なぜなら彼らが「強い」のは、そのアイドル現場における一定の規範・文脈に沿った楽しみ方をしているからであり、その結果「おいしさ」を享受しているからです。

アイドル運営がおこなうべきファンコミュニティ・マネジメントの肝とは、まさにこの「強い」「弱い」をバランスよく調停することではないでしょうか。強すぎる人がいたら、おいしいところを一定量カットする。ファンに弱い人が増えてきたら、「おいしい」部分を増やすなど。

AKBのような大規模グループをはじめ、この調停をうまくやっているアイドル運営は、一定のファンの強さを維持しつつ、横への広がりも担保できているような気がします。

また、強さと似た話で、行き過ぎた現場主義があります。

これは「現場にいないやつには説得力がない。だから引っ込んでろ」というものでありますが、毎度現場に顔を出すこと(=行動力)と、正しく評価/批評できることは別の能力であり、同じフレームで捉えるべきではないでしょう。現場にいる人が必ずしも正しい評価を下せるわけではありません。

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ファンの「強い」「弱い」は主観的な問題ですが、実際現場でオタクをしていると嫌でも感じざるを得ない部分です。個人的には「みんな平等で楽しいピースフルな現場」よりも「圧倒的に差別的で、ヤルかヤラれるか」みたいな殺伐とした現場の方が好きなのですが、そちらに振りすぎてもファンは減るだけなのでバランスが難しいところです。

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