見出し画像

西美濃方言講座 #6「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~付属語アクセント」

1.4方言の付属語アクセント

 4方言の付属語アクセントを、名詞接続、動詞接続、文接続の順に比較していきたい。京都方言は中井(2002)・田中(1996・2005)、名古屋方言は山田(1987、2002)、東京方言はNHK文化研究所(2001)・田中(2003)所収の付属語を本書による結合形式に改めた。さらに、京都・名古屋・東京方言とも生抜きの話者に対して確認調査を行った。
 4方言の名詞接続33項目、動詞接続39項目、文接続26項目の付属語アクセントを示すと、表1~3のようである。赤坂方言と異なる形式の場合は、近い意味の形式を示した。

表1 4方言の名詞接続付属語アクセントの比較
表2 4方言の動詞接続付属語アクセントの比較
表3 4方言の分接続付属語アクセントの比較

2.4方言の結合アクセント型の比率

 表1~3をもとにそれぞれの結合アクセント型の比率を比較すると図1~3のようである。一部の方言で欠如のあるデータ(カラカス等)は統計から除外した。

図1 名詞接続付属語アクセントの型の比較
図2 動詞接続付属語アクセントの型の比較
図3 文接続付属語アクセントの型の比較

2.1 名詞接続の付属語アクセント

 4方言とも、名詞接続の付属語の多くが自立語支配(従属・不完全)であり、一部に付属語支配(有核)がみられるなど、共通している。相違点として、京都方言に独立型がみられる点があげられる。

2.2 動詞接続の付属語アクセント

 内輪式の赤坂方言・名古屋方言は、付属語支配の割合が高く、中でも有核が6割近くを占める。それに対して、京都方言と東京方言は、自立語支配が8割近くを占める。京都方言は従属型、東京方言は従属型・不完全型・融合型がみられる。京都方言と赤坂方言に共下型がみられる。京都方言だけに独立型がみられるのは、名詞接続の場合と同様である。
 動詞接続の付属語は、新たな派生語(派生動詞・派生形容詞)を形成する助動詞群などである。
 京都方言、東京方言の派生語は、基の自立語と並行してそれぞれ〈高起式H0:低起式L0〉、〈無核型0:有核型-2〉の二型である。京都方言、東京方言とも自立語支配型の付属語が現れるのは、このことに起因する。「売る」「書く」にセル~スが接続すると次のようである。
・京都方言 
  ウル(H0)  :  カ[ク(L0)  +  -ス
   →  ウラ-ス(H0) : カカ-[ス(L0)
・東京方言
  ウル(0)  :  カ]ク(-2)  + -セ”ル
   →  ウラ-セル(0)  :  カカ-セ]ル(-2)
 一方、赤坂方言と名古屋方言の派生語は、〈無核型0〉か〈有核型-2〉のいずれかの一型である。3拍以上の一段動詞や形容詞は〈有核型-2〉の一型なので、これらと同様の活用タイプの派生語は必然的に〈有核型-2〉となる。五段活用をする派生動詞もこれらと同様に一型である。したがって、内輪式の赤坂方言と名古屋方言では付属語支配型の付属語が現れるのである。
・赤坂方言・名古屋方言
  ウル(0)  :  カ]ク(-2)  + -セ]ル 
   → ウラ-セ]ル(-2)・カカ-セ]ル(-2) 

2.3 文接続の付属語アクセント

 東京アクセントの赤坂方言・名古屋方言・東京方言は、不完全型がほとんどで共通している。それに対して、京都方言は独立型がほぼ半数を占めるなど、付属語の独立性が高いのが特徴といえる。

2.4 まとめ

 4方言の付属語アクセントの比較から、次の点が明らかになった。
① 名詞接続の付属語の結合アクセント型には、あまり差異はない。
② 動詞接続では、内輪式は派生動詞を一型に、近畿式と中輪式は二型にする性質を有する。
③ 文接続では、近畿式に独立型が多く見られる。

  系統樹[1]を使って、4方言の付属語アクセントのデータの系統関係を示すと、図4のようである。枝の長さと枝の繋がり方が系統の近さ・遠さを表している。内輪式の赤坂と名古屋の距離が近く、次いで中輪式の東京が近いことがわかる。
 対して、近畿式の京都は、方言距離を反映する系統樹の枝(枝a)の長さが大きく、東京式アクセントの赤坂、名古屋、東京などとは大きな距離があることがわかる。

図4 付属語アクセントの系統関係

[1] 樹形としては無根の系統ネットワークであるNeighbor Netを使用。SplitsTree4を用いて作成した。

【参考文献】
杉崎好洋(2021)『岐阜県大垣市赤坂方言の記述的研究』三恵社

田中佳廣(1996)「京都方言付属語アクセントの記述的研究」(平山輝男博士米寿記念会/編『日本語研究諸領域の視点』下、明治書院)

田中佳廣(2003)「東京方言付属語アクセントの記述的研究」『国語学研究』42

田中佳廣(2005)『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』おうふう

中井幸比古(2002)『京阪系アクセント辞典』勉誠出版

山田達也(1987)「名古屋方言における動詞活用形のアクセント(1)」『名古屋・付言研究会会報』4

山田達也(2002)「名古屋方言における動詞活用形のアクセント(2)」『名古屋・付言研究会会報』19

N H K放送文化研究所/編(2001)『N H K日本語発音アクセント辞典』日本放送出版劦

【話者】
・京都  A(女性) 1938年 京都市上京区
     B(男性) 1961年 京都市下京区
・赤坂  C(男性) 1909年 大垣市赤坂町
・名古屋 D(女性) 1936年 名古屋市西区
・東京  E(女性) 1962年 東京都保谷市







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?