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付属語アクセントの結合規則(試案)

1.はじめに

 付属語は、「自立語との結合によって現れる結合アクセント型」と「自立語に対するアクセント上の支配力の程度を表わすアクセント結合形式」という二つ の属性を持つ(佐藤1989)。したがって、付属語アクセントの記述は結合アクセント型とその所属語を示すことになる。
 結合規則の定義は、佐藤(1989)にほぼ準じるが、結合規則の名称や表記法は田中(1993・96・2005)を参考に一部改めた。本論と佐藤(1989)・田中(1993)における分類を比較すると表1のようである。田中の諸式のうち付属語が有核のものは(有)、無核のものは(無)で表した。佐藤論文や本論が「結合アクセント型」と「アクセント結合形式」の違いより分類しているのに対し、田中論文は「式(前の語からの音の相対的高低関係上の続き方)」の 違いにより分類している。本論では、自立語と付属語の結合規則を3形式7種に規定した。まとめると表2のようになる。

表1 諸論文における付属語アクセント結合規則の分類と比較
表2 自立語と付属語の結合規則

2.アクセント結合規則

(1)付属語支配型

 付属語支配型は、自立語のアクセントに関わりなく、付属語のアクセントが実現するものである。自立語はまったくアクセント的影響を及ぼさない。付属語のアクセント型により、さらに次の3種に分けられる。

 ①無核型

 無核の付属語が接続し、結合語も無核となるものである。従属型(後述)と区別するため、「-▷▷^」と表記する。
・ウル+-テマウ^ → ウッテマウ〈売ってもらう〉
・カ]ク +-テマウ^ → ケァーテマウ〈書いてもらう〉

 ②有核型

 有核の付属語が接続し、結合語も有核となるものである。「-▷]▷」と表記する。
・ウル+-テァ]ー → ウリテァ]ー 〈売りたい〉
・カ]ク +-テァ]ー → カキテァ]ー〈書きたい〉

 ③共下型

 その付属語の1拍前から下がるものである。田中論文の「共下式」にあたる。「-]⊖▷▷」と表記する。
・キル+-]⊖ヘン → キ]ーヘン〈着ない〉
・デ]ル +-]⊖ヘン → デ]ーヘン〈出ない〉

(2)自立語支配型

 自立語支配型は、自立語のアクセントが実現するものである。付属語が結合語アクセントにどのような影響を及ぼすかにより、さらに次の3種に分けられる。 

 ①不完全支配型

 自立語が有核である場合には付属語のアクセントは実現しないが、自立語が無核のとき付属語のアクセントが実現するもので、「-▷▷」と表記する。
・ウル+-ケァー → ウルケァ]ー〈売るかい〉
・カ]ク +-ケァー → カ]クケァー〈書くかい〉

 ②融合型

 不完全支配型とは反対に、自立語が有核である場合には付属語のアクセントが実現するが、自立語が無核のとき結合語も無核となる。田中論文の「声調式」にあたる。「-▷”▷」と表記する。赤坂方言ではみられない。
・ワラウ+-セ”ル → ワラワセル〈笑わせる〉(東京方言)
・タベ]ル +-セ”ル → タベサセ]ル〈食べさせる〉(東京方言)

 ③従属型

 自立語のアクセントが結合語のアクセントとなるもので、付属語はまったくアクセント的影響を及ぼさない。「-▷▷」と表記する。
・ウル+-ト → ウルト〈売ると〉
・カ]ク +-ト → カ]クト〈書くと〉
 京都方言のハル(尊敬)は、助詞カ・トなどと同様、従属型とした。
・ウル+‐カ → ウルカ〈売るか?〉(京都方言)
・ウル +-ハル → ウラハル 〈売りなさる〉(京都方言)
・カ[ク +-カ → カク[カ 〈書くか?〉(京都方言)
・カ[ク +-ハル → カカハ[ル 〈書きなさる〉(京都方言)

(3)独立型

 自立語と付属語がそれぞれ独立し、互いに影響が及ばない。「-#▷▷」と表記する。
・ウル+-#ゼ]ー → ウルゼ]ー 〈売るぞ〉
・カ]ク +-#ゼ]ー → カ]クゼ]ー 〈書くぞ〉
・ ア]カイ+-#ラ]シー →ア]カイ-ラ]シー 〈赤いらしい〉(京都方言)

【参考文献】
佐藤大和(1989)「複合語におけるアクセント規則と連濁規則」(杉藤美代子/編『講座日本語と日本語教育』2 、明治書院)

杉崎好洋(2005)「岐阜県大垣市赤坂方言の付属語アクセント~岐阜県大垣市赤坂方言の記述的研究(6)」『名古屋・方言研究会会報』22

杉崎好洋(2021)『岐阜県大垣市赤坂方言の記述的研究』三恵社

田中佳廣(1993)「アクセント論と付属語のアクセント解釈」『都大論究』30

田中佳廣(1996)「京都方言付属語アクセントの記述的研究」(平山輝男博士米寿記念会/編『日本語研究諸領域の視点』下、明治書院)

田中佳廣(2005)『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』おうふう







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