【ネタバレ全開】夜のクラゲは泳げない 第9話の感想

この熱が冷めないうちに書き留めておこうと思い記事を出します。
いや、すごい作品に立ち会ってます。
本当に嬉しくて苦しいです…。

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元々第9話は花音役の高橋李依さんが非常に推していた回で、8話までが終わって明らかにターニングポイントとなる回というのは視聴者にも予想がついていたものでした。
僕はいつも録画を見ていたのですが高橋さんの言葉を信じてリアタイすることにしました。

視聴してまず思ったのは、しんどい、でしょうか。
年端も行かない少女たちに背負わせる試練にしては重すぎる、あまりに苦しい展開に唇を噛み締めていたら血の味がして驚きました…。
ほんとの話です。

今回のサブタイトル『現実見ろ』はもちろんメロが運営していた暴露アカウントの名前、ですが意味は別にもあるのでしょう。
僕の解釈は後ほど書きます。
今回はまひると花音、物語の中心となる二人にしっかりフォーカスされたエピソードです。
なので二人の視点から感想を書いていきたいと思います。

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まずはまひるの視点から。
まひるは元々過去の出来事から特別であることを恐れ、人に合わせて上手く生きる『泳ぎ方を忘れたクラゲ』のようなどこにでもいる女子高生でした。
しかし花音と出会い、キウイやめいとJELEEの活動をしたことでそれが少しずつ変わっていき、一年経って自分の気持ちをしっかり伝えられるように成長しているのです。
自分の苦い過去にもケリをつけるためクラゲの壁画に堂々とした字で海月ヨル、と書き込んでいました。
そして今回花音に「自分のことが嫌いだったけど、絵を描いている時は好きになれた」と正直な気持ちを吐露しています。
第1話のまひるからは想像出来ない進歩です。

そんなまひるに飛び込む依頼は私情を挟まなければステップアップする大きなチャンスであり、殻を破ったまひるにとって願ってもない機会でした。
しかし、その依頼者が雪音さんだったということが問題になってきます。
その辺りのことは花音の項で書きますが、まひるの前には『今とても楽しいJELEEの創作をする』か『違う世界に飛び込んで自分を試す』かの二択が提示されました。
これを言い換えれば『花音たちと今まで通り楽しくやる』か『花音と大きな因縁のある人たちの依頼を受ける』になります。
あまりにも残酷な二択、特にまひるというより花音にとってこの選択は精神的に大きく揺らぐことでしょう。

そして、まひるは雪音さんと仕事をすることに決めました。
この選択は何も間違っていません。
僕はそう思います。
もちろん感情論で言えば大切な友達の花音の気持ちを考え断るということも出来たでしょう。
ここでのしかかってくるのがタイトルの『現実見ろ』です。
キウイの言う通り、こんなチャンス、二度と来ないなというのは間違いではないでしょう。
イラストの道に進むにあたって、芸能界で活躍している人物に評価され、たくさんの人が行き交う渋谷の街のイベントを任される。
そんな依頼を逃す手はありません。
そして皮肉なことにこの一年間でまひるを成長させてこの決意をさせたのは他ならぬ花音なのです。
あまりにやるせないですね。
そんな花音は、決意を語ったまひるに絶対に言ってはならなかった言葉をかけてしまいます。
それを聞いたまひるの表情がオンエアを見てから2時間経った今も頭から離れません。

花音の感情が詰まった特殊エンディングは思わず涙が出てきました。
悲しみというより、悔しい気持ちが大きい涙でした。
8話分の積み重ねがこうさせるのでしょうね。
この二人が楽しく、時に問題にぶち当たり、前に進んできたからこそ出る悔し涙だったのだと思います。
ここまで感情移入させてくれる作品に出会えて、とても幸せなことなのだと今落ち着いてから思いました。

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次は花音の視点からです。
まず前提として、花音はまひると対照的な部分があります。
仲間を作って、フォロワー10万人も達成して、好きな歌をたくさん歌って、一見上手く行っているように見えます。
しかし、花音自身はあまり変われていないのです。
キウイも、めいも、そしてまひるも自分の過去にケリをつけて前に進もうとしています。
しかし、花音はどこかはっきりせず、未だ過去に囚われたままなのです。
厳しい言い方をすると大きな成長が見られません。
しかし花音一人でどうにかなるレベルの過去ではありませんし、本人もどうしたらいいのかわからない、諦めている部分もあるのでしょう。

その過去について。
まずアイドルになるまでのシーンですが、僕の目には正直ホラーチックに映りました。
雪音さんはやり手プロデューサーであることは間違いないのでしょう。
しかし、娘に親の独りよがりな夢を背負わせているような生々しい嫌悪感を覚えました。
嫌悪感と言っては言葉が強いでしょうか、恐怖感という言い方でも良いです。
現在でも『ののか』と呼んでいる辺りにも大きな闇を感じ、鳥肌ものでした。
そして、真に恐ろしいのは血の繋がりを感じる場面が多くあったことです。
耳元で囁く仕草、雄弁に語りながら顔をグッと近づける動き。
まひるが一瞬感じたように、花音の癖は当然雪音さんから受け継がれているものなのでしょう。

そして、暴行事件の顛末はある程度予想通りで少しホッとしました。
何かしらの義憤に駆られた花音の衝動的な行動、と予想していましたがその通りでしたね。
いかにメロが悪質なことをしていたとしても暴力に訴えるのは決してあってはならないことです。
しかし、花音は誰よりも活動にストイックだったという話が美音お姉さんからもあったようにどうしても許せなかったのでしょう。
メロもメロでどんな手を使ってでも成り上がりたかったということは理解出来ます。
そしてもちろんそれはニュースになり、花音が『現実見ろ』で見ていた不祥事を起こしたアイドルと同じようになってしまったわけです。

少し時は巻き戻り、花音が初めて歌詞を書いた『カラフルムーンライト』はまひるの描いたクラゲの壁画にインスピレーションを得たものでした。
憎らしい演出です、本当に巧い、そしてしんどい。
美音の部屋に転がり込んだ花音もまた『泳ぎ方を忘れたクラゲ』だった時間を過ごしていたのでしょうが、そのまひるとの出会い、JELEEの活動。
また世界が色づくような経験だったのではないのでしょうか。
そんな花音に『現実』が突きつけられます。
相棒とも言える存在になっていたまひると、確執のある母とサンドーが仕事をする。
まひるは自分にとってチャンスなので受けたいと言ってきている。
もちろん花音が激昂するのは突然です。
自分を一度どん底に追いやった人々なのですから。
しかし、勢いから出た言葉でその大切な人であるまひるを大きく傷つけてしまった。
これもまた、悪いことではないんです。
正確には出てしまって仕方のない感情なんです。
初めてと言っていい最も信頼のおける友達、推し、大好きな人。
その人が自分のやりたいことより自分を蹴落とした人たちに頼まれたことを優先した。
花音視点ではそう映るわけです。
この時点でまひるは花音がどんな過去を持っているかを詳しく知りませんので、花音の想い全てを受け取ることも出来ません。
しかし、花音は感情的になってまひるがずっと気にしていたところをつついてしまいました。
二人とも悪くない、選択が間違っているわけでもない。
二人を縛るのは花音の過去と雪音さんの存在でしょう。

サブタイトルの『現実見ろ』はまひるに対する言葉というのが一つ。
まひるはJELEEの活動を楽しくやるという理想の前に落ち着いて将来を考え現実的な選択をした、ということなのでしょう。
そしてもう一つが花音に対してです。
花音は物語開始当初から一貫して理想を語っていました。
理想を語り、ブレない。
歌で見返してやるという心持ちでした。
しかし、JELEEの活動を通してファンも増えてそういったものも薄れていき、少し燃え尽き症候群のようにも見えていたところにまひるの大きな選択が。
メロのアカウント名という意味だけでなく、その過去も今も含めて花音には現実を見る時が来たという意味合いが込められているように感じました。

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第1話ではすぐに謝って解決出来たまひると花音のギクシャク。
それ以降は仲の良いシーンばかりで特に描かれませんでした。
そして今、お互いをよく知って、それぞれの事情があるからこそ今度は関係に大きな亀裂が入ってしまったことは間違いありません。
二人、いや四人がまた宮下公園で笑っていられるような、そんなエンディングを期待しながら視聴を続けたいと思います。

書き殴ったもの、読んでいただきありがとうございました。

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