『ウィンドアイ』ブライアン・エヴンソン

行きて帰りし物語ではなく、行ったまま帰ってこない物語、時には帰ってくることもあるが、決定的な変質、欠損があり、かつての彼、彼女、自分自身ではなくなってしまっている。

先に翻訳の出た短篇集『遁走状態』と同様、ジャンル小説とも主流文学ともつかない作品ばかりが収められている。ジャンルということでいえば、本書に収録された作品はホラー寄りのものが多い。が、ホラーというジャンルがもたらす恐怖とは違う恐怖も作品の中に忍び込んでいる。生の乾いた感触。どこの国のどんな作家かも知らない頃、カフカという文字列に対して感じた渇きの感覚。

暴力、身体欠損。無感覚ではない。鈍さは感じられない。苦痛は鋭敏に感じている。では、語りのこの酷薄さはなんだ。

「問いを発しても意味はない。世界は野蛮であり、人生は、たまさか生じるとしても、短い」


海外文学の叢書でも微妙に趣味の合わない新潮クレストブックスの中でエヴンソンだけは好みのど真ん中だ。

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