カープダイアリー第8236話「敵地、甲子園、西勇輝9回128球、そして守護神・栗林フォーク5連投の末のエンディング…」(2023年4月18日)

4万人を超えるファンの声援が交錯する中、打球は前進守備から懸命に追いかけるレフト龍馬の先で弾んで転がった。阪神ナインが一斉に飛び出す中、マウンドの栗林は両手を膝について敗者のポーズになった。

九回、ツーアウト満塁ボールカウント2―2からの9球目をWBC戦士・中野に弾き返された。

ほんの3日前にはマツダスタジアムでヤクルト相手にサヨナラ勝ち。ツーアウトランナーなしからの劇的2ランを放った秋山は、しかし翌日のお立ち台で「ほんとにいい空気だからこそ閉めるところは閉めて、しっかりしたプレーをみんなでやっていきたいと思います」と“警鐘”を鳴らしていた。
 
カープOB会長の大野豊さんも「あとは遠征でどう戦うかですね」と課題を口にしていた。
 
新井監督にとっても特別な思い出の詰まる甲子園での阪神戦は始まったばかりのペナントレースの厳しさを改めて教えてくれる場所になった。
 
初回から八回までは両軍ゼロが並ぶ、見応え十分の投手戦。ただし、トータルで見た場合には阪神ベンチの方が勝てる可能性を選手からさらに引き出したのではないか…
 
この日と同じく九里と西勇輝の両先発で始まった4月4日のマツダスタジアム。七回、坂倉に2ランを打たれたところで勝ち投手の権利を持ったまま降板した西勇輝はしかし八回、試合が振り出しに戻り勝ちが消えた。
 
右腕は一週間前の東京ドームでも投手戦の末、勝てなかった。
 
だから「何とか九回も行け!」と岡田監督から続投指令が出た。結果は二死三塁から高目に浮いたチェンジアップをライアンに振り切られるレフト線二塁打で失点。スタンドから大きなため息…
 
続く打席には龍馬。もう1本出ていれば勝敗は決していただろう。アウトコースいっぱいにチェンジアップが決まって見逃し三振…
 
かつて岡田監督の下でプレーした新井監督は1点を守り切るために守護神に託すだけとなった。ほかに選択肢はない。
 
先頭の代打糸原をフォークで見逃し三振に仕留めたあと、しかし栗林の変調が浮き彫りになった。梅野、木浪に連打されて二、三塁となり、代打渡邉はカーブで見逃し三振に取ったものの一番近本にはボールカウント3-1。申告敬遠で満塁勝負になった。
 
すでに19球を投じそのうち11球がフォーク。ボールになったのが4球、ヒットゾーン似返されたのが1球。いつもより落ちが悪いものが多かった。
 
甲子園が嵐のような歓声に包まれ、9回128球を上げた西勇輝と7回無失点ピッチングの九里が打席の中野との最後の対決を見守る。その表情に曇りなし。
 
初球154キロがボールになったあと坂倉のサインに頷きながら、あるいは首を振りながら選択したのはフォーク5連投。ファウル、ファウル、ショートバウンド、ファウル、ファウル…5球目のファウルのあと中野の背中が「手ごたえあり」と言っているようだった。
 
次に来た高目の153キロをファウルにした時も同じだった。両チームのことを知り尽くしている岡義朗さんは放送席で「投げる球がなくなった」と自身の解説を締めた。
 
今度はどちらを選択するか。
 
152キロ低目の真っ直ぐで空振り三振…スタンドからは悲鳴が上がったがファウルチップ…ミットに弾かれた白球が坂倉の膝元にポトリ。
 
捕っていればゲームセット。
 
ラストショット、9球目のフォークは快音とともに決着弾にすり替わった。
 
西勇輝が中野とともにお立ち台に上がった日、栗林にはまた手痛い黒星がついた。4日のマツダスタジアムでも九回、粘る中野に四球を与えて、大山に決勝二塁打を許した。
 
その後はチームがマツダスタジアムで7連勝をマークする間に4Sを挙げて敗戦のショックを拭いかけていたのに、また振り出し…
 
阪神は、巨人に2-0勝ちしたDeNAと同率首位に浮上した。
 
ビジターで1勝5敗となったカープ首脳陣は、1点リードで九回裏を迎えることの怖さ、難しさを今後に生かすことになる。

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