カープダイアリー第8225話「コイに焦がれて501勝…」(2023年4月7日)

開幕早々から聞こえてくる、ファンやメディアの新井采配批判の声。広島はもう葉桜の季節を迎えていた。

2日続いた雨が上がり、冷え込むマツダスタジアム。身を縮めて声援を送るカープファンを熱くする、新井カープ本来の姿がくっきりと浮かび上りは始めた。

手を叩く合図、勝つぞサプライズ…コイに焦がれて501勝目…

全選手の中で一番指揮官に近い立場の大瀬良は五回までで92球。2試合連続のDeNA戦完封負けを受け、大幅に入れ替えてきた巨人打線相手に、初回の二死一、三塁は踏ん張ったものの二回には七、八、九番に連打されあっさり1対2と逆転を許した。

三回は二死二、三塁、四回は二死一塁、五回は一死一塁。毎回安打を許し、与四球も2。3対2、1点のリードで迎えた六回のマウンドも、先頭の大城遊ゴロエラー出塁、続く吉川四球(のちに代走オコエ)で、送られて一死二、三塁になった。

一番に戻って二十歳の中山、は原監督の勝負手だった。一番梶谷3試合、オコエ2試合、長野1試合を試したあとの今季初スタメン。開幕メンバーが昨年と比べて半分以上も入れ替わった巨人もまた試行錯誤…

第1打席はフォーク中前打。第2打席はカットボールライトライナー、第3打席はカットボール左前打。

ここまで劣勢のこの対戦では、2試合ぶりにスタメンマスクをかぶる坂倉の腕の見せ所にもなった。2ボールとなってカットボール。内角球で詰まらせてショートフライ。原監督は苦笑いだった。

続いてこの日二ゴロ、見逃し三振、空振り三振のブリンソン。2ボールになってスタンドから拍手、フルカウントになってさらに大きな拍手。6球目、この日トータル110球目で空振り三振に仕留めてバッテリーでガッツポーズ!全球外角に集めるスライダー、カットボールだった。

新井監督も吠えながらガッツポーズを決めた。選手と同じ目線、選手とのコミュニケーション、そして選手とは以心伝心。両軍ベンチ指揮官のリアクションの違いは、その後の展開を暗示してもいた。

最低ノルマの7回まで投げ切ることのできなかった選手会長に代わってその裏、打席には堂林。スタメン予定だった阪神戦が雨で流れて開幕6戦目で出番となった。二死無走者。マウンドには、坂倉、田中広輔の左打者ふたりを4球で料理した大江。

その3球目を振り抜くと打球は低い弾道でレフト上階席前の広告スペースに当たり跳ね返ってきた。ベンチ前の大瀬良が両手を突き上げ、ベンチの新井監督がまた大きな声を2度上げた。

中継ブースではOBの達川光男さんが決めゼリフを吐いた。「新井采配ズバリ!すごいね堂林」

勝つぞ、サプライズ!

それが新井カープ、だ。

大瀬良と同じように堂林もまた、選手時代の新井監督に何度も救われてきた。断られてもしつこく迫り、メディア報道でも知られる護摩行に帯同したり、打撃スタイル自体を固めるヒントを求めてきた。

だから新井監督は大瀬良の粘投と同じように堂林の今シーズン初打席での一発に喜びを爆発させた。いちいちそんなことをやっていては身がもたないし、何より先々を読む采配にも支障を来す。

だが、自身の反応に素直であれ、が新井流の極意。堂林を出迎える時も「よっしゃー!」と叫び、その頭をポンッと叩くことを忘れなかった。

ターリー、松本竜也、最後は栗林。雨に救われた前夜のコールドゲームを除けば、初めてブルペン陣が失点なしで試合をまとめることもできた。大瀬良に勝ちがつき、栗林にセーブがついた。

試合後、今季初のお立ち台には大瀬良、堂林とともに勝ち越し犠飛のマットが上がった。

「何とかチームの勝利に貢献したかった。このスタジアムの雰囲気はとても素晴らしく、凄い景色が目に飛び込んできます。これからもここに立てるようがんばります」

“出戻り”した新井監督が現役時代に目の当りにしたのは、マツダスタジアムでの無類の強さだった。トラブル続きとなった緒方監督のラストイヤーと、コロナ禍に見舞われた佐々岡監督の3シーズンで失われつつあった赤い心のエネルギー。そんな大切なものを取り戻すためには、明るさや意外性、可能性、表現力、スマートさが必要だ。

WBCで頂点を極め、今も海の向こうで旋風を巻き起こす大谷翔平はスーパースターに必要なこうした要素を兼ね備えている。ファンの目を引き付けるのはそういう存在だ。

接戦を勝ち切っていくことで選手たちもそれに気づいてくれるはずだ。「かっこいいじゃん!」新井監督が堂林にかけたこの一言には大切な意味が込められている。

試合後の新井監督の話

-デイビッド選手が勝ち越し打点

「マットも試合をこなす中でだんだんと対応して、微調整しながら彼本来の打席が増えてきているのでね」

-(三回の2得点で)野間がいいつなぎ役に。

「彼の二番に彼の置いて足を使いたいし、またしつこいバッティングをしてくれるので何かことを起こしてくれるのを期待しての起用です。良かったと思います」

-堂林選手が期待に応えてくれた。

「かっこいいですね。オープン戦の時から(ヒットは出ないが)打席の内容は良かったんですね。フォアボールでも出てましたし、少ない打席だったので率は残ってなかったですけど(21打数4安打、打率・095、4四球)しっかり捉えた打球が正面に行ったり、私は彼のバッティングの内容は良かったと思っていましたので、今シーズン初打席、貴重な追加点になるホームランですからね…、彼にも言いました、かっこいいじゃん、と…(笑)」

-ファンへ。

「きょうもたくさんのファンの方にたくさんの声援をいただいて選手もね、すごく力をもらったと思います。またあしたもよろしくお願いします」

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