カープダイアリー第8234話「マツダスタジアム雨の物語、野球の神様に試されて、田中広輔満塁弾首位浮上」(2023年4月16日)

WBCで頂点に立った栗山英樹監督は「野球の神様」を信じている。

そして旧広島市民球場のことを大切に思っている。

広島にも「野球の神様」がいるはずだ。

だから雨続きの“宿敵”ヤクルト3連戦で一塁側ベンチがどんな戦いを見せてくれるのか、試したのだろう。きっとそうだ。

午後1時31分プレーボール。まだ前日のサヨナラ勝ちの余韻がグラウンドにもスタンドにも残っていた。

前回、勝ち投手になり意気揚々とマウンドに上がった玉村は、しかしいきなり先頭の濱田に内野安打を許した。小飛球が突っ込んできたショート田中広輔の前にポトリと落ちた。

そうしたらまた雨が落ちてきた。3日連続。広島市内は正午過ぎまで青空だった。

「野球の神様」に最初に試された玉村はそのあと41球を投じて5点を失った。

「サヨナラ勝ちで調子に乗っていないか?こういう展開の場合、ベンチはどうする?」そんな声が聞こえてきそうだった。

四回、先頭の秋山が一塁線を破って激走、三塁打。前日の左前打とサヨナラ弾、この日の第1打席の中前打と合わせて4打席連続ヒットで反撃のノロシ…

ただし続くライアン犠飛による1点止まり。ヤクルトベンチはプロ3度目の先発となった吉村の投球内容を見極めつつ交代のタイミングを先送りにした。

カープベンチは四回から継投策。アドゥワがイニング跨ぎで五回を投げ終えるとカミナリの音が聞こえてきた。強い雨になる濃い色の雲がすぐ近くまで来ていた

その裏、雨脚が強まる中ではわずか6分でスリーアウトになった。ここで粘って雨でノーゲーム、というパターンもその時点ではあり、のはずだった。

すぐに内野とマウンドにシートがかけられ試合は中断した。

49分後の午後3時59分に試合再開。3番手のケムナは一死一、二塁のピンチを迎えた。ここで濱田のヒット性のフライを一直線で真後ろへ走った菊池がミラクルキャッチした。

その裏、先頭の秋山がまた右前打で出塁。ライアン中飛、龍馬右前打、マット空振り三振、坂倉四球で二死満塁になった。

打席には9日の巨人戦で1号ソロをライトスタンドに運び「なんか懐かしいような」お立ち台に玉村らと上がった田中広輔。

高津監督はこの回が始まる前から、どんよりとした曇り空を見上げて嫌な予感がしていたはずだ。だからブルペン陣には万全の準備をさせた。吉原を救援したのは開幕から7試合で被安打1、自責ゼロの星だった。

前日も五回のマウンドで、大盛・中直、秋山・空振り三振、ライアン空振り三振、とカープ打線の前に立ちはだかった。神宮での開幕1、2戦でも自軍ベンチの期待に応えた。

不思議なことにこの時間帯になると、また強い雨を降らすはずだった雨雲のコースがマツダスタジアム周辺を割けるように南寄りにズレた。

与えられたチャンスで田中広輔が最高の仕事をやってのけた。初球フォークを見送ったあとの真っ直ぐを差し込まれないように前で捉えてライトポール際、スタンドイン!

「よっしゃーっ!」ベンチでは右手を突き上げなから新井監督がまたスタンドに負けない絶叫マシーンと化していた。ヒーローも一塁を回ったところでガッツポース…

「ここで打たなきゃ男じゃないと思って、思い切りいきました」(お立ち台の田中広輔)

だが、この話は同点グランドスラムだけでは終わらない。

続く七回には、田中広輔にスタメンの座を追われた形の小園が3人目の石山から右中間を破る三塁打。ここでもまたガッツポーズが出た。秋山が申告敬遠のあとライアンの犠飛でとうとう6対5と勝ち越した。八回には投手陣を「スミ5」で粘り強くリードしてきた坂倉が2号ソロをライトスタンドに打ち込んだ。

雨の中の3度の戦いに敗れた高津監督は首位から4位まで順位を下げ、新井監督は首位に立った。

広島のサクラが満開から葉桜に変わるわずかの間で本拠地ではこれで7連勝。無観客試合や声出し応援自粛を経て、大歓声に包まれるマツダスタジアムで、現役時代に「空に向かって打て!」の名セリフを残した新井監督の生き様を、選手たちがやってのけ「野球の神様」も頷く「逆転の広島」が戻ってきた。

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