悪徳大臣(略)5

「おはようございます」


健やかな朝だ。

牢屋みたいに陽がささないジットリ感はなく、ふかふかのベッドで目覚めた私は足取りも軽やかに屋敷の一階に降りていった。


「大丈夫なの?ジョセフィーヌ」


昨夜は突然失神してそのまま寝落ちしてしまったので、公爵夫人は大変心配そうにハンカチを握りしめていた。


「大丈夫です」


元気いっぱいに答えようとしたが、握りこぶしを口元に当てて私は震えてみせた。

睡眠時間たくさんとれてハツラツそのもの。

今から外へヒャッホーイとスキップしながら走り出したいくらいに爽快な気分だが、一応厄介事は遠ざけたい。


「ど、どうしても陛下のもとにいかなければならないのでしたら、私」


ここで私は顔を両手で覆った。

おい、か弱くて若い娘を魑魅魍魎が跋扈する王宮へと送り込む気かよ?

ちらりと指と指の間から公爵夫人の様子をうかがえば、ハンカチを握り締め、かわいい養女の心を気づかっている。


「よいのよ、ジョセフィーヌ」


公爵夫人は毅然とした態度になった。


「わたくしから陛下にお断りしましょう」


「ほんとう、ですか?」


私は畳み掛けた。


「そのようなことをすれば公爵様、公爵夫人様に御迷惑が」


わざとそんなことを言ってみた。

公爵たちが娘を差し出そうとしていたとしても、罪悪感でさいなまれるように、わざと。

我ながら性格が悪い。

しかし、この老公爵夫妻は驚くほど人が良いはずだ。


「よいのですよ」


にっこり公爵夫人は微笑んだ。


「陛下がご無理を通そうとなさるなら、風の塔から使者を出してもらいます。わたくしの妹が塔の長をしておりますから融通はききますの」


風の塔。

魔道士たちや学者が研究などのために集う塔。

ここには王宮も神殿も手出しはできない。

公爵夫人のご実家は風の塔の関係者だったのか。


「それでも陛下がお聞き届けにならないときは」


公爵夫人は笑みを増した。


「わたくしの姉が隣国に嫁いでおりますの。甥がそこの国王。そこからも使者出してもらえば、オホホホ」


さすが、魑魅魍魎渦巻く王宮と関わりながら、公爵家を守ってきた女性だ。

人が良いだけではないってことだ。