悪徳大臣(略)13
自分では制御できないくらいに涙が流れ、頭の中がぐるぐるし始めて、気づけばベッドの中。
泣きすぎたせいか目の端が痛くて仕方ない。
見回せば、多分夜。
闇の中に一人ポツン。
ところでユリウスって誰やねん。
考えても答えは出ないし、喉がかわいたので起き上がった。
少しだけ開いていたカーテンから差し込む月の光を頼りに、テーブルにたどり着いた。
水差しがおいてあったので、カップに注いで、ゴクリと飲み込めば、一息つけた。
“私”の記憶が曖昧にしてもわからないことが多すぎる。
まず、ジョセフィーヌ嬢の素性が今ひとつ掴めていない。
ジョセフィーヌとして過ごすにしても、彼女の生い立ちを知らないといけないだろう。
“私”が知っているのは、事故で家族を亡くしている。
コール公爵家に引き取られた、ということはそこそこ名のある家の娘だ。
公爵家と縁があるにしても、夫妻のどちらかと親しい関係でなくてはならぬだろう。
子供のいない二人が養女とするのなら、身分や地位の低い貴族の娘ではない。
これからどう立ち回るべきか、情報がほしい。
窓辺から外を眺めながら、思案していると、ドアをノックする音がした。
「ジョセフィーヌさま?」
ドアの向こうから小声で問いかけられた。
「はい?」
「入ってもよろしいでしょうか?」
「ええ」
この声には聞き覚えがあったから、入室をゆるした。
「失礼いたします」
正妃に拝謁した際に、案内してくれた女官だろうと思ったら、やはりそうだった。
きちんと髪を結った女官は目つきをきついが、優しげな声だったので、印象に残っていたのだ。
正妃から信頼されている様子だったので、龍族だろう。
私の身の回りの世話をする係に任命されているようだった。
「お加減はいかがでしょうか?明かりをつけてもよろしいですか?」
「はい。目が覚めましたのでどうぞ」
暗闇の中で女官は手を振ると、部屋の灯りが点った。
おお、さすが龍族、魔法が使えるらしい。
「まあ」
明るい中で私の顔を見た女官は口元に手を当てた。
泣きぬれて目元が腫れ上がっているのを目にしたようだ。
「混乱していますの」
私は正直な気持ちを述べた。
「あなたさまは私の事情をご存知ですか」
「ええ、一応は聞いております」
「どういうふうにきいています?」
「それは」
「同情しましたか?」
簡単に口を割るとは思わなかったが、昔取った杵柄、揺さぶりをかけてみる。
「こんな目にあって可哀想と思いました?」
「ジョセフィーヌさま」
「いいのです。すべて事実なのです」
揺れてるな。
なので追い打ちをかけるためにぽろりと涙を一筋流して見せた。
「わかっているのです。だけど、気持ちを抑えるために、第三者から自分のことを聞きたいのです。お願い、教えて下さいませんでしょうか」
「わかりました。お話しましょう」
女官は戸惑っていたが、しばらくしてうなづいた。
「私は不調法者ゆえ、歯に衣着せぬ物言いしかできません。それでもよろしいなら」
よーし。
君から情報を得ることにしよう。