悪徳大臣だったけど生まれ変わったら農業でもやりたいです。1

うららかな午後だった。

心情としてはそうなのだが、実際私を取り巻く環境はし烈だ。

病床で見上げて目に映るのは石の天井。

きこえるのはネズミの鳴き声。

先祖代々引き継いだ大臣の役を反逆罪で取り上げられ、牢屋に押し込められてからほぼ一年。

若く美しい妻は命乞いをして神殿長の愛人となり、親戚たちは神殿に逃げ込み、私とのつながりを断ち切った。

そもそも王暗殺を企てたのは妻と親戚たちだったのだ。

私が清廉潔白な人物だったとは言わない。

早くに亡くなった父の跡を継ぎ、要職についた私は業者と癒着したりと小金稼ぎに勤しんできた。

先祖代々、悪徳大臣。

割に金勘定が得意な家系だったので、有能は有能。


歴代の王たちも私の家の小さな悪事を見逃してWin-Win。

そうやってずっとうまくやってきたのに。



王への反逆罪は死刑。

しかし、祖父が王家の血を引く姫を妻に迎えたせいか、黒幕は別にいるとわかっているせいなのか、王は私を処刑することをためらっているようだ。

私を生かしておくことはいずれ災いの火種となるので、食事に少しずつ 少しずつ毒がもられている。

温情からか、苦しくはない。

緩やかに死へと向かっているのが、私の気持ちは捕まってから晴れやかだ。

もとから小心者。

悪事を働く一族の頭として生きるのは正直荷が重すぎた。

やりたくないことをやらなきゃいけなかった。

それが投獄されたことで開放され、今は穏やかに最期の時を待っていた。


心残りがあるとしたら、王のことだ。

小悪党な私でも主君である王をお守りしたい気持ちは誰よりも負けないくらいに強いのだ。

私の妻だった女はまた王の命を狙うだろう。

それを止められないのが唯一の気がかりだ。



『それならもう一度やり直してみる?』


耳元で声がした。


『あなたの祖母には恩義があるの』


目を開けてもそこには石の天井が見えるだけ。


『どうする?』


「王をお助けできるなら」


乾いた唇で私は答えた。

それが“私”が私であった最期だった。