悪徳大臣(略)18

公爵家で暮らしで時折忘れそうになるが、“わたし”は王国と竜族から追放された両親の娘。

コール公爵の後ろ盾があるにせよ、“わたし”を迎え入れることは王の右腕であるユリウス様には得にはならない。


ユリウス様は困ったようにくせ毛の頭を手で押さえた。


『小娘の戯言とお聞き流し下さいまし』


“わたし”は目を伏せた。

これ以上、ユリウス様の困惑した顔を見ているのは辛かったからだ。


『ジョゼフィーヌ嬢』


おさえきれない想いが頬を涙となって流れ落ち、“わたし”はハンカチで顔を覆った。


『申し訳ございませんでした。ご迷惑をおかけして。忘れてくださいまし』


『ジョゼフィーヌ』


呼び捨てにされて、思わず顔を上げた。


『あなたは若くて、美しく、聡明だ』


いつも笑みを浮かべたユリウス様の瞳が悲しげに揺れていた。


『わたしはあなたよりかなり歳上。しかも名目上でも妻子がいる。あなたは御自分を過小評価されているようだが、世が世ならわたしはあなたの足下で平伏するしかなかったかもしれない』


『ユリウス様』


『わたしはあなたのお父上にお会いしたことがある』


『父と?』


『良き騎士であられた。皆が尊敬し、憧れの存在でしたよ』


『しかし、両親は王家と竜族を裏切って駆け落ちした罪人なのです』


『全てを捨て去ってまで愛せる相手がいるのは罪ではないですよ、ジョゼフィーヌ』


『それなら』


“わたし”は震える手を胸元で握りしめた。


『それが罪でないというなら、誰に嫁ごうとも心はユリウス様、あなたに捧げます』