悪徳大臣(略)24
『ジョセフィーヌ嬢』
途端に私の言葉は歯切れが悪くなる。
『……ですか』
混乱してとっ散らかっていた記憶があるべき場所におさまり、私は“ジョセフィーヌ嬢と過ごした日々”を思い出していた。
私にはもったいない女性だ。
ジョセフィーヌ嬢には幸せになってほしい。
なので、こんな内縁の妻や子(形だけ)がいて投獄されて領地やら家督やらなくして色々面倒事を抱えたおっさんよりは、前途有望な若者と結ばれてほしい。
ほしいのだけれど。
『後悔、しませんかねえ?』
誰が?、と二人とも私に聞き返さなかった。
『毒の治療はあと僅か。あとはそれぞれ正しいところに魂を戻すだけだ』
竜族の男はうなづいた。
『それならば、早急に貴方の希望に応じた屋敷を用意させましょう。農地つきの。うむ』
ぽんと閉じた扇子で正妃が手のひらを叩くと、一人の女官が空中から現れた。
『手配をよろしゅうに』
『はい、王妃殿下』
現れたのと同じく、一瞬で女官は消えた。
目の前の光景に言葉を失いかけたが、とりあえず、正妃に言わないといけないことがある。
『あの、勝手に話を進める前に、ジョセフィーヌ嬢にも確認しないと』
『はあ?』
竜族の長の弟は腕組みしたまま、私を睨みつけた。
そして、正妃はカツカツと靴の音を高らかにさせながら、近づいてきて、ぐいっと扇子を私の鼻先に突きつけた。
『い・ま・さ・ら』
それから腹から絞り出すような大声を出した。
『お前は何を言っているんだ!愚か者めが!』
これまで王宮で、そしてここ離宮で正妃と接してきたが、多少皮肉屋な点はあるが物腰の柔らかい御方だった。
『かったるいこと言ってんじゃねぇぞ!こらっ!』
『はいっっっ!』
自然と平伏してしまう迫力に圧倒された。
『わかってんのか、こらぁ!四の五の言わずにジョセフィーヌを幸せにしろや!この野郎!』
『はい!』
『よし!言質とったぞ!』
高らかに笑う正妃。
『ミーニャ、素が出てる』
ふう、と正妃の叔父が額に手を当てながら言った。
『お恐れながら、交換条件がございます。どうか陛下のもとにお戻りください』
私の申し出に正妃の整った眉がぴくりと動いた。
『城に戻るとしたら、腐敗した臣下たちを見過ごすことはせぬぞ?もちろん陛下にも容赦しない。歯向かったらボコボコにしてやろう。そして、我が一族がそなたの国を乗っ取るかもしれぬ。それでよいのか?』
『それは信頼しています』
私は即答した。
王は優柔不断で、世継ぎは生まれず。
できる臣下を退け、心地よいことを言う取り巻きだけを集め、汚職ばかりの今の王宮。
『頼りない私達の王をどうかお助けください』
竜族がこの国を手中に収めようとしているのならとっくにやってるはずだからだ。
『ふむ、仕方ないのぉ』
正妃は小さく呟いた。