悪徳大臣(略)21
『おじさま』
音もなく、女官の背後から正妃が現れた。
『今まで黙ってみてましたがまどろっこしい。私が説明いたします』
“わたし”は二人を見比べた。
ジョセフィーヌ嬢の母親は竜族の身分の高い家の出。
つまり。
『あなたたちはジョセフィーヌ嬢の血族かなにか?』
正妃は持っていた扇子を女官に向けた。
『わたくしは竜族の族長の娘。ジョセフィーヌ嬢とはもしかしたら従姉だったかもしれないかしら』
え?
“わたし”は女官だった者を見た。
いつの間にか、女官ではなく、一人の成年男性と姿をかえていた。
『ということは?』
『おじさまはジョセフィーヌ嬢のお母上の元婚約者。逃げた許嫁のことを思い、今も独り身のとても可哀想なわたくしの叔父上』
正妃の叔父といわれた男はほんの少し眉を動かした。
『そうだよ。彼女とは生まれた頃からの幼なじみ。我にしてみれば彼女は妹のようなもので、婚約させられたが家のため』
『昔話はここまでにいたします。貴方はこの状況が如何なる経緯だったかおしりになりたいのでしょ?ご説明いたしますわ』
ジョセフィーヌ嬢の両親の駆け落ちのせいで、この国と竜族の仲を案じ、王と正妃の結婚話が持ち上がった。
いざ、結婚してみれば、二人は別居状態。
そこで竜族から正妃の叔父が密かに派遣されてきた。
その割に王と正妃の対立は変わらず。
『それはそうですわ。おじさま、何もせずにここでだらだらとお暮らしになってましたわ』
『いやいや、貴女の命を狙う刺客は追い払ったよ』
王の側室問題により、正妃を亡き者にしようとする勢力があったそうだ。
『我の可愛い姪に手を出そうとは。影も形もないほどに消してやった』
竜族の族長の弟は低い声で笑った。
このことは聞かなかったことにしよう。