悪徳大臣(略)16
ユリウス様と初めてお会いしたのは秋の終わり。
コール公爵が陛下と近くの森に狩りに出掛けられた帰りに、ユリウス様を屋敷にお誘いした。
『やあ、はじめまして』
頭に葉っぱをつけたまま、ユリウス様は“わたし”に挨拶をした。
『ユリウス殿、御髪(おぐし)が』
『おや、失敬』
公爵夫人が小声で注意すると、ユリウス様は慌てて頭の葉っぱを払い落とした。
狩猟の装備のままのユリウス様は“わたし”よりひと周りほど年上。
少し垂れ目で、笑うと目尻にしわができた。
身だしなみに気遣うコール公爵を見慣れてきたせいか、ユリウス様の服装は言ってはなんだが、少々あか抜けない。
なんというか、抜けている。
ユリウス様は多忙だ、とは聞かされていた。
しかし、身の回りの世話をしてくれる人がいないのだろうか。
コール公爵家と対等な家柄、役職についているというのに?
なにかできない理由があって、それで“わたし”のような者でも家に迎えいれなければならないのだろうか、と考えていると、ユリウス様の視線が“わたし”の頭の天辺からつま先までおりて、また顔まで戻り、それから首を捻った。
値踏みされているようで、居心地が悪かった。
『コホン、狩りのご首尾はいかほどでしたの?』
“わたし”を見つめて何も言わないユリウス様に話を促す公爵夫人。
『狩りですか?ちっともです。わたしは文官ですし、そういったことはからっきし。この方面はコール公爵にお任せです』
『まあ』
『私が机にかじりついてばっかりいるので、陛下が気晴らしにお誘いくださったまで』
コール公爵夫人と会話しながらもユリウス様の目線は“わたし”にあった。
『公爵夫人、先日のジョゼフィーヌ嬢とのご縁談の話ですがお断りします』
ユリウス様は言った。
『わたしよりもっと若くて将来性のある男が良いと思いますので』
『なんと、本人を目の前にしてその物言い!』
いつも穏やかな公爵夫人が語気を荒め、ユリウス様に詰め寄った。
『いやあ』
ユリウス様は櫛が入れられたのがいつなのかわからない頭をかいた。
『年上で条件の悪いおっさんにはこんなに美しくて聡明そうなジョゼフィーヌ嬢は勿体ないです。ノートリアのことは公爵夫人もご存知でしょう?』
目を見開いた“わたし”の前にユリウス様は正式な作法でひざまずいた。
『ジョゼフィーヌ嬢、わたしにはノートリアという内妻と子供がいるのです。縁談を断る理由についてあなたになんの落ち度もない』
え?妻子もち?
ええええ?