悪徳大臣(略)9
王と正妃との仲違いは種族の違いというよりプライドとプライドのぶつかり合い。
最初の対面でのボタンの掛け違いだ。
龍族といっても正妃は人型。
龍化するのは一族の長のみなので、正妃の姿形は人間と変わらないのだが、王がそのことをからかったのだ。
『貴女にも尻尾はあるのかい?鱗の生えた尻尾が』
多分、まだ若かった王に照れがあったせいでの軽口だった、と思うのだが、同じく若かった正妃は激怒した。
すぐ謝罪すればよかったのだろうが、売り言葉に買い言葉。
『わたくしに尻尾があったとして、陛下はご覧になられるのかしら?そんなに背がお小さくてあられるのに』
その発言は当時、背が伸び悩んでいた王の癇に障った。
まだ十代のはじめ、正妃のほうが王の身長より高かった。
揉めた。
式を前に破談にしようか、とまで揉めまくった。
たしか、正妃の伯母だか叔母が、この国に嫁いでいて、その方のとりなしでなんとか婚姻の儀は行うことができ、はれてふたりは夫婦となった。
だが、そこから十年ほどが経ち、正妃の背を王が追い越しているのだが、口も聞かない、目も合わせない、もちろん閨も共にしない、そんな関係のままだ。
大臣だった頃は、二人の仲にヤキモキさせられたが、今の私はジョセフィーヌ。
正直、王宮のゴタゴタとはおさらばしたい。
側妃候補からはずれれば、お世継ぎ問題と関わることはなくなる。
ああ、それなのに。
「今の私はお忍びだ。身分だの体調だの、気にせずとも良い」
非常に見慣れた、くせ毛頭の若き王。
「はい、ありがとうございます」
なんで、陛下と食卓を囲まねばならんのだ?